【国内試乗】マクラーレンは如何にしてここまで成長したのか? 720Sスパイダーにその独自の哲学と本質を見た

全ての画像を見る

スーパースポーツカー界においては新参者といえるマクラーレンは、いまや世界中から高く評価されるほど誰もが認める真のブランドへと急成長を遂げた。ここではその成功へと導いた鍵を、720Sスパイダーを通じて紐解いてみよう。

【写真4枚】まだまだ魅力が色褪せないマクラーレン720Sスパイダーを写真で見る

いまこそ再考するべきマクラーレンの本質

2022年年中に半数のモデルをハイブリッド化すると公表したマクラーレン。世界的に深刻な半導体不足など、昨今のご時世による懸念もあったが、その第一弾となるPHEVのアルトゥーラが無事にリリースされた。とはいえ、マクラーレンの本質を味わうという意味においては、ICE=純内燃エンジンを積むモデルの魅力もまだまだ色褪せていない。特に、ラインナップされる中でも720Sはその代表的な存在。同社の中核を成すモデルというだけでなく、マクラーレンの真の狙いがこの720Sには詰まっている。

クーペとオープンの2スタイルを楽しめる720Sスパイダー。高いシャシー剛性とデイリーユースでの快適性を両立するのは驚異的。

まず、なんといってもマクラーレンが世に衝撃を与えたのは、カーボンモノコック構造の採用である。それまで他ブランドではスペシャルモデルのみに与えてきたそれを同社はすべてのモデルに使用し、軽量かつ高剛性を身近なものにした。しかも、そこに快適性をも併せ持たせることにも執念を燃やし、あえてアンチロールバーを用いず、ダンパーの油圧を電子制御することによって4輪すべてを緻密にコントロールするプロアクティブ・シャシー・コントロールまでを開発。これによって、耐振動や共鳴音、乗り心地の確保が難しいなどといった理由で避けられてきたカーボンモノコックの使用を、コスト面なども含めてクリアしてみせたのである。

その進化版を採用しているのが720Sだ。カーボンモノコックはモノゲージⅡに、プロアクティブ・シャシー・コントロールは第2世代へと移行させたことで、他のスーパースポーツモデルではあまり見られない上質な乗り味を実現している。スポーツモードやトラックモードで激しく攻め込んでみてもさほど足まわりの硬さを感じないうえ、姿勢をほぼフラットに維持してみせるところなどは、走らせる度に感心してしまう。

カーボンやアルカンターラなど、インテリアの素材まで軽量化を徹底。身体とフィットするタイトさがドライバーとの一体感を生む。

しかし、そうした最新技術を用いて進化を謳うばかりではないのが、マクラーレンの美点でもある。いまや電動パワーステアリングが当たり前となっているが、720Sはあえて油圧式を採用している。その狙いは見事で、720Sのハンドリングは秀逸きわまりない出来だ。的確な舵角で実に攻めやすい仕上がりで、ライントレース性も素晴らしく、ドライバーの意思に忠実に応えてくれるから、最新技術こそが最良というワケではないという事実を突きつける。

もちろん、パワートレインに関しても抜かりはない。720Sのミッドに搭載されるV8ツインターボエンジンは、それまでの3.8L仕様をベースに4Lに拡大、41%ものパーツを刷新することで出力の向上のみならず柔軟性をも狙い、鋭いエンジンレスポンスを実現しながら日常域でも扱いやすさが際立つ。こうした特性からは、もはやマクラーレンの意地のようなものすら感じられる。ゴ―&ストップを多用する都市部で乗っていても、とても720ps&770Nmを発するスーパースポーツとは思えないほどドライバーフレンドリーな一面を見せるのだ。

それゆえに、ロングドライブに対して躊躇することもない。もっとも、長距離ドライブに対する意識は、どこよりも英国人の中に脈々と流れる文化を反映したものとも受け取れるが、それをミッドシップのスーパースポーツカーで造り上げてしまうところがマクラーレンの特異性となっているのは確かだ。GTやスピードテイルといったロングドライブをコンセプトに持つモデルを見れば明らかだが、中核を成す720Sでもそうだから、これはマクラーレン唯一無二の個性といえるだろう。

また、サイドのエアインテーク内に隠されたスイッチでドアを開ける手法や、アクティブモードを使用するとメインメーターパネルが畳まれ、必要最小限の情報のみ表示するなど、ユニークなギミックをもつのも同社の粋な一面だ。いま思えば、デビュー時のMP4-12Cの初期モデルなど、指先をスワイプしてドアを開けていたのは衝撃的だった。こうした遊び心を反映できるのも英国車ならでは。心惹かれるものがある。

ただ、基本は異常なまでに生真面目なのも間違いない。それをもっとも象徴するのはエクステリアだ。理論武装ともいえるほど徹底的に空力特性にこだわり、最後部にエアブレーキシステムまで備えるなど、効率的な運動性能をデザインでも確立しているのは驚異的とも思える。それでいて、どこから見ても”マクラーレン”と一瞬で認識できるこの仕上がりは、エレガントさまで匂わせるから奥が深い。おそらく単純に”格好いい”とはいわせたくないのだろう。これこそ本質で勝負する姿勢の顕れ。独自の哲学を貫いている。

【Specification】マクラーレン720Sスパイダー
■全長×全幅×全高=4543×1930×1196mm
■ホイールベース=2670mm
■車両重量=1468kg
■エンジン種類/排気量=V8 DOHC+ターボ/3994cc
■最高出力=720ps(537kw)/7500rpm
■最大トルク=770Nm(78.5kg-m)/5500rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35R19:305/30R20
■車両本体価格(税込)=39,300,000円
■問い合わせ先=マクラーレン東京 ☎03-6438-1963/マクラーレン麻布 ☎03-3446-0555/マクラーレン名古屋 ☎052-528-5855/マクラーレン大阪 ☎06-6121-8821/マクラーレン福岡 ☎092-611-8899

マクラーレン公式サイト

フォト=小林邦寿/K.Kobayashi ルボラン2022年8月号より転載

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

■関連記事

野口優
AUTHOR
2022/07/05 13:00

関連記事

愛車の売却、なんとなく下取りにしてませんか?

複数社を比較して、最高値で売却しよう!

車を乗り換える際、今乗っている愛車はどうしていますか? 販売店に言われるがまま下取りに出してしまったらもったいないかも。 1 社だけに査定を依頼せず、複数社に査定してもらい最高値での売却を目 指しましょう。

手間は少なく!売値は高く!楽に最高値で愛車を売却しましょう!

一括査定でよくある最も嫌なものが「何社もの買取店からの一斉営業電話」。 MOTA 車買取は、この営業不特定多数の業者からの大量電話をなくした画期的なサービスです。 最大20 社の査定額がネット上でわかるうえに、高値の3 社だけと交渉で きるので、過剰な営業電話はありません!

【無料】 MOTA車買取の査定依頼はこちら >>

注目の記事

「ル・ボランCARSMEET」 公式SNS
フォローして最新情報をゲット!