同ブランド内もしくは同型モデルにおいて純粋な内燃機関と電動化モデルを徹底比較。どちらがより魅力的か大検証!
いま、世界の自動車業界はカーボンニュートラルに向けてクルマの電動化を着々と進めているのはご存知の通り。CO2を排出しない取り組みとして電動化は必須だし、最新技術が投入される電動化モデルが急速に進化しているのは、もちろんわかっている。ただ我々クルマ好きの身体中に染み付いた内燃機関への愛着は、そうやすやすとは拭いされないのも事実。
というわけでここでは、同ブランド内もしくは同型モデルにおいて純粋な内燃機関(エンジン)と電動化(モーター:BEV、PHEV、HEVといったモーターを擁する)モデルを徹底比較。あくまで現時点で魅力的なパワーソースはどちらなのか検証してみた。
シルキーシックスで駆けぬける歓びか? エレクトリックで駆けぬける歓びか?
M440i グランクーペは、BMW伝統の直6エンジンを積んだハイパフォーマー。そして、待望の上陸を果たしたi4は、この4シリーズグランクーペをベースにスポーティであると同時に持続可能なキャラクターを持ったピュアEV。いったい、両車の駆けぬける歓びにはどんな違いがあるのか!?
シャシー性能が有利なのはBEV
最近ではBEVの試乗リポートをする機会が飛躍的に増えている。いい面も悪い面もフラットにお伝えするように心がけてはいるが、BEVならではのメリットを解説することが多くなるのが自然な流れであり、中でもシャシー性能の優位性はとくに強調したいところだ。重量物のバッテリーが床下中央に敷き詰められているので重心が低く、ヨー慣性モーメントが低い(=旋回性能が高い)。
また、エンジンのように振動がないからマウントによる揺動が少ないのも運動性能には有利だ。エンジン車ではあり得ないほどのポテンシャルがあり、実際に本誌連載のDSTのテストでもBEVはとんでもない性能を見せつけている。
では、いま乗るべきなのはBEVなのか? それとも慣れ親しんだエンジン車なのか? 絶対的な性能ではなく、ドライビングプレジャーで選ぶべきはどっちなんだ? と問われると、返答に窮するのが正直なところだ。BEVかエンジン車かという以前に、一台のクルマとしての善し悪しがあるからとかなんとか、曖昧な言葉を並べてスルーすることにもなりかねない。そこで今回は、基本的には同じプラットフォーム、ボディをもつBMW i4 M50とBMW M440i xDriveグランクーペを比較試乗。その違いを検証しつつ、乗るべきはどっちなのかを白黒つけていきたい。
両車のスペックを比較するとボディサイズはほとんど同一。i4のほうが全高が5mm高く、リアトレッドが5mm広いだけだ。もっとも違うのが車両重量で、M440i が1,840kgなのに対してi4は2,240kgと400kgも重い。それでも最高出力387psのM440i が0↓100km/h 4.7秒なのに対して、i4は544ps(システム総合)で3.9秒と驚速。BMWは前後重量配分をほぼ50:50にするのが常だが、車検証で確認するとi4は48.2:51.8、M440i は51.6:48.4だった。
車両価格はi4 M50が74万円高い。BEVで気になる航続距離はi4が一充電あたり546kmとなっているが、M440i は59Lタンク10.8km/L=637.2kmで意外と差は小さい(i4 eDrive40なら604km)。BEVの課題は価格と航続距離だといわれてきたが、克服しつつあるとも見てとれる。車両重量だけは如何ともしがたく、全固体電池など次世代バッテリーの登場を待つしかないが、加速だけなら大トルクのモーターで逆転できてしまっているのだ。
i4は今回が初試乗だったので比較的長く乗らせてもらった。街中に郊外路、高速道路などを走らせたが、あらゆる場面で快適で運転しやすかった。BEVならではの静粛性の高さとモーターのレスポンスの良さ、トルキーな特性が存分に発揮されるからだ。M50はBMW MGmbHが初めて送り出すBEVだが、ラグジャリーカーとして捉えても一級品といえる。
【写真14枚】M440iにはサウンドの刺激が、i4には加速の魅力がそれぞれにある。
