【ニューモデル情報通】Vol.11 歴代シトロエンから、新しいフラッグシップ「C5 X」を読み解く

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ミドルクラス&フラッグシップシトロエンの系譜車、復活! その名も「C5 X」

新しいシトロエンのフラッグシップ「C5 X」。最新と伝統のシトロエン・デザインを融合している。

シトロエンのアッパーミドルサルーン「C5」の生産終了から、早6年。しかし、シトロエンはこのクラスのことを忘れてはいなかった(感涙)。そう、2021年4月12日に、後継モデル「C5 X」がワールドプレミアされたのだ。新しいC5は、「X」の名が示す通り、SUV時代のニューモデルとして、サルーン・ハッチバック・SUV・ステーションワゴンを高度にミックスした新しいクロスオーバーモデルとして登場。そしてまたC5 Xは、2012年以来消えていた旗艦、「C6」の血も受け継いでいる。

さらにC5 Xは、新開発のシトロエン・アドバンスト・コンフォート・アクティブサスペンションや、アドバンスト・コンフォート・シートなどがもたらす「究極の快適性」により、車内での真の安らぎを提供するという。シトロエン自らが「シトロエンのフィロソフィーを完璧に体現」と言う通り、彼らのクルマにふさわしい仕上りになっているだろう。

https://carsmeet.jp/2021/04/13/190805/

大径タイヤがSUVらしさを醸すリアビュー。シトロエンは過去に何度も、フラッグシップにもハッチバックボディを採用している。その伝統は、C5 Xにも継承された。

たしかにC5 Xは、かつてのC5やC6のような純粋なサルーンではなくなってしまったが、フラッグシップサルーンにSUVの要素を盛り込んだこの新しいアプローチは、高級SUVもフォーマルカーとして認知されている現代において、一つの手法として大いに注目されるのではなかろうか。

そこで今回は、この新しいフラッグシップ・C5 Xの「シトロエンらしさ」を、前身となるクルマたちのサイドビュー写真から読み解いてみたい。

【ミドルクラスサルーン編】

【GS】1Lクラスでハイドロニューマチックを採用した革新的小型車

GSは1L空冷フラット4エンジンを搭載。1979年には内外装を大幅に変更、リアにハッチゲートを備えたGSAに進化している。写真は、1977年頃の「GS クラブ」。

1960年代までのシトロエンは、下が空冷フラットツインの「2CV」(とそれに類するディアーヌ、アミなど)で、上が全長4.8mにも達する大きなモデルDS(DS/IDシリーズ)という極端なラインナップだった。その中間を埋めるべく、1970年に登場したのが「GS」である。

1Lクラスながら、DS系の油圧サスペンション「ハイドロニューマチック」を採用。軽量でコンパクトな空冷フラット4エンジン、空力性能に優れたファストバックスタイルのモダンなボディなど、独自性が詰まった革新的な小型車だった。長いフロントオーバーハングと対照的な短めのリアオーバーハング、スパッツで隠されたリアタイヤ、猫背のルーフという「シトロエン・ルック」は、DS以来の“シトロエンらしいフォルム“を形作る。

【BX】プジョーと共通設計とは思えない、シトロエンらしい独創性に溢れた一台

GSと異なり、BXではプジョー製の水冷直4エンジンを搭載。写真は最初期の中堅グレード「14RE」。ブラックアウトしたピラーも、モールディング類も一切なく、衝撃的なまでに潔い。初期モデルになればなるほど、デザインや設計のピュアさが滲み出るのは、シトロエンの伝統。

1970年前半に経営難に陥ったシトロエンは、フランス政府の仲介によりプジョー傘下に組み入れられ、1976年に「グループPSA」が誕生した。PSAの一員となった同社では、ニューモデルは基本的にプジョーとの兄弟車となった。

そのため、GSAの後継として1982年に生まれた「BX」も、「プジョー305」のコンポーネンツを利用していた。BXはデザインをベルトーネ(チーフはマルチェロ・ガンディーニ)、足回りにはハイドロニューマチックを採用。内外装のみならずエンジン特性・乗り味まで徹底して305と作り分けていた。エクステリアは、ディティールこそ角ばっているが、フォルムは、まさにシトロエンのそれである。

【エグザンティア】美しいデザインと高い実用性を誇る、ミドルクラスサルーンの傑作

クオータービューが抜群に美しいエグザンティア。基本的な思想もGS・BXを継ぎ、広く快適な車内、素晴らしい乗り心地は健在で、室内の広さも魅力だった。ハイドラクティブの改良型「ハイドラクティブII」の採用もトピック。V6版も追加された。

BXは晩年に向かうにつれ、初期型の特徴だったエキセントリックさは影を潜めていった。これは90年代前後、シトロエンが国際的な販売競争力をつけるべく、内外装から独自性や奇抜さを抑えようとしていたため。1993年のジュネーブ・ショーで発表されたBXの後継が「エグザンティア(本国ではクサンティア)」でも、その傾向は進み、独創性を薄めた内外装デザインとなった。しかし、BXに続きベルトーネが線を引いたエクステリアは極めて美しく、しっかりとシトロエン・フォルムを継承。インテリアの質感も大幅に向上しており、このクラスの傑作車として、現在でも高い評価を得ている。

