雲海が生まれる条件は季節や土地でさまざま
盆地を埋める朝霧、大海原から押し寄せる海霧、そして、峰々に湧き、稜線を越えていく雲。ひと口に雲海と言っても、その姿はさまざまだ。ここでは雲海のおもなタイプを解説しておこう。
雲海よもやま話(一)でも少し触れた通り、雲海にはさまざまなタイプがある。なかでも典型的なのが、秋から冬にかけて盆地で発生する雲海である。
そのメカニズムを簡単に説明すると、まず放射冷却で地表付近の気温が下がり、空気中の水蒸気が凝結して霧が発生。そして、霧が溜まりやすい盆地の地形や風が弱いこと、さらには前日からの湿度の高さや気温の急低下といったさまざまな条件が揃った時、これが雲海へと育っていくのだ。
竹田城跡(*Spot 61)をはじめ、「天空の城」の風景を生み出すのは、ほとんどがこのタイプだ。また、阿蘇カルデラのように雨量が豊富で、昼夜の寒暖差が大きな土地では、1年を通じて同様のメカニズムで雲海が発生する。
一方、地球岬などで見られる海霧(うみぎり/かいむ)は、暖かく湿った空気が北太平洋の冷たい海水に触れることで発生する。発生源が大きな海だけに、湧き上がる霧も大量で、それが陸に向かって押し寄せてくると、上の写真のような迫力ある雲海風景となるのだ。
規模は小さいながら、これと同じことは湖や川でも起こる。たとえば霧幻峡の渡しの幻想的な眺めは川霧が作り出すもの。これは上流に巨大な田子倉ダムがあり、そこからダム湖特有の冷たい水が大量に放流されるためで、只見川流域ではしばしば雲海風景を目にすることができる。
このほか、奥羽山脈を横切る八幡平アスピーテラインや蔵王エコーラインでは、暖かく湿った空気が山の斜面に沿って上昇する際に冷やされ、そこで発生した雲が雲海の風景を作り出すことがある。そんな時は峠をはさんで、太平洋側は雨、日本海側は快晴といった具合に、中央分水嶺の両側で極端に天候が変わることが多い。
同じ分水嶺越えの峠道でも、志賀草津道路の渋峠(*Route 43)のように標高が2000mを越えるような場所では、山麓一帯が悪天候でも雲海と出会えることがある。上空に暖かく湿った空気が流れ込むと雲の上面が抑えられるためだ。そんな時の雲海風景は感動的なものとなる。目の前で雲が湧き上がり、それが大きな塊のまま稜線を乗り越え……といったダイナミックな風景が展開する。
ただし、峠の天気は下界からは予測できないので過度の期待や無理は禁物だ。春先や晩秋、山麓の雨が途中からみぞれや雪に変わりはじめたら、雲海のことは潔く諦めて、引き返す勇気も必要だ。
文:佐々木 節/撮影:平島 格
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