星のマークでお馴染みの模型メーカー株式会社タミヤ(以下タミヤ)は、2017年6月24日に1/6オートバイシリーズ・プラモデルの最新作「Honda CRF1000L アフリカツイン」を発売した。同日、それを記念したトークイベント「RIDE AFRICA TWIN MTG! at タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店」が、タミヤのオフィシャルショップであるタミヤプラモデルファクトリー新橋店で開催された。
全長390mmにもおよぶ大型モデル。会場には組み立てる前の各パーツやパッケージ(写真左)、プロモデラーに手による、汚し塗装が施された作例(写真右)なども展示されていた。
当日のイベントは2部構成となっており、第1部は、実車のアフリカツイン開発に携わった株式会社本田技術研究所 二輪R&Dセンター(以下ホンダ)の飯塚 直氏と、小松昭浩氏のお二人をゲストに迎え、その開発の経緯やアフリカツインの魅力をモータージャーナリストの松井 勉氏と共に語る、いわば“実車編”。第2部は、ホンダからのゲストお二人に、プラモデルの開発にあたったタミヤ開発部の海野剛弘氏、古谷隆久氏を加え、プラモデル開発の裏話やその見どころが語られた“模型編”という内容で行われた。
今回はプラモデル開発スタッフのトークを中心とした第2部、“模型編”の模様をお送りしていく。
※第1部の模様はコチラから!
長い歴史を持つタミヤのバイクプラモデル
タミヤがプラモデルの開発・製造をはじめたのは1960年から。当初そのモチーフは、戦車や軍艦、戦闘機などがメインで、オートバイのプラモデルはそれよりやや遅れた1970年に登場した、1/6スケール「ホンダドリームCB750FOUR」がその第1号となる。
タミヤ製オートバイプラモデルの第1号であるホンダドリームCB750FOURも当日展示。当時の模型誌では「まるで本物のオートバイを組み立てているようだ」と、高い評価を得た(写真左)。当時、小学生だったというタミヤの海野氏(写真右)は「街中に置かれたCB750FOURのメーターが240Km/hまであって驚いた。」という。
その後、約半世紀にわたって数々のオートバイがプラモデルがタミヤからプラモデル化されたが、中でもホンダ製オートバイのラインナップ数は約60車種にもおよび、これは単一メーカーとしては最多だという。
ファニーなモデルからGPマシンまで、さまざまなホンダ製オートバイが揃うタミヤのプラモデル。スケールは大型の1/6と手頃な1/12が主流。ちなみにアフリカツインのようなオフロードバイクは、ラインナップの中でもかなり少なめで、珍しい。
開発のスタートは実車取材から
そして話題はプラモデルの開発過程に。タミヤでは模型化するモチーフが現存する場合、必ずその実物を取材するところからスタートする。過去にはホンダF1(RA273)の取材のため、海外のグランプリへと空輸される直前の羽田空港へと赴いたり、戦車や戦闘機を取材するため、海外の博物館までスタッフが足を運んだこともあるという。
タミヤの実物取材の様子を雑誌で見たことがあるというホンダの小松氏は、「まさか自分の作ったオートバイが、同じように取材されるとは思ってもみなかった」とコメント。
今回のアフリカツインでは、実車をホンダから借り受け、静岡県にあるタミヤ本社で取材が行われた。このような場合は、プラモデル本体の開発スタッフに加え、スライドマークの担当者やパッケージデザインの担当者など、さまざまな立場のスタッフが一同に揃って、それぞれ必要となるカットを撮影していくという。
プラモデル開発のまとめ役というポジションである古谷氏からは「(実車全体の)写真はその現場でできるかぎり遠くから撮ります。これは近くから撮影すると写真が歪んでしまうからです。また、あとあと設計の作業をする際にサイズ出しができるよう物差しを当てて写真を撮ります。同時に採寸もしてはいますが、それが間違っている場合もあるので、(物差しと)一緒に写真に収めるのが確実なんです。」と、プラモデル化の資料とするための独自のノウハウが、撮影にもあることを語った。
併せて、一般に販売されている雑誌や書籍なども資料として収集するが、より詳しい資料はプラモデルの設計が終わってから出てくることもしばしば。古谷氏も、第1部での飯塚、小松両氏のを実車解説を「もっと早く聞きたかった。」と苦笑いした。
実車との共通点も多い設計作業
実車取材と資料収集が終わるといよいよ設計作業へと移るが、まず最初は手描きのイラストでパーツ分割を想定したラフを作成し、設計スタッフの人数やどれぐらいの期間でできるかを検討。同時に模型ならではのパーツの分割や一体化などのアイデアといった構想もこの段階で練っていく。このイメージ作りはコンピューターを使った3D CADによる設計が当たり前になった現在も、昔から変わらず行われているといい、これに対し小松氏も「我々もすごく似た絵を、本当にこんな感じで描きます!」と、設計作業での実車と模型の類似点に驚きの表情を見せた。
