きっかけは、手元にあったメーカー不詳の1枚
Z31型ニッサン300ZXと、ポール・ニューマンが操ったそのレース仕様マシーンについては、前編の記事(下の「関連記事」参照)にてすでに述べた。ここでお見せしている作品は、その300ZXをタミヤ製プラモデルから改造して再現したもので、自動車模型専門誌「モデルカーズ」281号(2019年)にて掲載された作例だ。ここでは以下、そのとき併せて掲載された、作者・飯塚氏自身による解説をお読みいだたこう。
【画像48枚】クールハンドが300ZXを形にしていく様子を見る!
「元はと言えば、自前のデカールストックの中に20年以上も前からあった1枚のデカール。メーカーも車種も記されてはいないが、色々調べていくとSCCA(スポーツカークラブ・オブ・アメリカ)の規定に沿ってボブ・シャープ・レーシングが製作した、300ZXのレーシングカーであることがわかった。
1984年から1987年半ばまで、SCCA主催のトランザム・シリーズなどで活躍しており、ドライバーには俳優の故ポール・ニューマン氏を起用し、優勝も経験しているとのことだった。日本ではスカイラインの印象が強い氏であるが、彼の地アメリカでは『Z-car』遣いとして名を馳せていたと言えよう。大幅にモディファイされたボディも、逆にいえば基本形はZ31のそれを踏襲していることから、タミヤのZ31をベースに改造すれば比較的簡単にこのデカールが『消化できる』と考え、半ば軽い気持ちで今回の制作をスタートさせた。
ボディワークはフロント部や前後フェンダーが主となる。この手の改造、通常はエポキシパテを使うのだが、今回はその量だけでもかなりのボリュームになると想像できたので、プラ板工作でフェンダーのアウトラインを作っていくこととした。実際、各面の図面を作成し、それに沿ってプラ板をカットし、アールを調整しながら組み立てていく。
位置関係に留意しながらボディへ接着していったプラ板製フェンダーだが、パッと見は良いものの、やはり各部の面構成においては、プラ板から作り出せる単純な二次曲面では限界があり、結局はパテのお世話になりながら面出ししていくこととなった。
バラバラに避けるのを繋ぎ合わせながら
さて、いよいよそのデカールであるが、一見黄ばみもなくキレイな状態だったもののいざ貼っていくと、カッターで無数に筋を入れたかのように、バラバラに裂けていく。経年劣化してしまった古いデカールにはよくある症状だ。プライベートな作品であればここで『ハイ終了!』となるが、依頼を受けた本作品ではそう簡単にはいかない。裂けたピースを一個ずつ、ピンセットでしかるべき場所に並べていき、そのまま定着するのを待った。
今回は奇跡的にほとんど分からないレベルまで修復できたが、一時はどうなることかと頭を抱えた。そんなことから、残りのデカールには急きょシートの状態でクリアーを吹き付け、塗料の被膜を一層設けた上で貼り付け作業を進めていった。デカールはやはり生モノだと痛感した。
次に内装だが、ここでも各国のレギュレーションによるクルマ造りの違いを実感することとなる。私が普段制作するハコ車のレーシングカーは、ヨーロッパか日本のモノが多く、つまりはドアと窓があって、外と中が区切られている造りである。しかし今回のカテゴリーのクルマは、ドアは存在せずサイドの窓ガラスもない。助手席側には、室内(?)の空気を使って何かのクーラーを冷却するファンがむき出しに取り付けられている等、どこからが外で、どこからが室内と言って良いのかよく判らない造りだ。
更に前後ウィンドウに沿うように設置された補強材も無骨な雰囲気を醸し出すなど、とにかく機能最優先で造りがワイルド。この手のレーシングカーの造りに詳しくない私としては、かなりショッキングな構造を興味深く楽しみながら制作させて頂いた。
リアの大きめのタイヤは1/20 F1マシーンからの流用。全体の無機質な空気の中に柔らかみを表現したかったドライバー保護ネットは、古くなった布団の切れ端から造っていくなど、適材適所あちらこちらから、それに見合う素材を探したのだが、こんな作業も改造プラモの醍醐味である。
詳細は制作記をご覧いただきたいが、今回の様な大幅なボディ改造も元をただせば、信頼できるベースキットがあってこそ、そう実感した。すでに30年以上も前の製品だとは思えない、かっちりとした雰囲気のタミヤのZ31も、そろそろ再版されることを切に願ってやまない(注:その後、このキットは2021年に再販された)」
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