星のマークでおなじみの模型メーカー・株式会社タミヤは、1/10電動RC(ラジオコントロール)カーシリーズの人気カテゴリー「Mシャーシ」シリーズの最新モデル「M-07 CONCEPTシャーシキット」を2017年6月24日に発売する。これに先がけて2017年6月16日に開催された「タミヤ メディアミーティング〈RCカー編〉 M-07 CONCEPT新製品説明会 & MAZDA Championship レース体験会」にル・ボラン・ブースト編集部も参加。今回は、タミヤの開発スタッフに加え、マツダ株式会社からのゲストお二人を交えて行われた、M-07 CONCEPT新製品説明会の模様をお送りしていく。
舞台は「タミヤ掛川サーキット」
今回のメディアミーテングの舞台となったのは、静岡市内にある「タミヤサーキット」に続くタミヤRCカーファン第二の聖地として1996年にオープンし、昨年5月の20周年を機に屋根付きへとリニューアルされた世界最大級の全天候型RCカーサーキット「タミヤ掛川サーキット」。
M-07 CONCEPT新製品説明会には、タミヤ企画開発部の鈴木清和氏、同営業部の前住 諭氏、マツダからは、商品本部 本部長でデミオの元開発責任者である野間幸治氏、商品本部 ロードスター主査 兼チーフデザイナーの中山 雅氏がゲストとして参加した。
M-07 CONCEPT誕生の経緯
1991年に登場し、国内外の人気スポーツカーやGTレーシングカーなどを数多くRCカーとして登場させてきた1/10「ツーリングカー」シリーズ。スタイリッシュなボディと大きなサイズならではの迫力ある走りは当時から高い人気を誇り、現在ではタミヤ製電動RCカーのスタンダードなスタイルとなっている。そんなツーリングカーのシャーシではモデル化できない小さな車をRCカーで製品化するため、1994年に誕生したのが「Mシャーシ」だ。
タミヤのワークスチームであるTRF(タミヤレーシングファクトリー)の一員でもある鈴木氏(写真左)と前住氏(写真右)。国内外で行われるコンペティティブなレースシーンでの戦い加え、各地で開催されるタミヤグランプリといったレースイベントでのユーザーサポートやセッティングアドバイスなども積極的に行うなど、幅広く活躍している。
「Mシャーシ」シリーズのファーストモデルである「M-01」が誕生してからすでに20年以上が経過するが、こちらもツーリングカーに負けず劣らずの高い人気を現在まで誇り、タミヤグランプリをはじめとするタミヤ公式のレースイベントでも定番のカテゴリーとして成長してきた。
根っからのタミヤRCカー好きであるコアなファンが多いという「ツーリングカー」とは異なり、「Mシャーシ」は、見た目の格好良さや可愛さに引かれてはじめたというユーザーがその中心で、タミヤの公式レースでも、目を三角にして競うというよりは「楽しんでレースをしたい」という人が多いクラスとして長年愛されてきた。
歴代の「Mシャーシ」各モデルは、コストの関係もあり、低価格で作り易さを優先したクルマ作りがなされていた。また、前述のようにレース志向の強いユーザーがさほど多くないため、走行性能についてもツーリングカーほどは追求されておらず、基本設計が初代からほぼそのまま引き継がれてきたサスペンションジオメトリーや簡易的なダンパーなど、ある意味”そこそこ”の走りを楽しむための装備しか与えられていなかった。
ハイスピードでコーナーに突っ込めば転ぶ、立ち上がりでラフにアクセルを開ければスピンorドアンダーなどは当たり前で、ユーザーはそんな部分までもを含めて「Mシャーシ」を愛していた。これは、実車で小さい車を愛する人たちの心理とも共通する部分があるのではないだろうか。
ところが近年、タミヤグランプリの「Mシャーシ」クラスの参加者に、これまでツーリングカーでレースをしてきたレース志向の強いコアなユーザー層や、また反対にRCカーのレースは初めてというビギナードライバーが増えてきたという。
「Mシャーシ」というカテゴリーに様々なレベルの人が新たに参加する状況は喜ばしい一方、可愛い見た目とは裏腹の走らせにくいシャーシに手を焼くユーザーも多く、同じ車でも上手く走れる人と上手く走れない人の格差が大きくなってしまったという。
そんな状況を解消するため、初心者からエキスパートまで、あらゆるレベルの人が同じように簡単に走らせることができる新型「Mシャーシ」の開発は急務となった。
各地のタミヤグランプでユーザーをサポートする前住氏も現場で同様の話を多く聞いたといい、新型シャーシ開発には「操縦のしやすさ」と、自身がユーザーにアドバイスしたセッティングがきちんと走りに反映される“再現性”の高さもそのリクエストに加えたという。
かくして遡ること約1年前から、M-07 CONCEPTの開発はスタートした。
走りやすさを実現するための一体型シャーシ
M-07 CONCEPTでもっとも大きく変わったのがシャーシ(フレーム)の構造だ。
組み立て途中のM-07 CONCEPT。ギヤボックスまでもが一体型となったシャーシの構造がよくわかる。