古谷氏による手書きのラフスケッチ(写真左)。スライド金型によって一体成型が実現したクランクケースの3D CAD画像(写真右)。
設計がコンピューターによる作業へと移ると、まずはコアとなる部品を作るところからはじめるという。今回のアフリカツインの場合はエンジンのクランクケースで、このコアとなる部品がないと、組み立て時の誤差で、最終的に部品同士が合わなくなることもあるとか。
その複雑な形状とディテールの再現するために成型にはスライド金型が用られ、分割することなく1つの部品として成立させているのも見どころ。これついて海野氏は「そっくりそのままというわけにはいかないが、できるかぎり実車のクランクケースに近付けようしたら、結果的に本物と同じようなパーティングラインをとるようになった。なるほどなぁ、と。」と、ここでも実車と模型の開発での類似点の多さが語られた。
また、アフリカツインのプラモデル化にあたり開発スタッフが重要視した部分のひとつが、前後のスポークホイールだという。「過去にもスポークホイールのオートバイは製品化しているんですが、いままではクロス部分を一体にしていた。これはこれで合理的な設計で、組み立てやすく強度も高いんですが、やはり実車とは構造が異なる。今回、第1部でも語られたアフリカツインの走破性や世界観を表現するために、スポークだけで4つのパーツに分割した。」と古谷氏が語るとおり、ホイールは実車の構造に近い組み立て式となり、その素材も折れにくいABS樹脂が採用されている。さらに専用治具も同梱され、誰にでも簡単に組み立てられるようになっているという。
金属部品を多数使用し、強度を高めた可動式の前後サスペンション。リヤサスペンションのリンク部分はネジ止め式となっているが、動きが渋くならないよう、カラーを介してネジを締め込むようになっている。
そのスポークホイールを支える可動式のサスペンションも、内蔵するバネの強さを細かく調整し、自然な姿勢がとれるようになっている。実車と違い軽量なプラモデルで、スタンドのある・なしどちらの状態でも自然な姿を再現するには、かなり苦労したそうだ。
さらに、2分割のサンドイッチ構造にすることで、リアルさと組み立てやすさを両立したドライブチェーンや、立体感のある奥行きが再現された二眼ヘッドライト、メッキパーツにグラデーションがかかったスライドマークを貼ることで実車の雰囲気を出したエンブレム、強度を高めるために多数用いられた金属パーツやビス類など、アフリカツインの世界観を1/6というビッグサイズで再現するための数々の工夫が語られた。
でき上がった部品はコンピューター上で組み立てることができる。その凝縮感はマスの集中化を図った実車そのままだが、このすき間のなさはプラモデル化するときの“逃げ場”がなくなるため設計には苦労がつきまとうという。一方で古谷氏は「実車がすき間なくギチギチに設計されていることがすごく分かるので、それが楽しい。」とも。
事実、強度を保つため、フレームの部品は当初一体型とする案があったが、それではエンジンが載せられなくなるため、結果的に実車同様の分割式になったという。「それでも少しひねりながら作業しないとエンジンが入らなかった。プラモデルを作ると、そういう実車の攻めた作りの部分も分かって楽しめる。」と古谷氏。この話を受けて飯塚氏も「実車もエンジン搭載がかなり厳しい。いま『ひねって載せているのではないか?』とおっしゃったが、生産ラインもそういうカタチになっています。」と応えた。
金型の製造と成型を経て、いよいよ製品へ
個々の部品の設計が終わると、今度はそれを成型するための金型の製造へ。金型のもととなる金属ブロックに、小さなドリルを使った切削加工や電気で金属を溶かす放電加工などを施して基本の形状を作り、最終的には人の手作業によって仕上げられる。
金型を製造するための大型の機械(写真左)。先ほど話題となったクランケースの金型は、上下2方向に加え、3方向に抜けるスライド金型が用いられ、全5方向から型抜きをすることで、複雑な形状を再現している(写真右)。
完成した金型は射出成型機という巨大な機械にセットされ、その内部に溶かしたプラスチックを流し込むことで、部品が成型される。このときの圧力は、1平方cmあたりなんと300kg! 海野氏は「流すというより無理矢理押し込む感じ。細かなものなので隅々まで(樹脂を)回していくのが非常に難しい。」と、そこには長年の経験とデータが不可欠であることを語った。
プラモデルを作ることで見えてくる実車の魅力
こうした作業を経て、われわれ一般ユーザーの手へと渡るプラモデル。完成した姿は、ホンモノと見間違うほどのリアルさだ!
