【比較試乗】「ジャガーFタイプ vs アストンDBS vs ロータス・エヴォーラ vs ベントレー・コンチGT vs マクラーレン600LT」英国老舗ブランドの真価と進化

スポーツカーに電子デバイスは必要なのか

アストンマーティンの次に古い歴史を持つベントレーは今年で100周年を迎えた。コンチネンタルGTをスポーツカーと呼ぶかどうかは意見が分かれるかもしれないが、635ps/900NmのパワースペックはDBSスーパーレッジェーラに次ぐ数値で、最高速は333km/hと公表されている。いっぽうで室内は贅を極めたしつらえになっていて、手に汗握りながら峠道を攻めたい気持ちをいさめる煌びやかな雰囲気が漂う。

BENTLEY CONTINENTAL GT/ベントレー・コンチネンタルGT

言葉が少し悪いかもしれないけれど、コンチネンタルGTの乗り味は「気持ち悪いくらい気持ちがいい」。遠くのほうで控え目に存在感をアピールするW12ツインターボは、2トンを超えるボディをあっという間にびっくりするような速度まで運ぶ。クルマの雰囲気に呑まれて運転は自然とゆったりした操作になるものの、ターンインは素早く旋回速度も速度計の表示を疑うほど速い。それでいてソフトでフラットな乗り心地と静寂に包まれた室内は極楽至極なのだ。試乗当日は時折ゲリラ雷雨に見舞われたが、路面状況などお構いなしにまったく変わらぬ盤石な走りに終始する。アクティブアンチロールバーや3チャンバーエアサスペンションや駆動力可変式4WDシステムなどの電子デバイスを総動員して、この安泰な走りをサポートしてくれていたおかげである。
ジャガーのFタイプは2013年に発売されたスポーツカーで、クーペとコンバーチブルのボディを持つ。エンジンは2L直4/3L V6/5L V8から選べるが、今回はベーシックな直4を積む”P300”のRダイナミック仕様にお出ましいただいた。

JAGUAR F-TYPE CONVERTIBLE/ジャガーFタイプ・コンバーチブル

Fタイプはなんといってもそのプロポーションが特徴だ。全幅は1900mmを超えているのに、全長は4500mmを切っている。極端に左右に広く前後の短いボディはしかし、スポーツカーの操縦性の観点からすれば決して悪くない。短いホイールベースは回頭性に、広いトレッドは4輪の接地性に、それぞれ有効に働くからだ。そのターンイン時の挙動は曲がるというよりも横にスッと移動する感じで、ステアリングゲインが高く、操舵初期から直ちに応答する。Fタイプの中ではもっとも非力なエンジンであってもコンパクトなボディを動かすには十分で、スロットルレスポンスが想像以上にいいから、すこぶる快活な印象が強い。デビュー当時は1925mmの全幅に閉口したが、DBSやコンチネンタルGTのほうがさらに幅広く、いまとなっては当初ほど気にならなくなってしまった。
そしてしんがりに控えるのはロータスである。”ピュアスポーツ”カーならエリーゼだが、日本の道路環境ではエリーゼの本領が発揮できる舞台(山やサーキットなど)に辿り着く前に体力的に少々疲れてしまう。道中の高速道路でも、もちろん行った先でも楽しめるのがこのエヴォーラだ。

LOTUS EVORA/ロータス・エヴォーラ

エンジンを横置きにしたミッドシップレイアウトで、3.5LのV6はトヨタのアルファード/ヴェルファイアと同じユニットを共有する。「ミッドシップなのに横置きで重心が高く、トヨタのつまらないエンジンか」という憂鬱は運転してすぐにどこかへ吹き飛んでしまう。路面にピタリと張り付くような接地感は重心の高さをまったく意識しないし、軽量フライホイールやスーパーチャージャーなどで改良されたエンジンは、トヨタ製であることが忘却の彼方へ消え失せるくらい気持ちよく回り、レスポンスのいいパワーデリバリーを果たしてくれる。
エヴォーラだけがMTだったが、このクルマを英国製スポーツカーのトップに選んだのはそれが理由ではない。右手をステアリング、左手をシフトレバー、そして両足をペダルに乗せ、クルマの声に耳を傾けながらコミュニケーションを取り、クルマの限界と自分の運転スキルの限界をさぐりつつ走らせていくと、やがてクルマとドライバーが完全に同化する一瞬が訪れ、それがとてつもなく気持ちいいからだ。念のために付け加えておくと、エヴォーラが装備する電子デバイスはESPしかない。
英国製スポーツカーはドライバー依存度がおおむね高い。その分リスクも覚悟しなくてはならないが、スポーツカーとはそもそもそういうものではないだろうか。

フォト=郡 大二郎/D.Kori ル・ボラン2019年11月号より転載

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