【知られざるクルマ】 Vol.15 サッポロ、ツルにイサム・ゲンキ??? 海外の「日本語名」な日本車たち

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誰もが知る有名なメーカーが出していたのに、日本では知名度が低いクルマをご紹介する連載、【知られざるクルマ】。今回は、海外名が日本名と異なるクルマの中でも、「日本語」を採用した日本車たちをお送りしよう。グレード名にも愉快な?日本語名を持っている車種があるので、それも含めることにした。

《もくじ》
【その1】サムライにショーグン……知名度もあり、強そうな日本語車名
【その2】案外少ない、日本の地名を車名にするパターン
【その3】桜に鶴、そして燕……「ザ・日本語」的な車名たち
【その4】イサムにサカタ?名前なのかもどうかもわからない、謎ネーミング

【その1】サムライにショーグン……知名度もあり、強そうな日本語車名

■スズキ・サムライ

まずは、海外でも知られていそう&強そうな日本語の車名からスタートする。

世界に誇るミニクロスカントリー4WDの「スズキ・ジムニー」は、海外でも基本的にはジムニーの名で売られるが、仕向地によっていろいろな名称を使い分けている。中でも2代目ジムニーは別名が多く、「サムライ(SAMURAI)」もそのひとつだった。サムライは、言うまでもなく「侍」のことである。

ところで、イタリアでもジムニーはジムニーなのだが、グレードや限定車に日本語名詞を持つものが多い。先代には、初代ジムニーのイメージを投影した「Shinsei」(神聖!)なる限定車があったほか、現行型では「頑(Gan)」という特別仕様車も登場している。また、イタリアでは「ビターラ」(日本名:エスクード)、オランダでは「スイフト」に「KATANA=刀」バージョンを設定した。

■三菱・ショーグン

世界各国で愛用される高級4WD「三菱・パジェロ」。その車名が一部の言語では芳しくないスラングになることから、「モンテロ」という名前で売られていることは有名だ。しかしパジェロにはまだ別名がある。それが、イギリス市場のみのネーミングとなる「ショーグン(SHOGUN)」で、ズバリのズバリ、あの「将軍」である。初代から5代目まで、イギリスでは全世代のパジェロをショーグンと呼んでいる。写真は4代目のショーグンだ。

■三菱・ショーグン・ピニン

パジェロの弟分として1998年に登場した「パジェロ・イオ」は、海外では「モンテロ・ピニン」「パジェロ・ピニン」「モンテロ・イオ」などと呼ばれていた。となると、むろん「ショーグン・ピニン」も存在、英国などで販売された。なお、「ピニン」とはかの名門カロッツェリア「ピニンファリーナ」のこと。欧州市場向けパジェロ・イオがピニンファリーナで生産を行っていたために与えられた。さらに余談だが、パジェロイオは日本と欧州では2007年に生産を終えているが、ブラジル生産モデル(パジェロTR4)だけはブーレイ顔っぽいグリルが与えられて、2014年まで作られていた。

■三菱・ショーグンスポーツ

2代目パジェロのラダーフレームを用いて、1996年にデビューしたクロカン「チャレンジャー」は、仕向地によって「チャレンジャー」「モンテロスポーツ」「パジェロスポーツ」「ショーグンスポーツ」「ナチーバ」という名前を使い分けて展開を行っていた。ショーグンスポーツは、パジェロと同じく英国市場での専売だった。

日本での初代チャレンジャーの寿命は短く、2001年に販売を終了してしまったが、海外では2007年に2代目に、さらに2015年からは3代目へとバトンリレーが継続している。そのため、「ショーグンスポーツ」も3代目が存在する。

一方で残念なこともある。3代目はタイ製となったことと、惜しくも日本国内での販売を終えたあとも、海外向けが残っていた本家パジェロの生産終了が決まったことで、パジェロを製造していたその名も「パジェロ製造(岐阜県加茂郡坂祝<さかほぎ>町)」も、ついに閉鎖されてしまうことになった。

■三菱ふそう・ショーグン

三菱のショーグンは、まだある。こちらは乗用車ではなく、トラック・バスを手がける「三菱ふそう」のショーグンだ。三菱ふそうの大型トラック「スーパーグレート」は海外への輸出も行われており、豪州市場では「ショーグン」と称する。なお、三菱ふそうは2003年に三菱自動車から独立し、現在はダイムラーグループの一翼を担っている。