【初代C5】車体の大型化と “一般化” を迎え入れた新世代シトロエンの旗手

曲面・曲線主体の初代C5。2004年のマイナーチェンジでは、前後が大幅にモディファイされ、シャープな印象を得た。写真は、セダンのV6モデル。セダンと称するが、実際にはGSA以来続く5ドアハッチバックである。余談だが、筆者もBX、XANTIA、初代C5を乗り継いでいる。

エグザンティアのあとを継いだのは、2001年登場の「C5(フランス語読みだとセ・サンク)」だった。サスペンションに油圧サスを用いていたのはこれまで通りだが、初代C5の「はいドラクティブIII」からは、サスペンションと一緒のポンプで制御されていたブレーキやパワーステアリングの油圧回路が切り離され、一般的な「非ハイドロ車」に近づいた。

この頃のDセグメントは大型化と高級化が進み、C5もそれに呼応して車体を大型化。Xmの生産終了後、C6が出るまでV6版が旗艦を務めたこともあった。ワンモーション的フォルム、高い全高を特徴とするが、そこはシトロエンだけあり、長い鼻、短いリア、大きなキャビン、猫背のフォルムを持つ。

【2代目C5】さらなる高級化と完成度の高さを誇る、最後のハイドロシトロエン

完成度の高いハイドラクティブIIIにより、極上のフラットライドを全速域で堪能できる2代目C5。デビュー時のエンジンは、エグザンティア時代から使ってきた2L直4と3L・V6を積んでいたものの、2009年から、直4をBMWとPSAが共同開発した1.6L直噴ターボに換装。「デカい車体に小さいエンジン」という、往年のフランス車らしい組み合わせがファンに歓迎された。写真は、ワゴンの「ツアラー」。セダンとワゴンボディが用意されるのはGS以来の伝統である。

2代目C5は2007年にデビュー。セダンはハッチバックを廃止してトランクが独立、名実ともに「純粋なセダン」となった。車体はさらに大きくなり、全長は約4.8mに迫ったが、室内の高級感はさらにアップしていた。エグザンティア・初代C5同様、V6モデルがカタログにあり、旗艦のC6が生産終了後は、その任を引き継いだ。サスペンションはハイドラクティブIIIプラス。このモデルが、シトロエン最後のハイドロニューマチック系サスペンション搭載車となった。

セダンのスタイルは、これも見事にシトロエン。大きなフロントのマス、切れ上がったテール、なだらかに下がっていくルーフ、6ライトウインドウなどが、実にシトロエンらしい。

【フラッグシップ編】

【DS】シトロエンを代表する、1955年に降り立った “宇宙船”

他のどんなクルマにも似ていない、DS。骨格の上にアルミやFRP、スチールのパネルを貼るというボディ構造も画期的だった。未来的な機構と外観に比し、当初は戦前のトラクシオン・アバンの直4エンジンを継続していた。「猫目」マスクは1967年以降の姿。

シトロエンを代表する名車「DS」に搭載されたハイドロニューマチックは、一つのポンプでサスペンション・ブレーキ・ステアリング、クラッチやシフトチェンジまで制御を行っており、当時のクルマとしては驚くほどの省力化を実現していた。1955年の登場後、数限りない改良を行いつつ、同社の旗艦モデルとして1975年まで生産されたDSは、日本人の我々から見たら宇宙船のような不思議なデザインだが、累計生産台数は145万台に達しており、かの地では一般的なクルマだった。目立ったグリルを持たない尖ったノーズ、前後で極端に幅が異なるトレッド、3mを超える長大なホイールベースなど、外観上の特徴は枚挙にいとまがない。なお、装備を減らした廉価版は「ID」と呼ばれた。

【CX】DSを置き換えたフラッグシップは、流麗なデザインが特徴

CXのエンジンはDSから引き継がれたものだが、搭載方法が横向きに。DS譲りのハイドロニューマチックも搭載されていた。写真は、1984年頃の「GTIターボ」。1985年には大規模なマイナーチェンジを実施して、セリエ2に発展した。

20年間作られたDSシリーズを置き換えたのは、1974年デビューの「CX」。DSの独創的なボディ構造に比べると、CXでは騒音・振動対策からペリメーターフレームという古典的な手法を採用。GSを大きくしたような流麗なスタイルは、空力性能に優れており、CXという車名は、空気抵抗係数の記号「Cx」がそのまま採られた。一見ハッチバックのようだが、トランクが独立したセダンなのもGSと同じ。グリルも小さく、他社の権威的な高級車とは一線を画す。尖ったノーズと猫背ルーフが、完全なシトロエン・フォルムを形作っていた。

