EVブランドへとシフトする
いまから4年前のフランクフルト・ショー会期中、北米で発覚したフォルクスワーゲン(VW)のディーゼル不正ソフト使用事件は、当然のようにドイツ本社へと波及。当時の取締役会長Dr,ヴィンターコーンをはじめとするボードメンバーのほとんどが辞職、開発担当重役のヴォルフガング・ハッツ、そしてアウディ社長のルパート・シュタッドラーなど、特に関係が深いと思われた人物が検察による事情聴取のため数カ月も拘留されるという事態に陥った。そしてアメリカ市場においては、不正ソフト搭載で販売した47万5000台のオーナーに対する買い上げ補償、そして罰金などを含め、これまでに250億ドル(約3兆円)を支払っている。
従来に比べるとややスマートに見える、デジタル時代を象徴するVWの新しいロゴマーク。最新のBEV、ID.3にまず最初に採用される。
しかし、もっとも暗い影を落としたのは「フォルクスワーゲン」というブランドに対する信用問題である。そこで同社は、すぐにトランスフォーム2025+という課題を自ら掲げ、そこに向けて邁進。2015年からこれまでに企業構造の再構築を達成し、2020年からは先達(リーダーシップを持った)企業として、2025年には様々な領域においてトランスフォーメーションを行っていくことを確認している。そして今回、新しい企業イメージを確立するべくロゴとキャッチフレーズを刷新した。
当然ながら世界中の販売店のロゴマークもCIとともに変更されることになる。
ロゴはこれまでのような3次元ではなくフラットな2次元デザインで、デジタル時代における柔軟な対応を軸に考え出された。また、男性の声で「フォルクスワーゲンこそが自動車!」というやや独善的なトーンだったキャッチフレーズのボイスオーバーを、女性の声で「フォルクスワーゲン」と囁くように変えている。
稀代の天才エンジニア、Dr,フェルディナンド・ピエヒ。あらゆる面でVWグループを牽引し続けた彼の功績は計り知れない。
そして、筆者がこの新しいVWのロゴとキャッチフレーズについて本社で説明を受けた3日後、Dr,フェルディナンド・ピエヒの訃報が伝えられた。
フェルディナンド・ポルシェの孫であった彼は、直系の中でもっとも優れた自動車エンジニアであり、同時にエンスージャストでもあった。自動車の本質をハード/ソフトの両面で知り抜き、先見の明にも秀でていた。現役中、彼はマネージメントを集めての新車評価会が好きで、ここで開発に携わったエンジニアたちと積極的に意見交換をしていた。聞くところによると、今日のVWではもはやこうしたイベントは行われていないらしい。
新たらしいロゴに象徴される同社の新しい幕開けと、稀代の天才エンジニア、Dr.ピエヒの死去は、どこか時代の移ろいを感じさせる出来事だった。それがわずか3日という時間の流れの中で起こった偶然に、感慨深いものを覚える。