未来を先取りした第二次フォワード・ルック
一世を風靡しつつも忘れ去られていたクルマ――1958年型プリマス・フューリーの人気を一躍リバイバルさせたのは、1983年の映画『クリスティーン(CHRISTINE)』、およびスティーブン・キングによる、その原作小説であろう。
【画像38枚】美しい仕上がりから制作過程まで。見せてくれ、クリスティーン!
プリマスは今はもうないブランドであるが、クライスラーのボトム・レンジを担う一部門であった。戦後のクライスラー系各車は、いずれも角張った地味なスタイリングが災いして、セールス面であまりパッとしなかったのだが、その状況を一変させたのが、名デザイナーのバージル・エクスナーである。ポンティアックやレイモンド・ローウィ事務所などを経て、1949年にクライスラー入りしたエクスナーは、まず1955年型で全ブランドのスタイリングを刷新。追い打ちをかけるように、1957年型でさらなる変革を行う。
エクスナー主導のスタイリングは”フォワード・ルック”を謳ったもので、1957年型のそれはフォワード・ルック第二世代ということになる。この年のクライスラー系各車は、いずれも低いボディに薄いルーフを載せたスタイリッシュなルックスの持ち主へと変化した。テールフィンはより大きく、明確に。これによりいずれのブランドも良好なセールスを実現し、プリマスは久しぶりに販売台数第3位に返り咲いた。この1957年型クライスラー系のショックが、2年後の1959年型GM系各車のスタイリングに、大きく影響を及ぼしたとも言われている。
第二次フォワード・ルックの特徴は、そのルックスを実現するために機構面にも変革を要した点である。フロントサスペンションに、コイルスプリングの代わりにトーションバーを導入したのだ。ただし、あまりにも変化が急激であったため、生産工程がそれに追いつかず、振動や錆、パーツの脱落など、クオリティの低下を招いたという側面もあった。
1958年型は前年のマイナーチェンジ版で、デュアルライトの認可を見越してのデザインが、ようやくその目的に適うものとなった(クライスラーやデ・ソート、インペリアルは一部地域で前年からすでに4灯ライトを導入)。プリマスのラインナップは下からプラザ、サボイ、ベルベディア、フューリーとなるが、フューリーはベルベディアをベースとしたプレミアム・モデルとでも言うべき存在であった。
フューリーの特徴は、まず外観ではボディカラーがホワイト/ゴールドに限定されていたことで、最初の1956年型からホワイトはアイボリー味を加えていき、1958年型ではバックスキンベージュに至っていた。ゴールドはフロントグリルやサイドモール内のアルミパネル、ホイールキャップなどに散りばめられ、ゴージャスなムードを強調している。インテリアも、この外観とコーディネートされた専用のものである。
フューリーのエンジンはデュアル・フューリーV-800と呼ばれるものが標準(フューリー専用)で、これは318-cid(5.2L)のV8に4バレル・キャブレターを2連装し、290hpを発揮した。オプションとして、ゴールデン・コマンドオと名付けられたものもあり、こちらは350-cid(5.7L)にやはり4バレル・キャブを2連装し、出力は305hp。これはフューリー以外のモデルでも選択可能となっていた。また、これにフューエル・インジェクションを装着したものも選べたが、構造が複雑なためトラブルが多発したという。
さて、そんなフューリーが登場する『クリスティーン』のストーリーをざっくり説明すると、邪悪な意思を持つ1958年型プリマス・フューリーがある意味主役となるホラー映画である(原作は青春小説という趣も強い)。気弱だがメカには強いアーニーがひと目惚れで購入した、ボロボロのフューリー、しかし、“クリスティーン”の愛称を持つこのフューリーは、何か“邪悪なもの”がとり憑いた魔性の1台で、救い主アーニーへの愛情から、彼に害をなすものを血祭に上げていく――これが基本的なストーリーで、映画も小説も大きく異なってはいない。
主役のクリスティーンは一応フューリーとされるが、劇中車は「PLYMOUTH」のエンブレムこそ付くものの「Fury」ロゴはなく、その辺はぼかされている。クリスティーンは特注で赤く仕上げられたという設定で、小説では詳述されているものの、そのあたりは映画では省略されている。冒頭シーンの描写から、その設定が引き継がれていることが何となく窺える程度だ。
撮影には20数台のプリマスが全米からかき集められたが、フューリーは希少かつ貴重であったため、同じボディを持つベルベディア、サボイ、そして基本ボディは共通である1957年型がそれらの大半で、1958年型フューリー/ベルベディアのパーツを使って外観を統一したという。このプリマスたちは、迫力ある走行シーンのため強力なエンジンを載せた仕様から、クラッシュのための“見た目だけ”仕様、そして隅々まで完璧な美しさを持つ仕様まで、様々にアレンジされたが、最終的には2台を残して全てが破壊されたそうだ。
21世紀の新金型キットだが、細部に気になるポイントも……
1958年型プリマスのプラモデル化としては、AMTが2002年に新金型キットとして1/25スケール・モデルのベルベディアをリリースしている(No.31156)。1990年代後半の同社製新規キットの流れを汲んだ、フレームまで別体のフルディテールモデルで、佳作と言ってよい内容だが、その数年前までの同社キットと比べると、モールドは若干シャープさに欠けるようだ。このキットがわざわざ新規金型でデビューしたのは、もちろん『クリスティーン』仕様を出すためで、AMTからは赤成型と白成型で劇中車仕様が発売されている。
ここでお見せしている作例は、このキットをストレートに組んだもの(デカールのみ『クリスティーン』仕様から流用し、それ以外はストック版キットを使用)だ。当サイトでは、以前にも同じキットをベースにクラッシュ・バージョンの作例をお見せしているが(下の「関連記事」参照)、こちらは見る者を魅了する美しい姿を目指した。以下、作者・畔蒜氏によるコメントをお読みいただこう。
「『クリスティーン』、この映画は知ってはいましたが今まで観たことはありませんでした。作例のためDVDを観ましたが、分かりやすいストーリーで、過激なバイオレンスシーンはないのに、それを想わせる演出が秀逸。全体的に暗く、得も言われぬ恐怖感が漂うといった印象でした。機械(クルマ)を擬人化するというのは、洋の東西を問わず心情に触れるところがありますね。
そう言えば私も以前、オートバイを手放す時、最後のツーリングで突然ブレーキが効かなくなったりエンストしたりして、『売らないでくれ』とバイクが反乱を起こしたかも? と脳裏をよぎった経験があります。
AMTのベースキットはベルベディアですが、インテリアはベルベディアともフューリーともつかない妙なモールドで、劇中車に合わせているのかと思うとそうでもなく、不思議な状態です。2012年にラウンド2からリリースされた、『クリスティーン』パッケージ版(No. AMT801)がありますが、内容は変わりません。ナンバープレートはそのキットのデカールを使っています」
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