最初で最後の、ポルシェとアバルトのコラボ
アバルトといえば、やはりフィアットをベースとした車両を思い浮かべる方が多いだろう。フィアットに買収される以前のアバルトとなれば尚更だ。そんなアバルトと、あのポルシェが組んで生み出された稀有な車両が、ポルシェ356B GTL、所謂“カレラ・アバルト”である。
【画像68枚】元のレジンキットの素晴らしさを活かした作例と、その工程を見る
一見奇妙な取り合わせに見えるこの2社だが、その関係性は浅からぬものがあった。戦後、356をデビューさせたポルシェのイタリアでの販売権を取得したのが、アバルトだったからである。カレラ・アバルトはレース用のホモロゲ・モデルで、1960年から1963年にかけて様々なレースで活躍したが、生産台数は21台と、非常に少ない。アバルトとしては、ポルシェとの関係をもっと発展させたかったようだが、コラボレーションはこの1度きりに終わっている。
このプロジェクトはポルシェ側の発案によるものだった。356のスチール製ボディは重く、その形状から空気抵抗も大きいため、レース用に軽量なアルミ製ボディを欲した訳である。ポルシェ356は1959年モデルにて356Aから356Bに発展していたが、アバルトでのマシン製作に用意されたのは、1960年モデルの356B 1600GSカレラGTだった。搭載エンジンはタイプ692/3 B4と呼ばれる4カム・ユニットで、1587ccから最高出力115hpを発揮。
356Bのシャシーに架装されたボディは、フランコ・スカリオーネがデザインしたもの。ボディ製作はアルミボディのノウハウに富んだコーチビルダーのロッコ・モットが請け負ったが、同社の製作は最初の3台のみで、生産の遅れなどの問題から4台目以降はヴィアレンツォ&フィリッポーニが担当している。いかにも空気抵抗の低そうな滑らかなボディは美しく、またリアのエンジンフードには冷却用の開閉フラップ式インテークが設けられていたのが特徴だ。エンジンはアバルトでのチューンにより出力135hpまで高められている。
こうして生まれたカレラ・アバルトはGTLを名乗ったが、「L」はドイツ語で「Leight」、あるいはイタリア語で「Leggera」、どちらも軽量を意味する言葉の頭文字だ。そのレースデビューは1960年5月のタルガ・フローリオとなったが、総合6位/GT2.5Lクラス優勝を果たし、幸先の良いスタートを切った。
さらに、6月のル・マン24時間では総合10位/1.6Lクラス優勝。翌年以降、1962年までル・マンでは3連続クラス優勝、1963年までタルガ・フローリオで4連続クラス優勝などの輝かしい戦果を収めたが、1963年シーズンの途中でポルシェのレース活動は356B 2000GSに移ることになり、前述の通りアバルトとのコラボは終わりを告げたのである。
硬質レジンで複製してから開閉化
このユニークなポルシェであるカレラ・アバルトだが、残念ながらプラモデルは存在しない。ここでお目にかけているのは、スターダストというブランドから1980年代後半にリリースされた、1/24スケールのガレージキットを完成させたものである。このキットは事実上トランスキット(必要なパーツが全部そろった形態ではなく、ベースに使うプラモデルを用意し、組み合わせることで別のモデルとして仕上げられるもの)であり、細部パーツの自作も必要だ。
しかし、ボディの出来は文句なしのレベルと言える。その材質はガレージキットによくあるポリウレタンではなく、ポリパテを溶剤(メリテル)で緩くしたもので、そのため薄皮軽量でフジミ製356を有効に使える反面、材質的にもろく、ヒビが入りやすいのが欠点。とは言え、ポリパテをチョイスしたのは、実に賢明な判断であったと言える。ポリウレタンの弱点である、経年変化による収縮・歪みを回避出来たのだから。
制作は「モデルカーズ」の287号(2020年)掲載のためになされたものだが、作者・坂中氏はその10年以上前に手をつけたものの、途中の段階でストップしていたのを、作例として一気呵成に仕上げたという。キットのままでは強度的に不安なので硬質レジンに置き換え、フル開閉モデルにしようと構想、真鍮などでヒンジを作った段階で手が止まっていたので、そこからあとの作業をおこなったとのことだ。
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