【特別インタビュー】マルクス・フラッシュBMW M GmbH代表に訊くBMW MとBMW Motorsportの未来像

全ての画像を見る

ニュル24時間の会場にM4 GT3が登場!

2021年6月3~6日にドイツ・ニュルブルクリンクで開催された24時間耐久レース「49th ADAC TOTAL24H」。地元ドイツはもちろん、世界中のモータースポーツファンが注目するこのビッグイベントで、新型Mモデルのプロモーションと自身の参戦で多忙を極めるBMW M GmbH代表取締役のマルクス・フラッシュ氏に、世界一過酷と称されるレースに挑戦する想いやBMW MおよびBMW Motorsportの未来像について伺うことができたので報告しよう。

Markus Flasch(マルクス・フラッシュ)氏は1980年オーストリア・ザルツブルグ生まれ。2003年にマグナシュタイヤー社でキャリアをスタートし、BMW AGに移籍後はロールスロイスの品質管理やBMW8シリーズの開発主査を担当。2018年10月に歴代最年少の38歳でBMW M GmbHの代表取締役に就任。

まずはニュル24時間レースのスタートに先駆けてマルクス・フラッシュ代表が披露した、新型M4シリーズとBMWの次期FIA-GT3マシンとなるM4 GT3について聞いてみた。

「新型M4 GT3は、これまでとは雰囲気が変わってカッコいいでしょ? おかげさまですでに数多くのチームから購入オファーをいただいています」
5月の正式発表以前からティザーが流れていたとはいえ、カスタマーチームがBMWの新型GT3マシンに寄せる期待の高さがうかがえる。

「新型M4(G82)を開発するにあたっては、M4ベースのマシンをM6 GT3(現行マシン)の後継にすると決めていたので、GT3レーシングカーの開発は同時進行していました。なので、このM4 GT3が搭載する3リッター直列6気筒のS58型エンジンは、市販のM4コンペティションとまったく同じユニットです。当然、レースに使えるレベルの高性能エンジンを市販車に積むことは大きな投資になりましたが、このS58型パワーユニットは市販車とレースマシンの両方に完璧にマッチすると自負しています」
新開発となるこのS58型3リッター直列6気筒過給ユニットを搭載し、すでに全世界にローンチされた新型M3、M4コンペティションのセールス状況はなかなか好調とのことだが。


「市販車のM4コンペティションのオーナーの方には、レーシングカーと同じエンジンが愛車に積まれているということで、大きな称賛と期待を寄せられ世界中から数多くのオーダーをいただいています。その一方で、GT3マシンも量産モデルもエンジンオーバーホールのインターバルはほぼ同じですので、GT3カテゴリーに参戦するカスタマーチームにはランニングコストが抑えられるというメリットも見込まれます。私はこの新型M4 GT3マシンのコンセプトには非常に満足しています」

BMW M4 GT3
■全長5020×全幅2040×全高(可変)1308mm■ホイールベース:2917mm■排気量:2993㏄■エンジン型式/種類:P58/直列6気筒DOHCツインターボ■最高出力:590ps超■トランスミッション:Xtrac6速■車両本体価格:41万5000ユーロ(約5,500万円)

【BMW M4の詳細情報】  https://bmw.co.jp/2107cmm4

BMWのモータースポーツ活動はどうなる?

昨年のニュルブルクリンク24時間レースを制したROWE(ローヴェ)RACINGのM6 GT3(写真左)。今大会は最終局面でマンタイのポルシェ911GTRと死闘を繰り広げたが惜しくも2位に。

「モータースポーツ部門がBMW M GmbH傘下となったので、顧客のレース活動へのサポートを強化しています。もちろん新型M4 GT3の供給とバックアップもカスタマーレーシング部門のミッションですから、BMWのレースマシンを選んだカスタマーが安心して楽しくモータースポーツ活動を続けられるよう、マシンのパフォーマンスはもちろん、ランニングコストや車両の安定性・安全性、そして、それを動かすサポート体制もしっかり機能させねばなりません」

ちなみに、2018年10月からBMW M GmbHの代表取締役に就任したマルクス・フラッシュ氏は、2020年11月にイエンス・マルカルト氏からBMW Motorsportの代表を受け継いだ。この新型M4 GT3のローンチは、まさに彼がBMW Motorsport代表に着任して早々の重大ミッションということだ。

「M4 GT3の本格的な始動は2022年からになりますが、このニュル24時間レース後の、6月24から26日で行われるニュルブルクリンク耐久シリーズ(NLS)へのテスト参戦がデビューとなります。ここノルドシュライフェ(ニュル北コース)ではM4 GT3も数多くの走行テストを消化していますが、レース本番でこの新型マシンがどんな走りを見せてくれるのか、いまから楽しみです。このNLSでの走りを確かめてからになりますが、今季DTM(2021年シーズンからFIA-GT3規格)にスポット参戦する可能性もあります。大切なのは、来シーズンから世界中のカスタマーチームに安心してレースに参戦してもらえるようテストを重ね、FIAのホモロゲーションを確実に取得することです」

ニュルブルクリンク耐久シリーズ(NLS)第4ラウンドにテスト参戦を予定していた新型M4 GT3だが、6月25日(金)のセットアップ走行でマシンがダメージを負ってしまったため、残念ながら決勝レース出場は断念。

代表自らがレースに挑む目的は?

