2019年のフランクフルト・ショーでスタディモデルを初公開して以降、開発が本格的にスタート。2021年のIAAモビリティでプロトタイプが公開され、いよいよプレス向けの国際試乗会でその完成度を確かめるときがやって来た。BMWが次世代モビリティの選択肢のひとつと考える燃料電池車の実力とは!?
FCVのイメージを覆すパワフルな加速フィール
BMWは、ベルギーのアントワープでまったく新しい燃料電池車(FCV)、iX5ハイドロジェンの国際試乗会とワークショップを開催した。
SUVのX5をベースにした同モデルは、二つに分割された700バールの高圧タンクに合計6kgの水素を貯蔵。この水素を最高出力170psの燃料電池スタックに供給し、ここで得た電力を最高出力401psの電気モーターに導いて後輪を駆動する。電気モーターの最高出力が燃料電池スタックの最高出力を大きく上回っているのは、必要に応じて最高出力231psの高圧バッテリーが燃料電池スタックに”加勢”するため。
したがって定常的な最高出力は170psとなるが、追い越し加速やワインディングロード走行時などには401psのパワーを発揮し、BMWらしい”駆けぬける歓び”を生み出す。ちなみに、航続距離は500kmで、最高速度は185km/h、0→100km/h加速は6秒以下をマークする。
今回の燃料電池スタックはBMWの内製だが、その核となる”セル”には、提携関係にあるトヨタ製を用いてる。BMW関係者は「トヨタ製セルは信頼性が高い」と語る一方で、「将来的には複数のサプライヤーから供給を受ける可能性も残されている」との見通しを打ち明けてくれた。
【写真12枚】定常的な最高出力は170psだが追い越し加速などには401psを発揮!
試乗してみると、まずはエアサスペンションがもたらす乗り心地がとてもソフトで快適であることが印象に残った。だからといって”ブワブワ”な足回りではなく、高速域ではほどよいフラット感を伝えてくれる点はこれまでのBMWと同じ。ステアリングの操舵力はごく軽かったが、そのなかに接地感がしっかりと表現されている点もBMWらしいと感じた。
ドライブトレインはきわめて静かで、フル加速を試してみても、空気を取り込むエアコンプレッサーのうなり音はまったく聞こえない。これはターボ型コンプレッサーを用いた恩恵だという。
それ以上に印象的だったのは動力性能で、スロットルペダルを強く踏み込むと、それこそ車重がふっと軽くなったかのような力強い加速感を味わうことができた。私はこれまで、トヨタ・ミライ(初代と2代目)やホンダ・クラリティなどのFCVに試乗したことがあるが、最高出力はいずれも200ps程度。これらに比べて、401psを発生するiX5ハイドロジェンがよりパワフルな加速を示すのは当然のことだろう。
それにしても、このあたりに日独のクルマ作りの違いが明確に現れているような気がした。日本の自動車メーカーが「モーターの最高出力は燃料電池スタックの最高出力によって決まるもので、モーターのそれ以上の高出力化は無駄」と考えたのに対して、「燃料電池スタックの最高出力が制限されるのは仕方ないが、クルマの楽しさをより引き出すために、使えるものはなんでも使う」というスタンスを明らかにしたのは、自動車の商品性に対するアプローチの違いがはっきりと現れているようで実に興味深い。
今後100台弱が生産されるiX5ハイドロジェンは一般向けの販売予定はなく、各国でテストやデモンストレーションなどの目的で用いられる予定だという。また、BMWはゼロエミッションヴィークルの主体はEVになると想定しており、FCVはそれを補完する存在になると見込んでいる。
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