【その2】案外少ない、日本の地名を車名にするパターン

■三菱(プリムス)・サッポロ(ギャランΛ)

世界には「カリフォルニア」「ミラノ」「ル・マン」「モントリオール」など、地名を冠する車種がいくつかある。では日本の地名は? と探してみるとあまりなく、メジャーなものでは「三菱・サッポロ(SAPPORO)」くらいではないだろうか。

三菱・サッポロは、ご覧の通り三菱のスペシャリティクーペ「Λ(ラムダ)」そのものである。当時、三菱と密接な関係を築いていたクライスラーは、Λを「プリムス」ブランドで販売することとし、Λ登場から2年後の1978年に「プリムス・サッポロ」と名付けて発売を開始した。車名をサッポロとしたのは、1972年に札幌で開催された冬季オリンピックで、「サッポロ」がアメリカでも有名になっていたため。アメリカ以外では「三菱・サッポロ」(イギリスのみ、三菱・コルト・サッポロ)と称した。

Λは1980年に2代目にフルモデルチェンジを行っており、それに合わせプリムス・サッポロも2代目に発展、1983年まで販売された。クライスラーでの後継車は「コンクエスト(日本名:スタリオン)」である。

■三菱・サッポロ(ギャランΣ)

ラムダ=サッポロは、比較的? 有名かもしれないが、実はもうひとつ三菱・サッポロがある。5代目ギャランΣ(シグマ)・ハードトップの欧州仕様がそれで、1987年から1990年頃まで販売。日本市場でのΣには、3LのV6やターボエンジンを載せていたが、欧州向けは2.4L直4のみだった。後継のディアマンテ(海外では、セダン版のシグマ)が出るまで、欧州ではトップレンジモデルでもあった。

【その3】桜に鶴、そして燕……「ザ・日本語」的な車名たち

■日産・ツル

続いては、「日本語の代表的な名詞」を車名にしたクルマたちを記していきたい。

日産の名車「サニー」の名前は消えて久しいものの、かつてサニーの北米名だった「セントラ」は、今でも販売が続いている。すでに現行セントラはサニーとは袂を分かっているが、型式はB18型が充てられていおり、サニー系の型式「B」の系譜は、未だに生き残っている。

それはさておき、「ツル(TSURU)」は「鶴」のことで、簡単に言うとメキシコのセントラである。初代ツルの登場1982年。北米セントラ導入と同じタイミングだった。サニー初のFFになった5代目(B11型)に相当する。1986年には6代目サニー(B12型、いわゆるトラッドサニー)に合わせてツルとセントラも2代目になり、1992年モデルからは7代目サニー(B13型)をベースにして、3代目ツル&セントラが生まれた。

日本のサニーと北米のセントラがB14〜B15型へとモデルチェンジし、最終的にはサニーが消滅したのに対し、3代目ツルは、安定した品質と優れた耐久性、量産効果による低価格からメキシコの国民車的な存在になっただけでなく、南米各国でもヒット作に。その結果、25年にわたり大きく姿形を変えることなく、2017年まで生産を続けることとなった。

2004年には、セントラのスポーティ仕様「SE-R」のツル版「GSR2000」を追加している。140psを誇るSR20DE型エンジンと5速MT、4輪ディスクブレーキを装備し、メインが1.4Lや1.6Lのノーマル・ツルに対して大幅な性能アップを果たした。ゴルフGTIにも対抗できる車種として、南米で大きな話題となった(下記写真はセントラSE-Rだが、ツルGSR2000もほぼ同じ)。

■ダットサン・サクラ

「桜」も、海外でよく知られる日本の単語だ。それを日産のスペシャリティカー、3代目シルビア/初代ガゼール(S110型)に与えた「ダットサン・サクラ(SAKURA)」なるクルマもあった。

2代目シルビア(S10型)は「ダットサン200SX」として北米輸出を行っており、S110型も同様にダットサン200SXの名で販売された。しかし南米のメキシコ向けだけは、「サクラ」という名前が付与されていた。サクラは、日本のシルビア/ガゼール同様に2ドア・3ドア両方を設定、後期型へのマイナーチェンジも経ているが、4代目シルビア/2代目ガゼール(S12型)にモデルチェンジしてからは、北米・南米ともに「日産200SX」と統一された。写真は日本仕様のガゼール後期型。動画はサクラ前期型のTVCMである。