これまでの「Mシャーシ」各モデルはすべて、分割式のモノコックフレームを採用していた。これはM-04を除くすべての歴代モデルで3段階のホイールベース変更を可能としていたためで、フレームの交換や組み替え、分割部分にスペーサーとなる別パーツを“継ぎ足す”などの方法でホイールベースの延長ができるようになっていた。
M-03シャーシのシャーシフレームは、分割された部分に延長用の別パーツ(写真右の黒いパーツ)を取り付けることで、ホイールベースを簡単に延長できるようになっていた。
しかし、メインフレームを分割構造にすることは、車の走りに数々の悪影響を与える。とくにシャーシ剛性に対する影響は大きく、その剛性を確保するため歴代の「Mシャーシ」のフレーム素材には強度の高いポリカーボネート樹脂が採用されたが、それでもシャーシ剛性に対する悪影響を完全に払拭することはできなかったという。
またこの固いフレームは、シャーシがねじれることでグリップを稼ぎだすというRCカーならではの特性にも悪い影響を与え、結果、キャパシティの狭いシャーシ特性になってしまっていたという。
加えてキャパシティの狭いシャーシはサスペンションのジオメトリー決定にも大きな影響を及ぼし、歴代の「Mシャーシ」では、アンダーステアが強いハンドリングになるようサスジオメトリーを設定せざるえなかったという。
当日はM-01からM-07 CONCEPTまでの歴代シャーシに加え、タミヤ純正のオプションパーツである「ホップアップオプションズ」を組み込んだフルオプション仕様のM-07 CONCEPTも展示され、各車の構造の違いを確認することができた。
そこでM-07 CONCEPTではシャーシの構造を一新。ギヤボックスまでもが一体となった1ピースフレームを「Mシャーシ」シリーズとしては初めて採用し、フロントステフナーとの組み合わせることで高いシャーシ剛性を確保した。
フロントのギヤボックスからリヤエンドまでが一体となったメインシャーシ(写真左)に、別パーツとして取り付けられる左右のステフナー(写真右)を加えることで、構造的にシャーシ剛性を確保している。
これにより、ホイールベースの変更はいままでの3段階から2段階となってしまったが、より柔らかい素材となったことでフレームのねじれ剛性によるグリップが大きく稼げるようになり、車のキャパシティは飛躍的に拡大したという。
ロングスパンのサスペンション
モデルチェンジの度にいくつかの小変更はあったものの、基本的なジオメトリーはほとんどこの20年間ほとんど変わらなかったというサスペンションも、剛性が高いシャーシを得たM-07 CONCEPTでは大きく改良された。
今までとはまったく異なるデザインの前後サスアーム。前後ともにリバウンドストロークの調整ができる機能を備えるほか、リヤトー角の変更も簡単にできるなど、ツーリングカー並みの装備がなされる。
すべてが新設計となったサスアームは、ハイエンドツーリングカーではすでに当たり前となっているロングスパンタイプを採用し、高いグリップを確保。
ダブルウィッシュボーンタイプのサスペンションには4輪に独立したオイルダンパーを標準装備。内部のオイルや別売りのコイルスプリングを使ってのセッティング変更も簡単にできる。
これまではオプション設定だったオイルダンパーも標準で装備し、その取り付け位置も大きく見直された。とくにフロントのジオメトリーは、キャパシティが拡大したシャーシのおかげで大きく改善。より“曲がる”、攻めたジオメトリーが与えられ、速いコーナリングと操縦しやすさが両立されたという。
また、今までは大きかったホイールベースの違いによる操縦特性の差が少なくなったのもポイント。これにより走りの違いを気にすることなく、自分の好きなボディをチョイスしやすくなったという。
組み立てやすさと整備性も向上
走りやすさに加え、組み立てがしやすいのもM-07 CONCEPTの大きな特徴だ。以前、M-05を組み立てたことがあるというマツダの野間氏も「M-05はモナカ(左右分割)構造だったので、組み立ても整備もすごく大変でしたが、M-07は作るは簡単でした。」と絶賛した。
商品本部の本部長という肩書きに加え、マツダの社内同好会である「MRF=マツダ・RCカー・ファンクラブ」の代表もつとめる野間氏(写真左)。大の模型好きで、「Mシャーシ」を含むタミヤRCカーにも造詣が深い。NAロードスターの開発担当でもあったという中山氏(写真右)は、NAと同様、NDロードスターがタミヤの1/24スポーツカーシリーズのプラモデルと1/10RCカーになることは「悲願だった」という。
M-03ではギヤボックスを開けるのにシャーシ全体をバラバラにする必要があったが(写真左)、M-07 CONCEPTでは駆動系へのアクセスが簡単になり、メンテナンスや万一のギヤトラブルの場合も素早く対応ができるように(写真右)。
野間氏の言うとおり、従来の「Mシャーシ」は駆動系の整備性があまりよくなかった。その点もM-07 CONCEPTでは改善され、わずか8本のビスを外すだけでギヤボックスをフルオープンでき、デフを含む駆動系のメンテナンス性が大きく向上した。
M-07 CONCEPTの走りは?
