サソリの猛毒を詰め込んだ弁当箱
1970年代、ラリーで圧倒的な強さを見せていたのはランチア・ストラトスだった。1974年から1976年にかけてWRC 3連覇を成し遂げたストラトスであったが、親会社であるフィアットとしては、この快挙を手放しで喜ぶわけにもいかなかったようだ。メーカーがモータースポーツに血道を上げるのは、それが市販車の販売促進につながるからである。ストラトスはあまりに特殊な車種であるためその効果が薄いというのが、フィアットの判断だった。そこで、ストラトスに代わるベース車として白羽の矢が立ったのが、フィアット131である。
フィアット131ミラフィオーリは、1974年に登場したファミリーカーで、2ドアと4ドアのセダン、そして5ドア・ワゴンがあった。ベルトーネによるボディは直線基調のクリーンなものであったが、搭載エンジンは1.3Lと1.6LのOHV、ブレーキは後輪がドラム(先代にあたる124では4輪ディスクだった)と、技術的には平凡な内容のものである。とはいえ、これをベースに最強のラリーカーを仕立てることができれば、確かに販促効果は抜群であろう。というわけで、その開発を任されたのがやはりフィアット傘下のアバルトだった。
エンジンは、131よりひとクラス上となるファミリーカーの132からDOHCユニットを流用。2Lへと排気量を拡大し、4バルブ化によって最高出力はベースの110hpから140hpへとアップ、ラリー仕様ではさらに圧縮比の変更によって215hpを絞り出していた。サスペンションは、フロントのストラット式はそのままに細部まで強化。リアは、ダブルトレーリングアームを使ったリジッドから独立式に変更。このサスペンションは鋼管で組んだセミトレーリングアームにコントロールロッドとスタビライザーを組み合わたものだった。
ボディは前後フードなどにFRPを使用して軽量化されただけでなく、大きく張り出したオーバーフェンダーを装着。フロントはこのフェンダーが左右でつながってエアダムを形成し、リアはルーフとトランクリッドにスポイラーを取り付け、迫力ある装いとなっている。こうして生まれたフィアット131アバルト・ラリーは、1976年に400台を生産しグループ4のホモロゲを取得、同年シーズン途中からWRCに参戦することとなった。
131アバルト・ラリーは参戦2戦目となる第7戦1000湖ラリーにて初優勝、このときのドライバーは「無冠の帝王」として知られるマルク・アレン、ナビはイルッカ・キビマキである。そしてカラーリングをアリタリア・カラーにあらためた翌1977年より破竹の快進撃を続け、1977、1978年と2年連続でマニュファクチャラーズタイトルを獲得、翌1979年は奮わなかったものの1980年には再びタイトルを手中に収めている。
しかしこの後数年でWRCにはグループBの時代が訪れ、131アバルト・ラリーは姿を消してゆくこととなる。それでも、「速いハコ」の魅力が詰まった131の人気は今でも高い。模型の題材としても当時からポピュラーなもので、プラモデルでもタミヤの1/20、フジミとエッシーの1/24などがある。ここでご覧頂いているのは、そのエッシーのキットを組み立てたものだ。ちなみにこのキットは1978年ケベック・ラリー仕様で、ドライバー/コ・ドライバーは前述のアレン/キビマキ組、結果は2位入賞となっている。
アリタリアカラーは塗り分けで!
キットの評判として聞こえてくるものは「イマイチ」という声が多いようだが、実車の画像と比較してもプロポーションは秀逸な印象だ。ボンネットにはネオジム磁石を仕込んで、閉じた状態でのフィッティングを向上させた。フロントグリルの上部を横桟一段分削って、ボンネット先端が収まるようにしている。仮組みしてみるとすこし車高が高いようなので、ストラット下部とロワアームの間にスペーサーをかまして車高を下げた。サフを吹いてモールドを確認したら、ホワイトサフを吹いて塗装に入る。
キットにはデカールも付属しているが、ロゴ以外のストライプは全て塗り分けることにした。グリーンは部分ごとにマスキングと塗装を繰り返すが、ボンネットはバルジがかなり邪魔して作業しづらい。デカールから寸法を割り出しつつ、実際のボディでのバランスを最優先してマスキングする。側面はサイドダクトが邪魔でマスキングしにくい。グリーンは塗り分けを繰り返したが、レッドは一気に塗装。ロゴのデカールを貼りつけたらクリアーコート、ゼッケンやイベントのプラークはこの後に貼った。
ホイールは実際よりも輝きのある塗装としてみた。タミヤエナメルのメタリックグレイを吹いてからディスク部分をマスキング、このマスキングシートの切り出しにはスーパーパンチコンパスを使用。そしてタミヤエナメルのブラックを吹き、メッキシルバーNEXTを塗装する。ヘッドライトはキットのままだと内側リフレクターの再現がないので、グリルをくり抜き、タミヤ製エスコートに付属のナイトライト用リフレクター部品を流用。それぞれグリルのライト孔に合うサイズまで削る。シートベルトは、ハセガワ製ランチア・デルタのエッチングと、カッティングシートを組み合わせて再現。
塗り分けのデカールはカルトグラフ製で発色、ツヤともに申し分なかったが、少々硬いようだった。複雑な形状のボディに馴染ませることが困難に思えたため、ストライプを全て塗り分けたが、結果としてこれは大正解。このキットの金型は現在イタレリへと移譲され、何度か再販もされているようで、そちらなら比較的入手可能である。作例を見て作りたくなった方は参考にして頂ければ幸いだ。
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