遠藤イヅルが自身のイラストともに1980年代以降の趣味車、いわゆる”ヤングタイマー”なクルマを振り返るのがこのコーナー。ご紹介するのはクライスラーから何と、Kカー詰め合わせですヨ!
ボクらのヤングタイマー列伝第34回『マツダ・ランティス』の記事はコチラから
V6、V8を搭載しながら全長が5m以上あったフルサイズのモデルまで、ほぼすべてをKカー・ベースにしてしまったのです!
様々なヤングタイマーをご紹介するこのコーナーですが、『クライスラーKカー』と聞いて、日本でピンとくる人はかなり少数なのではないかと……。というのも、Kカーとそれをベースにした仲間たちの多くが日本に上陸していない上、輸入されたクルマも今や絶滅して、Kカーがベースだったということすら忘れられているからです(涙)。
ではKカーってなんぞや? ということですが、これは1970年代に深刻な経営危機に陥ったクライスラーが起死回生を図って開発したFF(FWD)プラットフォームのことです。クライスラーは1981年登場のコンパクトカー『ダッヂ・エアリーズ/プリムス・リライアント』を皮切りに、次々とKカー・ベースのモデルを投入。1980年代末には全車種をFWD化し経営の立て直しに貢献したという、実は偉大なシリーズでした。
でもその展開はいささか強引。V6、V8を搭載しながら全長が5m以上あったフルサイズのモデルまで、ほぼすべてをKカー・ベースにしてしまったのです。例えばエアリーズの前身『ダッヂ・アスペン』は5.2リッター V8+全長約5.2m(全然コンパクトじゃない!)から一挙に全長約4.5mまで縮小。フラッグシップの『クライスラー・ニューヨーカー』に至っては1970年代半ばに7リッターV8+全長約5.7mもあったのに、1983年のフルモデルチェンジで全長約4.7mとなり、しかもエンジンは旗艦らしくない2.5リッター直4になったのですから、劇的な変化という他ありません。この時代ビッグスリーはこぞってダウンサイジングを行いましたが、GMやフォードは大排気量のマルチシリンダーやRWDを残していましたので、クライスラーの徹底ぶりがよくわかります。ニューヨーカーをストレッチしたリムジンでさえ2.5リッター直4エンジンにしてしまったのですから!
1990年代まで使い尽くしたKカー・プラットフォームゆえ車種数は膨大で、中には日本での知名度が限りなくゼロに近いものも。『ダッヂ600』や『クライスラーEクラス』などは、その最たる例です(笑)。
確かにKカーと聞くと”?”となるのですが、ミニバンの先駆けとして知られる『初代ダッヂ・キャラバン/プリムス・ヴォイジャー』、2ドアスペシャリティクーペの『ダッヂ・デイトナ』、隠しライトのニューヨーカーなど、日本にも正規/並行で少数ながら輸入されていたクルマたちも、実はKカーの仲間たち。いかにKカーをベースにした車種が多かったのかがわかりますよね。イラスト化したこのニューヨーカーこそ三菱製のV6を積むようになっていましたが、Kカーはある意味、ダウンサイジングの先駆けなのでありました。
この記事を書いた人
1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。
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