「誰にでも簡単に走らせられる」ことをコンセプトに作られたM-07 CONCEPT。その走行フィーリングを前住氏は「従来のモデルはシャーシのキャパが小さかったのでどうしても操縦が難しかったが、M-07は初めて走らせたときから車のキャパが大きくなったことを実感できた。これならどのレベルのユーザーでも安心して操縦してもらえると思う」と語り、同様にRCカーの経験が豊富な野間氏も「M-05ではデミオのボディを使うとハイサイド(転倒)しやすかったが、M-07は(ボディは同じなのに)まったく違う感じがした。M-05もいいシャーシだが、M-07を走らせるともう戻れない。」と、その走りについても絶賛した。
M-07 CONCEPTをドライブ中の野間氏と中山氏。その表情は真剣そのもの!
また、RCカーを走らせるのは、三十数年以上ぶりという中山氏も「タイレル6輪以来のRCカーで、レースなどには出たこともなく、走らせたのはお寺の境内でした(笑)。(当時は)送信機もスティック式で、それしか経験がない私でもちゃんと走れた。これはやっぱりM-07のおかげだと思う。素晴らしいです。」とコメント。
ベテランから初心者まで、誰でも簡単に走らせることができるというM-07 CONCEPTの開発コンセプトを裏付けた。
マツダ協賛によるRCレースも開催
今回の製品説明会では、毎年夏に開催される「タミヤグランプリ全日本選手権」において、マツダ協賛による「MAZDA Championship」が開催されることも併せて発表された。
北は北海道から南は九州まで、全国14会場で行われる「タミヤグランプリ全日本選手権」は、毎年11月に静岡で開催される「タミヤグランプリワールドチャンピオン決定戦」への代表権をかけた国内大会だ。
毎年11月に開催される「タミヤグランプリワールドチャンピオン決定戦」はタミヤRCカーファン憧れの舞台。写真は昨年の模様。
国内各大会の優勝者に加え、アメリカ、ヨーロッパ、アジア各地域の予選大会を勝ち抜いたエキスパートドライバーがしのぎを削るこの「タミヤグランプリワールドチャンピオン決定戦」からは、多くのRCカー・プロドライバーが誕生し、世界チャンピオンへと上り詰めた選手もいるという。
「MAZDA Championship」は「タミヤグランプリ全日本選手権」で開催される5つのクラスのうちのひとつとして設定され、使用できるボディを「マツダ ロードスター」または「マツダ デミオ」に限定。モーターやバッテリーといったパワーソースにも手頃なものが指定されているため、誰でも気軽に参加できるのが魅力だという。もちろんM-07 CONCEPTでのエントリーも可能だ。
「MAZDA Championship」優勝者に送られるキャップとイラストボード。ロードスターは中山氏、デミオはそのチーフデザイナーである柳澤氏の手によるもので、それぞれに直筆サインも入っている。ちなみにデミオは実車ではなくタミヤのRCカーをイラスト化したものだそうで、ボディマウントまでしっかり描かれている。
また、各大会での優勝者には「MAZDA Championship」だけの豪華賞品がマツダから進呈されるというのも、この大会の魅力。
RCカー初心者の皆さんも、M-07 CONCEPTでぜひ参加してみてはいかがだろうか?
※各大会の詳しい日程などは、タミヤのホームページで確認できる。
http://www.tamiya.com/japan/index.htm
★次回は各メディアがガチンコ勝負を繰り広げる「MAZDA Championship」レース体験会の模様をお送りします!
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