18年に渡り脈々と改良が続けられた元祖ポルシェ
スポーツカーと言えばポルシェ、そのポルシェの基礎をなしたモデルが356であることは、今さら説明するまでもない事実であろう。創業以来、他社製自動車の設計や開発を請け負ってきたポルシェが、初めて自社の名を冠して送り出したモデル、それこそが356であった。356は、1948年に試作1号と2号車が造られ(前者はミッドシップであった)、翌年にはジュネーブショーにこの2号車(クーペ)を出展している。
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2号車の時点で356の基本形は完成した。すなわち、強固なスチール製フロアパンに左右のサイドシルと前後セクションを結合したシャシーを基礎とし、フォルクスワーゲン用をベースとした空冷・水平対向エンジンをその後部に搭載、後輪を駆動するRR車である。この時のエンジンは排気量1.1Lであった。サスペンションは前後ともトレーリングアーム+横置きトーションバー、ボディはアルミ製。以後、50数台を生産・販売したと記録されているが、この時期のメーカーとしての体制は非常に不安定だったようだ。
本格的な量産に入ることができたのは1950年だが、これはドイツに本拠地を戻すことに成功し、それにより足場固めが進んだ賜物だったようだ。実はここまでは、大戦中の疎開先であるオーストリア・グミュントでの活動だったのである。356は1956年には改良によって356Aとなり、以後B、Cと進化して1965年に生産終了。このため、1950年から1955年にかけての356は、プレ(プリ)Aと呼ばれる。このプレAでは、ボディはスチール製となり、エンジンも1.3Lや1.5Lが加わって、複雑なバリエーションを展開している。
ここでは本題の356Aについてすこし詳しく触れておこう。356Aへと進化したのは前述のとおり1956年モデル(発表は前年秋)でのことで、この時点では1300(最高出力44ps)/1300スーパー(60ps)/1600(60ps)/1600スーパー(75ps)/1500 GSカレラ(100ps)の5種類のエンジンが存在。ボディはクーペとカブリオレがあり、また1.3L以外の3つのエンジンでは、スピードスター(ウィンドシールドを小型スクリーンとし、リアもなだらかな形とした軽量版)もチョイスできた。
Aでの1.5Lモデルは1956年式のみで、1958年モデルとなる際には1.3L車も廃止。この年カブリオレ用のオプションとしてハードトップが加わったほか、1959年式ではスピードスターが廃止され、コンバーチブルDへと置き換わった。1960年モデルで356Bへと進化、Aとは一見同じに見えても各部が異なっており、ポルシェでは「完全に新しく設計」したとしている。
車両に搭載/スタンドに載せて展示、エンジンはどちらを選ぶべきか
ポルシェ356は当然ながらプラモデルの世界でも人気で、古くはレベルの1/25スケールやトミーの1/32(これは正確にはマルチマテリアルキットと呼ぶべきもの)、新しいところではドイツレベルの1/16などがあるが、特にインパクトが大きかったのは、1988年発売のフジミ製1/24スケールモデルであろう。これは同社自慢のエンスージアストモデル・シリーズに属するものだが、精密再現にこだわったこのシリーズの中でも頂点とも呼べるのが、このポルシェ356なのである。
と言うのも、フジミ製356は、エンジン内のピストン/クランクシャフトや、フロント・ラゲッジスペース下のステアリング・システム、また、シートで隠れてしまうようなフロアパネルのプレス・パターンなど、完成後は見えなくなる部分までを完全に再現した、ちょっとどうかしているキットなのである。今なおモデラーを驚愕せしむるに十分なその内容だが、あまりのパーツ数の多さに、「一度中身を出すと箱の中に収まりきらなくなる」とも言われ、「まともに完成させることは不可能」とまで評する向きもあるほどだ。
このフジミ製356は、356Aのクーペやカブリオレにスピードスター、356B/Cのカブリオレやハードトップ、356Bのロードスターなどのバリエーションが用意されたが、ここでお目にかけているのは、356Aクーペ1500GSカレラの完成品だ。これは、比較的近年に再販が行われてキットの用意がしやすかったためもあるが、ポルシェ356というクルマを模型で味わうのには、悪くないチョイスと言えるだろう。
制作に用意したキットはパーツに欠品があったため(不良品ではなく個人のストック、具体的に言えば編集者の手持ちのものを使ったせいだ)、途中でもうひとつのキットを用意することとなり、結果としてキット2個を使っての作例となっている。そのため作者・渡辺氏はエンジンを2基作り、車両とディスプレイスタンドの両方に載せるというアレンジをしてくれたが、パーツの細かさや点数の多さから来る破損・紛失などのおそれを考慮すると、キットを2つ用意して1台を作るというのは、案外賢明なやり方かもしれない。