■日産・ツバメ

「さくら」に「つばめ」とくると、鉄道ファンなら往年の名列車を思いだすかもしれない。「日産・ツバメ(TSUBAME)」は、2代目ADバン/4代目サニーカリフォルニア(Y10型)のメキシコ現地生産モデルに付けられた名称で、むろん鳥の「燕」を指す。実質的には、前述のツルのステーションワゴンというポジションを担当した。生産は1993年から2001年頃。写真は、日産・ツバメに見た目の印象が近い、Y10型の欧州仕様「サニー・トラベラー(SUNNY TRAVELLER)」である。ツバメの姿は、動画でご確認いただきたい。

■VWタロー

1980年代半ば、1tクラスのトラックを欧州で売りたいトヨタと、1tクラスのトラックを持っていなかったフォルクスワーゲン(VW)は、1987年に協業の合意を行い、1989年からVWハノーファー工場と日野自動車羽村工場で「5代目トヨタ・ハイラックス」の生産をスタートした。その際、車名はトヨタ・ハイラックス以外にも「VWタロー(TARO)」と名付けられ、それぞれの販売網で市場に投入された。タローは「太郎」のことである。外観上はハイラックスのままで、エンブレムのみがVWに置き換わっていた。タローは、残念ながらあまり売れなかったこともあり、1997年頃に生産を終えている。

■スバル・スモー

世界に誇る日本の国技「相撲」も、なんと車名に。軽自動車「スバル・サンバー」をベースにした多人数乗りピープルムーバー、「ドミンゴ」の欧州名は「リベロ(LIBERO)」だったが、イギリス向けは「スモー(SUMO)」だった。なお、スウェーデン市場では「コロンブス」、ドイツでは「Eシリーズ」などとも称した。ドミンゴは1994年にフルモデルチェンジしたため、リベロ/スモーも2代目を有する。

【その4】イサムにサカタ? 名前なのかもどうかもわからない、謎ネーミング

■マツダの「イサム」系(イサム・ゲンキなど)

最後の章は、日本の「名前」っぽいネーミングを集めてみた。まずはマツダの「イサム」系である。ファミリアの海外版は「323」「プロテジェ」などと呼ばれるが、台湾市場では2003年に「イサム・ゲンキ(ISAMU-GENKI)」という名称に変わっている。CMでも登場人物が日本語で「お元気ですか」と話しており(ちょっと不自然だけど)、日本車であることをアピールしていたようだ。

2004年にファミリアがアクセラ(マツダ3)に道を譲ったあとも、イサム・ゲンキの生産は続き、2006年にはマイナーチェンジまで実施。2007年頃まで生産が行われた。外観は9代目ファミリア(BJ 型)ほぼそのものだが、フロントバンパーなど細かな部位に違いが見られる。果たしてイサムが名前の「勇さん」なのか、“勇ましい” のイサムなのかはわからないが、ゲンキが「元気」なのは間違いない。

なお、イサム・ゲンキが台湾マツダのカタログから落ちた後も、ゲンキという名称は豪州のマツダ2(日本名:デミオ)におけるスポーティグレードとして、しばらく生き残っていた。

 

■マツダの「サカタ」系(マツダ2サカタ/マツダ3サカタ/マツダ6サカタ)

ラストは、「サカタ」である。イギリスで2004年〜2006年頃にマツダが販売していたリミテッド・エディションが「SAKATA」で、マツダ2、マツダ3、マツダ6(日本名:アテンザ)に設定されていたようだ。

当時の現地メディアを見ると、各車ともサカタバージョンは人気があったようで、マツダ3サカタを例に見ると、専用の青メタボディカラー、15インチアルミホイール、エアコン、CDプレイヤー、パワーウインドウ、ヒーター付き電動ドアミラー、ABSなどを装備。2005年における価格は11995ポンドで、エントリーモデルの1.6Sより245ポンド高いが、サカタの装備品の額は1100ポンド以上に達するため、お買い得だと謳われていた。しかし、“サカタ” が苗字の「坂田さん」なのか、地名の「酒田」なのか、もしくは他の意味があるのか、いろいろ調べたもののまったくわからなかった(笑)。謎ネーミングである。

これまた長い記事になってしまった(汗)。次回は、プジョー・シトロエン(PSA)とフィアット・クライスラー(FCA)のタッグによって生まれた「ステランティス」に関する話題をお送りする。

 

この記事を書いた人

遠藤イヅル

1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。

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