――――あなた(マルクス・フラッシュ代表)ご自身もBMW M2 CSレーシングでニュル24時間に初参戦するわけですが、代表自らがレースに挑むというこのプロジェクトはどのような意図ではじまったのですか?

第49回ニュルブルクリンク24時間レースに初参戦したマルクス・フラッシュ代表(写真右から2番目)。#241のBMW M2 CSレーシングは総合74位で完走を果たした。

「とてもシンプルです。BMW M GmbHとBMW Motorsportの代表としてビジネスを強化・拡大していく上で、実際に顧客と同じ立場を経験してみようと考えたからです。“レースに参戦したい”と考える顧客の中には、私と同じようにモータースポーツ初心者も多くいらっしゃいます。その方々と同じ立場で、『レースに出場するにはどうすればいいのか?』『レーシングチームの裏側はどうなっている?』『メカニックは?』『どんなサポートが提供される?』、そして私のような『レース初心者はピットでどう振る舞えばいい?』といった疑問点をイチから経験してみようと考えました。良い点も悪い点もしっかりと体験しなければ、優れたマシン作りもサポート体制も構築できません。自分が参戦したこともないのに、顧客に『レースに出てみませんか?』なんておこがましいでしょ?」

――――レース初心者がいきなり世界一過酷なニュル24時間デビューとは、かなりハードルが高かったのでは?
「ヨルグ・ヴァイディンガーやクラウディア・ヒュルトゲンといったBMW Mのインストラクターによる特訓からスタートしました。一昨年にM4の市販車でノルドシュライフェを2日間走ったのが初体験です。いきなり24時間レースデビューなんて、時間的にもコスト的にもとてもムリですよね。プロのコーチングは大切だと実感しました。新型コロナウィルスの影響で昨年はトレーニングの機会を失いましたが、ようやく今季のニュル耐久シリーズ(NLS)で、M2 CSレーシングをドライブするところまで漕ぎ着けました」

「はじめてのレース体験は、楽しさと怖さのミックスでした。『怖さ』というのはちょっと大げさかも知れませんが、素晴らしくも厳しいノルドシュライフェでは、この地に対するリスペクトなしでは何もはじまらことが十分理解できました。ですので、自分を過信せず、着実に走ることを念頭に置きました」

かつては、アストン・マーティンのDr.ウルリッヒ・ベッツやDr.アンディー・パーマ、アルピナCEOのアンディ・ボーフェンジーペン、トヨタ自動車の豊田章男社長など、名だたる自動車メーカーの代表がニュル24時間に挑戦している。

「かつてBMW Motorsportを率いていたカール・ハインツ・カルプフェル氏も、自らMINIを駆りニュル24時間に挑戦しました。顧客と同じ目線に立つことは、BMWにとってはごく当たり前なのだと思います。当然、私のような初心者が勝てるとは思えませんし、誰も期待していないでしょう。だけど、世界中の自動車メーカーがひしめくこのニュルブルクリンクでは、トップ自らがフラッグを掲げて存在感を示すことが大切なのです。まあ、BMW Mのブランドを代表して走ることがこんなに大変だとは思いませんでしたが(笑)」

――――24時間レースへの挑戦もさることながら、今季ニュル耐久シリーズを経験したことで収穫はありましたか?
「カスタマーチームの代表やジェントルマンドライバー達と同じ目線で交流ができました。みなさんと同じ経験をしてみて、はじめて気がついたことも多かったのです。顧客から直接フィードバックを得られた経験は素晴らしく、それこそが自分でレースを体験して得られた大きな収穫だといえるでしょう」

――――あなたの挑戦に刺激されたジェントルマンドライバーが出てくるかもしれませんね?
「これまで仕事が多忙でなかなか夢を叶えられなかったジェントルマンドライバーも、上位カテゴリーを目指す若手ドライバーも、このM2 CS レーシングなら10万ユーロ程度の年間バジェットで夢が叶います。BMW伝統のストレートシックスを積んだFRレーシングカーでのレース参戦はとても魅力的ですし、さらに上のGT4カテゴリーへステップアップするためにも最適です。今回の私の挑戦が幅広い年齢層や立場の方々がレース出場へ踏み出すきっかけになればいいですね」