甲乙つけがたいドライビングプレジャー
ワインディングロードに足を踏み入れてスポーティな特性を存分に引き出してみる。まず加速は強烈だ。発進時にアクセルを深く踏みつけるとリアタイヤがスリップしかけつつ、瞬時にフロントにも駆動を振り分けてロケットスタート。リア駆動メインのAWDというxDriveの特性はBEVでも引き継がれている。
ドンッと背中を押されたら50km/h程度まではほんの一瞬で、100km/hまでも頭打ち感なく伸びていく。1ギアだからシームレスなのも特徴だ。エンジン車に慣れていると、なんの予兆もなくドカーンッと加速していくフィーリングにちょっと違和感を覚えるかもしれないが、驚きは大きい。
コーナリング性能も見事で、ちょっとやそっと飛ばしたぐらいでは何事も起きない。限界ははるか高いところにあって、公道レベルではひたすらにオン・ザ・レールだ。運動性能にとって車両重量は重要なファクターではあるが、それを良好な重量配分によって超越してしまっている。
ただし、コーナリング中に大きなギャップなどがあると、重さを意識させられることもある。ドンッという突き上げが、やや強く感じられるのだ。オン・ザ・レール感覚の源は重量配分だけではなく、モーターの制御の細かさや速さによって、駆動力配分やDSCの効果が高いこともあるだろう。
M440i に乗り換え、さっそくアクセルを床まで踏みつけると、直列6気筒が奏でるサウンドに思わず笑みがこぼれた。特に4,000〜6,800rpmの甲高いサウンドは脳内にアドレナリンが吹き出してきて、もっとアクセルを踏みたくなる。とはいえ、加速の迫力はi4に一歩譲るのは間違いない。
加速力は麻薬のようなもので、慣れてくると”もっともっと”と高みを見たくなるので、一度i4を味わえってしまうとM440i が物足りなくなる人もいるだろう。逆に、サウンドに刺激がなければスポーツドライビングじゃない、という人ならBEVなんてあり得ないはずだ。
絶対的な性能はさておき、やはりBEVとエンジン車では加速のフィーリングが違う。エンジン車は、アクセルを踏み込んでから噴射されたガソリンが爆発してピストンを押し戻し、クランクを回してタイヤへ駆動力を伝えるというプロセスが、短い時間の中にも感じられるから、どんなに素早い加速でも違和感がないのだが、BEVはそういったフィーリングがなくて瞬間移動的だから何かがおかしいように感じてしまう。身体は前に進んでいるけれど、脳はスタート地点に置かれたまま、というような感覚だ。
コーナリングではBEVのほうがポテンシャルが高いのは確かだが、M440i はエンジン車のなかでトップレベルの性能の持ち主なので、少なくとも公道レベルでは劣っているとは思えない。i4はベタッと路面に貼り付いていて、よりスタビリティ重視に思えるのに比べると、軽快によく曲がっていくという感覚さえある。それはドライビング・プレジャーに直結する部分だ。
絶対的な運動性能やハンドリングの正確性、加速力などではi4が勝っているのは確かだ。だから今回の比較試乗ではM440i が霞んでしまうのではないかと心配していたのだが、フラットな目線で評価してもドライビング・プレジャーならば同等か、ほんのちょっとM440i が上だというのが偽らざる結論だ。
ただし、M440i が特別に良くできていることと、BEVはバッテリーの技術、サウンドやハンドリングの味付けがまだ進化の途中だからであって、今後はどうなるかわからない。BMWアルピナおよびBMWアルピナ MGmbHが本気で取り組んでいけば、BEVももっとすごいドライビング・プレジャーを身につけていくことだろう。
Ishii‘s PERSONAL CHOICE:新しモノ好きの血が騒ぐのでi4を選ぶ
ドライビング・プレジャーではM440iがちょっとだけ勝っていると結論付けたが、次に買うとしたら日常域での快適性が優れているi4にしたい。新しモノ好きの血も騒ぐのだ。後輪駆動のi4 eDrive 40でも十分かもしれない。
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