タミヤ製の1/6アフリカツインでは、実車でも人気の高いパールグレアホワイトとヴィクトリーレッドの2色のカラーリングを選択可能。このスライドマークについて小松氏は「タミヤさんからチェック用のスライドマークがきたとき、私は『いいんじゃないかな?』と軽く言ったら、デザイン担当の女性が一目見て間違いを見つけた。やっぱりこだわってる人間は違うなぁ、と。」というエピソードを披露。古谷氏も「(タミヤの)デザイン部の人間も、(ホンダは)厳しいと言ってました。」と応え、会場の笑いを誘った。
まさにアフリカツインの“顔”であるヘッドライトまわりについても古谷氏は「透明パーツは、実車のような厚さでは作れないのでどうしてもオーバースケールになってしまう。それをなるべく実車のイメージを崩さないようがんばった。」とコメント。このこだわりに対し、実車のデザインを担当した小松氏は「ありがとうございます。ここは一番やり直しが多くて泣きべそかきながらやってた(笑)。」と感謝の言葉で返した。
DCT仕様が再現されたエンジンは、オプション設定のDCTペダルの取り付けも可能。こちらも実車ではオプション設定のセンタースタンドは、ディスプレイ時のことを考慮しプラモデルでは標準装備となっている。さらに転倒防止のための補助スタンドという、プラモデルならではの部品も付属している。
キット標準のドライブチェーン。2つの部品で構成することでチェーンの中が抜けているところまで再現されており、このままでも十分にリアル。
また、別売のオプションとして「1/6オートバイ用 組立式チェーンセット」も用意。組み立ては大変だが、実車と同じ構造の可動式チェーンとすることで、リヤタイヤの回転と連動するチェーンの動きを楽しめるようになる。
オフロード車ならではのチェーンの弛み具合もリアルに再現できる可動式チェーン。組み付け後にチェーンの張りが調整できるよう、リヤのテンショナーには実車同様のスライド機構が盛り込まれている。
ちなみにこの組み立て式の可動式チェーン、実はタミヤ製オートバイ・プラモデルの第1号、CB750FOURの初版でのみキット標準で付属していた(当時は金属製)。ところがその後、どういう事情かは不明ながら一体型の樹脂製パーツへと置き換えられ、その後のモデルでは採用されなかった。タミヤとしてもある意味、47年ぶりのリベンジとなる製品なのだという。
最後に、自身が手がけたオートバイがプラモデルになったことに対してコメントを求められた飯塚氏は「素直にうれしいです。自分が作ったものを自分とを同じような気持ちで作ってくれたんだろうなと。」と語り、さらに「先日タミヤの単行本(※)を読ませていただいたところ、こんな一説があった。『模型屋という仕事のおもしろさは、模型を通じて大人とも子どもとも、夢とロマンを分かちあえることです』。我々の場合、これを『オートバイ』に置き換えると、まったくその通りだなと思った。お客さまの夢を叶える道具を提供できるという仕事で、タミヤとは共通点が多いとつくづく思う。』と、モノ作りに対する気持ちに、実車、模型の違いはないことを語った。
※文春文庫『田宮模型の仕事』(著:田宮俊作)
一方の小松氏も「(実車では)1個1個のパーツに思い入れがあり、これは誰かがすごくがんばってくれたとか開発中の記憶がある。私もプラモデルを買わせてもらいましたが、これを作るプロセスの中でまたそれを思い出すと思う。今からそれを想像すると自分は幸せだなと思う。ありがとうございました。」と、重ねて感謝の言葉を述べた。
最後の最後にサプライズゲストが!
この後、第1部の司会を務めたモータージャーナリストの松井氏が再び登場し、じゃんけん大会によるスペシャルプレゼントが入場者に贈られ今回のイベントは終了……、かと思われたところへまさかのサプライズ!
タミヤの田宮俊作会長が登場し「アフリカツインは実車を見たとき『これは売れる!』と思った。すぐに商品化を指示した。」と、実車発表後すぐにプラモデル化を決めたことや、ここにはちょっと書けないような裏話の数々を披露し、イベントのフィナーレを盛り上げた。
★★タミヤ
●1/6 オートバイシリーズ Honda CRF1000L アフリカツイン 23,760円(税込)
●ディテールアップパーツシリーズ 1/6オートバイ用 組立式チェーンセット 3,240円(税込)
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