アバルト初のBEVとなる500eがついに日本導入され早速そのステアリングを握る機会に恵まれた。果たして電気仕掛けとなったサソリにも“アバルトマジック”は健在なのか?そのファーストインプレッションをお届けしよう。
電動化時代においても“らしさ”は健在なのか
10月某日、アバルト500eの試乗車受け取り場所である地下駐車場に赴くと、そこにはこれからBEVに乗るというのに、盛大なエキゾーストが響き渡っていた。新型アバルト500eの目玉装備(!?)、サウンドジェネレーターから発せられるアイドリングサウンドだ。
これはアバルトの技術者が、約6000時間以上もの時間をかけてこのクルマのために専用開発したもので、同社の象徴たる“レコードモンツァ”のエキゾーストを忠実に再現しているという。
BEVなのにエンジン音がする、ということは前情報として知っていたので覚悟こそしていたが、そのあまりの音量の大きさに、筆者は乗る前から顔がほころんでしまった。これまで静かであることがある種のウリだった電動車界隈において、その真逆を行く存在が現れたことで「これは今までのBEVとはひと味違うぞ」という期待感が一気に膨れ上がってしまったのである。
早速クルマに乗り込んで走り出す……前に、簡単に車両の操作解説を受ける。走行モードは「ツーリズモ」「スコーピオンストリート」「スコーピオントラック」の計3つ。ツーリズモはいわゆるノーマルモードで加速の立ち上がりはマイルド、かつアクセルオフ時の回生も強い。後者ふたつはスポーツモードで、加速時のパワーの立ち上がりが鋭くなるのは共通だが、ストリートではアクセルオフ時に回生が強力に働き減速するが、トラックでは自身でブレーキペダルを踏むまで減速しない。電動車らしいワンペダルで走るか、今までのエンジン車のようなフィーリングで走るか、好みで選べるというわけだ。
前置きが長くなったが、いよいよ試乗開始。電動車らしくスルスルと走り出す。搭載されるモーターはベースとなったフィアット500eから最高出力で37ps増しの155ps、最大トルクは10Nm増しの230Nmとなっている。ガソリンエンジンのアバルト595に比べると、さして変化がないように映るかもしれないが、0→100km/h加速は7.0秒と595を上回るタイムをたたき出している(595は7.7秒)。
もとより短いホイールベースと、ワイドなトレッドから生み出されるキビキビとした走りを楽しむクルマだが、そこにBEV特有の低重心のお陰で、絶妙な安定感も加わった。街中を軽く流しているだけでも抜群に楽しい。
そしてそこに彩りを加えるのがサウンドジェネレーターだ。速度に合わせて発せられる音が高まっていき、ドライバーを駆り立てる。最初は正直必要性を疑っていたこの装備も、慣れてくると存外違和感がない。加速時のエキゾーストに合わせて、何度かあるはずのないシフトノブを探して左手が空を切ってしまったほどだ(このクルマは1速固定なので当然変速はできないのだが)。
なにはともあれ、このアバルト500eは電動化しつつもエンジン車だったアバルトのエッセンスをうまく取り込み昇華している。電動化してもアバルトの楽しさは健在だったのだ。
唯一のネックを挙げるとすれば価格だろうか。ガソリン時代のほぼ2倍は、興味本位で手を出すにはいささかハードルが高いかもしれない。ただ、回れ右でエンジン車を切り捨て電動化に突き進もうとしていた自動車業界において、一陣のすがすがしさを与えてくれるようなアバルト500eの存在意義を考えると、一概に高いとも思えない。その真価のほどを是非一度乗って確かめて頂きたい。
【Specification】アバルト500e
■車両本体価格(税込)=6,300,000円
■全長×全幅×全高=3675×1685×1520mm
■ホイールベース=2320mm
■トレッド=前:1470、後:1460mm
■車両重量=1360mm
■モーター形式/種類=46354481/交流同期電動機
■モーター最高出力=前:155ps(114kW)/5000rpm、後:—
■モーター最大トルク=前:235Nm(24.0kg-m)/2000rpm、後:—
■バッテリー種類=リチウムイオン電池
■バッテリー容量=42kwh
■一充電航続可能距離(WLTC)=303km
■サスペンション形式=前:マクファーソンストラット/コイル、後:トーションビーム/コイル
■ブレーキ=前後:ディスク
■タイヤ=前後:205/40R18
問い合わせ先=ステランティスジャパン TEL0120-139-595
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