【XM/Xm】電子制御を駆使した、ハイテク時代の新しいフラッグシップ

上位モデルにV6エンジンを得たXM 。そのスタイルはフラッグシップモデルとは思えぬほどのウェッジ・シェイプで、メッキの使用も著しく少なかった。テールゲートが付いたハッチバックなのも、実用性を重んじるフランス車らしい一面。これは、DS以降のシトロエン旗艦モデルの本質のひとつが「大きな実用車」だったことの表れでもある。1994年のマイナーチェンジでは車名を「Xm」に変更。写真は、前期型の「3.0 V6」。

長らく生産が続いたCXの後継は、1989年の「XM」。シトロエン独自設計が多かったCX と異なり、XMはプジョーの旗艦「605」の兄弟車となり、エンジンもプジョー製を積んだ。サスペンションはハイドロニューマチックを継承しただけでなく、さらにハイドロニューマチックの欠点を電子制御で補った「ハイドラクティブ」も搭載。ベルトーネのマルク・デュシャンが手がけたシャープなスタイルは、シトロエンの文法を完全にトレースしていた。リアドア後半でキックアップした意匠は、XMより前の「SM」、そして最新モデルC5 Xにも見ることができる。

【C6】21世紀の奇跡、「シトロエンじゃないと生み出せない」高級モデル

サイドビューをみると、その特異なプロファイルがよくわかるC6。シトロエンらしさの要素を盛り込み、かつ極めてモダンに仕上げたその手腕に感服。足回りにはハイドラクティブIIIプラスを採用していた。

Xm生産終了後5年が経過した2005年から2012年まで販売された「C6」は、シトロエンらしさを前面に押し出した内外装を持っていた。極端に長いフロントオーバーハングは、シトロエンの特徴ともいえるが、C6ではなんとそれが1.1mもある。コンサバティブな傾向にある高級車で、しかも画一化が進む21世紀においてここまで前衛的に振ってきたことは大きな驚きだった。販売台数は伸び悩んだものの、DS直系の旗艦モデルにふさわしいクルマであることに間違いない。

【スペシャリティ&SUV編】

C5 Xにつながるシトロエンとして、スペシャリティカーとSUVも取り上げたい。

【SM】マセラティ・エンジンを得て、200km/hの壁に挑んだFFスポーツカー

C5 Xとの系譜的なつながりはないが、シトロエンの技術の粋を集めて開発された高級グランツーリスモ「SM」も、この項目で取り上げておくべきだろう。キックアップしたウインドウの処理も、C5 Xに引き継がれているように見える。自社のアイデンティティだったFFの可能性に賭けたSMは、マセラティのパワフルなV6エンジンの性能も相まって、シトロエン初、FF車初の200km/hの壁を突破。当時としては異例の「FFスーパーカー」だった。

【DS5】ワゴンとサルーンを融合した、スペシャリティクロスオーバー

名車DSの独創性や革新性を昇華させ、再構築・具現化したのが、2009年に発足したシトロエンの高級ブランド「DSライン」。2015年からは独立して「DSオートモビル」となり、車名からシトロエンが消滅。あえて「シトロエンらしさ」という枠を取り払った、独自の価値観を備えたクルマたちを生み出し続けている。ブランド名は伝統のDSだが、ヘリテイジデザインに頼っていないのも特徴だ。

DSブランドのフラッグシップ「DS5」は2011年に登場した。「5」という車名だが、プラットフォームはひとつ車格が下の「C4」と同じで、ハイドロ系油圧サスも持たない。だがその外観はシトロエン以外のなにものでもない。サルーンとステーションワゴン、さらにはスペシャリティクーペも要素に含むクロスオーバー車、という新しいモデルでもあったDS5に、同じくクロスオーバーモデルであるC5 Xへの影響が見て取れるような気がするのだ。

【C5エアクロスSUV】C5の名は伊達じゃない! SUVらしからぬ抜群の乗り心地

すっかりSUVが売れ筋となった昨今。各社ともにSUVのラインナップを強化するのは当然の成り行きだ。シトロエンもC3エアクロスSUV、C5エアクロスSUVを販売中である。SUVといえど、そこは流石のシトロエン。ハイドロ系技術が消滅してしまったあとも、KYBヨーロッパと共同開発した「PHC(プログレッシブ・ハイドロ―リック・クッション)」によって、芯がありつつもしなやかでソフトな乗り心地を提供。「シトロエンの名、C5の名は伊達じゃない!」と叫びたくなる仕上がりになっている。まろやかなSUVだ。

【そしてC5 X】快適性を重視して開発された、新しい旗艦に大注目

ラストに、C5 Xのサイドビューをご覧いただこう。こうして歴代のシトロエン各車を見てみると、C5 Xには、シトロエンらしさを生む要素が溢れていること、シトロエンが過去に生み出したサルーン(ハッチバック)、ワゴン、SUV、スペシャリティ、クーペの延長上にあることが改めて感じられる。C5 Xの日本上陸はまだ先と思われるが、実車を見られること、そしてステアリングを握れる日が楽しみだ。

 

この記事を書いた人

遠藤イヅル

1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。

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