12年前のモデルとは思えないほどの高いボディ剛性
またこうしたモデルにこそ、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を機軸とした先進安全装備が欲しかった。油圧式から電動パワステへのコンバートは容易でないのかもしれないが、サーキットのような然るべき場所へ着くまでの安全蔵置としてこれを装備するのは悪くないと思う。たとえ標準仕様のGT-Rが「ストリート」を意識したモデルだとしても。また今後も生き残る! という意思表示を見せるためにも、アイドリングストップ機能を搭載して欲しかった。
こうして普段使いに磨きをかけたMY20だが、その神髄は間違いなく「R」モードにある。コンソールのスイッチを押し上げて長押しすると、GT-Rは臨戦態勢に入る。ダンパーは引き締まり、重たいV6エンジンを積んだノーズが、これまでよりもずっと早いテンポでコーナーの内側へと入り込んで行く。
ブレーキに対してはノーズをじわりとダイブさせ、操舵に対しては穏やかなロールモーメントを起こす。そんなお手本のような挙動が一変して、一気に全てをネジ込む走りへと変貌するのである。さらに路面の起伏で跳ねたり、ピッチングが起こらないのも素晴らしい。高められた減衰力はしかし、突っ張ることなく荷重を受け止めている。これぞ基本となるボディ剛性の高さなのだと思う。
吸気漏れを抑制するというアブレダブルシールの効果は、正直わからなかった。匠の手によって組まれたエンジンはとにかく精緻に周り、2機掛けのターボは鋭く過給して怒濤のパワーを紡いで行く。むしろどこまでも伸び続けてしまいそうなパワーを諫めるために、シフトアップが必要だった。ただその速さを落ち着いて制御し、操縦できたことこそが、エンジンの洗練であり、シフト制御を先鋭化した恩恵だったのかもしれない。570PS/637Nmというパワー&トルクは最新の911ターボ(540PS)を上回る数値であり、これに古さなどは微塵も感じられない。
比較次いでに言えば911ターボや、同じセダン形状で言えばメルセデス C63AMGの洗練されきった身のこなしと比較して、Rモードに入ったGT-Rは粗野で荒々しい。フロントにドライブシャフトを通す関係から明らかに高まった重心を、上から抑え込むようにシャシーがねじ伏せる。センターパネルのデジタルメーターを見れば、フロントには常に微弱なトルクが掛かっている。そのことからも分かる通りハンドリングは弱アンダーステアが基本だが、だからこそGT-Rは“踏める”クルマになっている。
たとえば6速のデュアルクラッチは、もう少しだけ細かくクロスレシオ化した多段化が望ましい。今の安定性を確保したまま、さらにこれを曲げて行くディファレンシャルや4輪制御技術があれば、さらに素晴らしい。こうした進化は、次期型にキャリーオーバーされるべき内容なのかもしれない。
明らかに、無骨。
しかしその味わいは、決して価格差や年次の古さだけがもたらすものではないと感じる。スポーツカーに比べ、スポーツとはいえセダン然とした腰高感。広く開放的なキャビンがもたらす解放感にはミスマッチなほど強烈な加速力を与え、それを力でねじ伏せ安定させる不思議な高揚感こそが、GT-Rのキャラクターなのだと思う。
それが刹那の快楽であったとしても。こうしたGT-Rとしての本性を味わえる一瞬があることに、MY20の価値がある。だからこそ、普段の快適性が重要な意味を持つのだと思えた試乗だった。
GT-Rは、やっぱりニッポンの宝である。
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