【国内試乗】「マクラーレン600LTクーペ」超絶のエアロダイナミクス

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負けず嫌いが作った究極のロードカーだ

故ブルース・マクラーレンが英国に興した、レーシングコンストラクターを起源とするロードカーに、往年のル・マン24時間レースでGT1クラスを制したマシンに由来する名がふたたび与えられて誕生。公道“も”走行可能という、そのスーパースポーツの真価を、レーシングドライバーの木下隆之が探る。

「ロングテール」とは、1997年のル・マン24時間を制したマクラーレンF1 GTRロングテールが採用したボディワークが起源となる。

「速度に比例して安定感が高まるなんてことがあるのか?」
マクラーレン600LTをワインディングに連れ出し、意を決してコーナーに挑んだ瞬間に頭をよぎった。速度を上げれば上げるほどマシンが従順になる。まるで物理の法則を無視したような不思議な感覚は、コンペティションの世界で生きるマシンでしか味わえない、“あの感覚”そのものだ。
搭載エンジンは、3.8L V型8気筒ツインターボ。最高出力は600ps、最大トルクは620Nm。世界最高峰の推進力を誇るから、速度計の針は回転系の針を追い越すような勢いで上り詰めていく。だというのに僕は、恐怖と緊張に縮み上がることなく冷静になっていく。マシンが路面に吸い付いていくからである。
エンジンが中回転域に達すると訪れる、何かが弾けたかのようなパワーゾーンは確かに激烈である。2基のターボチャージャーが連携しているとはいえ、ドカンと弾けるタイプだから、軽はずみにスロットルを踏み込むと、脳髄が揺すられてクラクラする。カタログスペックによると0→100km/hが2.9秒という驚愕の加速性能を誇るのだから納得だ。ただ、最大の武器はそれではない。

3.8L V8ツインターボはミッドシップに搭載される。エンジンフードは開閉不可で、上方排気システムが背圧の低減とレスポンスの向上を図っている。

度を越したストッピングパワーにも腰を抜かしかけた。その大径ブレーキの効き味は常軌を逸している。ブレーキペダルに足を添えただけで、速度は急速に失われていく。ただ、本題はそれではない。
天に向かって口を開ける特異なトップエキゾーストが人目を引く。幻想的な青い炎を突き立てれば、衆目を引き寄せるだろう。だが、最大の魅力はそこでもない。
コーナリング性能を高める手法は3つに大別される。ひとつはタイヤのサイズ拡大や、タイヤそのものの摩擦係数を高める方法。もうひとつはトレッドやホイールベース、あるいはサスペンションジオメトリーの調整といったメカニカルな手法。そして3つ目がタイヤを路面に強く押し付けるという空気力学的なアプローチ。マクラーレンが「600LT」を開発する際に最重要視したのが、空気力学的な効果のひとつである「ダウンフォース」。そこを徹底的にこだわったであろうことは明白だ。
物理の法則に反した感覚の正体は、速度が250km/hに達すると100kgの力で路面に押し付けられるという強烈なダウンフォースにあった。つまり物理の法則を無視したのではなく、極めて論理的に開発されていたのだ。

ブレーキシステムは、上位シリーズと同じアルミ製キャリパーとカーボンセラミック製ディスク。

 

リポート:木下隆之/T.Kinoshita フォト:郡 大二郎/D.Kori ル・ボラン2019年5月号より転載

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