BMW M2 CS Racing
■全長4461×全幅1854×全高(可変)1385mm■ホイールベース:2693mm■排気量:2979㏄■エンジン型式/種類:S55B/直列6気筒DOHC Mツインパワー・ターボ■最高出力:280-365ps/450ps/6250rpm■最大トルク:550Nm/2350-550rpm■トランスミッション:7速DCT■車両本体価格:14,990,000円(ベース・バージョン)/17,990,000円(450PSバージョン)※2021年6月28日より国内販売開始

【BMW M2 CS Racingの詳細と国内BMWモータースポーツ・ディーラーの情報はこちら】 

https://bmw.co.jp/2107cmmcr

2022年はBMW M GmbHの特別な年

「来年(2022年)はBMW M GmbH が創立50周年を迎えます。そしてニュル24時間レースも第50回記念大会です。奇遇ですが運命的な何かを感じますね。BMW Mモデルもレーシングカーも、ここノルドシュライフェでの開発に多くの時間を費やしていますから、ニュルはBMWにとって第2の故郷です。ニュル24時間レースとともにBMW M GmbHのアニバーサリーを迎えるなんて光栄です。来年の状況は予想できませんが、この地で大勢のBMWファンといっしょに50周年を祝いたい。そして来年もニュル24時間に挑戦したいと願っています」

――――半世紀を迎えることでBMW MとBMWのモータースポーツ活動は、この先どのように変化していくのでしょう?
「自動車産業とモータースポーツは、クルマを通して人々を感動させられる存在だと思っています。私の考えるモータースポーツ活動とは、常にBMWブランドと共に活動し、BMWのブランドパワーを高める最上級の存在なのです。モータースポーツテクノロジーは、各メーカーが誇る最高技術を集約したものです。しかし、それは技術面だけの競争であってはいけないのです。人々を熱狂させ、感動を与えられるような存在でなくてはならないというのが私の持論です」

このインタビューの事後となるが、BMW Motorsportは2023年のデイトナ(24時間レース)にLMDhプロトタイプ(ハイブリッド・システム搭載)で復帰参戦することを発表。この新規格のマシンが完成すれば、アメリカのIMSAやル・マン24時間を含むWEC世界耐久選手権への復帰も想像に難くない。

「近い将来にはBMW Mモデルも電動化にシフトせざるを得ないでしょう。これはもはや秘密でも何でもなく、時代に逆行できないという事実です。公表は控えますが、すでに開発プログラムも始動しています。ただし、たとえ内燃機関が消滅しても、“M”の真髄となるスポーティネスとパフォーマンスというDNAは必ず残しますのでご心配なく」

自らがステアリングを担い、その魅力を発信しながら新しいモータースポーツの時代を築きはじめたマルクス・フラッシュ代表。彼が率いる新生BMW MotorsportそしてBMW M GmbHの活躍が楽しみである。

フォト:Alexander Trienitz/BMW Motorsport

この記事を書いた人

池ノ内 ミドリ

武蔵野音楽大学および、オーストリア国立モーツアルテウム音楽院卒業。フリーランスの演奏家を経て、ドイツ国立ミュンヘン大学へ入学。ミュンヘン大学時代にしていた広告代理店でのアルバイトがきっかけでモータースポーツの世界と出会い、異色の転身へ。DTM、ル・マン/スパ/ニュルブルクリンクの欧州三大24hレースを中心に取材・執筆・撮影を行う。趣味は愛車のオープンカーでヨーロッパのアルプスの峠をひたすら走りまくる事。蚤の市散策。

■関連記事

関連記事

愛車の売却、なんとなく下取りにしてませんか?

複数社を比較して、最高値で売却しよう!

車を乗り換える際、今乗っている愛車はどうしていますか? 販売店に言われるがまま下取りに出してしまったらもったいないかも。 1 社だけに査定を依頼せず、複数社に査定してもらい最高値での売却を目 指しましょう。

手間は少なく!売値は高く!楽に最高値で愛車を売却しましょう!

一括査定でよくある最も嫌なものが「何社もの買取店からの一斉営業電話」。 MOTA 車買取は、この営業不特定多数の業者からの大量電話をなくした画期的なサービスです。 最大20 社の査定額がネット上でわかるうえに、高値の3 社だけと交渉で きるので、過剰な営業電話はありません!

【無料】 MOTA車買取の査定依頼はこちら >>

注目の記事

「ル・ボランCARSMEET」 公式SNS
フォローして最新情報をゲット!