時代とともに変容するラグジュアリーカーのカタチ、国産ラグジュアリーの到達点「トヨタ・センチュリー」

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昨年発表された新型センチュリーはその姿から人々を大いに驚かせたが、そこには見た目のインパクト以上にショーファーカーとしての矜持があった。国産ショーファーカーの最高峰であるセンチュリーをいま改めて検証する。

新しい時代に適応した理想的ショーファーカー

センチュリーと言えば、トヨタを代表するラグジュアリーセダンとして誰もが知る銘柄である一方、特にクルマ好きにとっては長らく縁遠い存在でもあった。なぜなら1967年に初代がデビューして以来、その主な用途は後席に座るやんごとなき人々の移動手段であり、ごく一部の例外を除けばオーナー自らがステアリングを握って走らせるクルマとは認識されていなかったからだ。それを反映してか、初代から数えて3代目にあたる現行のセダンは保守本流を体現するかのような出で立ち。中身こそハイブリッド化されたパワートレインを筆頭に現代的な作りとなっているが、佇まいやデザインの構成要素はそれこそ初代から変わっていない。これはハイヤーを筆頭とする法人用途だと、顧客に手配したクルマの新旧を悟られない効果を狙ったものでもある、という話を以前どこかで聞いた記憶があるが、そんな視点ではセンチュリーは見た目に関して変わる必要がない、あるいは変わってはいけないクルマ、と言うこともできる。

新しさの中にも歴代モデルから受け継がれる“らしさ”がある。

それだけに、昨年デビューした新しいセンチュリーのインパクトは個人的にも絶大だった。もはや“古典”の域にあるセダンとは完全な別モノ。SUV的な佇まいは、特に実車を目の当たりにするとどこか奥ゆかしい風情のセダンを圧倒するボリューム感を湛える。

そのボディサイズを生かしたリア区画の広さはセンチュリー史上最大。絶対的な派手さはないが、各部の仕立てはレザーの質感ひとつとっても最高峰の仕上がりと言える。

だが、巷では便宜上センチュリー“SUV”と呼ばれているがトヨタいわく、SUV版センチュリーを作ったわけではないのだという。その開発コンセプトは「ザ・ショーファー」とある通り、新しい時代の理想的ショーファーカーの在り方を突き詰めた結果、その見た目がSUV風になっただけの話であるらしい。今回、残念ながら試乗することは叶わなかったが、実車をよくよく見れば、その開発の意図は確かに理解できる。

最大77度までのリクライニングを実現したリアシートは同車最大の見どころ。

そのボディは、全長がセダン比で130mm短い一方、全幅が60mm、全高は300mmも高い。しかし、タイヤこそ大径だが一般的なSUVのように地上高が特段に高いわけではなく背の高さは室内空間に“全振り”されている。全長約5.2m、全高約1.8mというボリュームでそうしたパッケージングを採用した結果、後席はまさにリムジン級の広さが確保された。また、見た目の印象から乗り込むにあたっては“よじ登る”ような動作を要求されるのかと思いきや、意外なほど前後席ともに自然に乗り降りできる点は、まさにショーファーカーらしい特長と言える。

フロントシートバックには11.6インチのディスプレイを搭載。

ショーファーカーの要、と言える後席の見た目や仕立てについては、右の写真をご覧頂ければ言葉で説明せずとも大体お分かりいただけるだろう。左右の乗員それぞれに用意されたタブレット体裁のコントローラーや格納式テーブルを収めた大ぶりなセンターコンソールを配してなお、後席左右の広さは当然ながら十二分。セダンと同じく、表皮のレザーは適度なウェット感を湛えた文字通り上質なもので座り心地も極上の部類だ。

センターアームレストには着脱式のマルチオペレーションパネルを装備する。

また、セダン比で大幅に拡大した後席空間はショーファーカーとして新たな機能の搭載も実現した。助手席側については、前席をスライドさせることによってフルフラットと呼べるリクライニング機能(角度にすると77度)を実現。全長6m級のストレッチリムジンでも難しい、寛いだ姿勢を取ることができる。ちなみに、そうした際はリラックスしたい人も少なくないはずだが、そこは細やかな配慮が行き届くトヨタ車らしくBピラー部には靴べら置きやコートフックを用意する等、おもてなし感覚に溢れた装備が満載だ。サイドガラスに至っては、左右とにも液晶調光式(クルマ好きの方はマイバッハ62のパーティションをイメージされたし)として、無粋な外からの視線を遮ることも可能となっている。

タワーコンソールは最新のレーザー加工技術により表面加工が施された本杢パネルを使用。

そんな新しさのアピールに余念がない新生センチュリーだがセダンから継承される“らしさ”もしっかりとある。それはクルマでありつつも、もはや伝統工芸品を彷彿とさせる仕立ての良さだ。実は質感の表現が難しいフラットな外板パネルは、濡れたような光沢を放っており高級感を演出。また、この新型センチュリーでは鳳凰エンブレム(の金型)を江戸時代から続く「彫金および磨きの匠」に依頼。クルマのものとは思えない精緻さをさりげなくアピールしていたりもする。この新生センチュリー、要望があれば国内市場にとどまらず海外にも出すそうだが、こうした部分を見ると“ニッポンのラグジュアリーカー”として独自の世界を築く可能性にも期待したくなる。

リアアームレスト後方に備わる小物入れは、メーカーオプションで冷蔵庫にも変更可能となっている。

ドア開閉に連動する自動格納式ステップは、搭乗者の美しい乗降所作までを考慮して設計されているという。

リア区画のウインドーはボタンひとつで透過率を変更できる液晶調光式で、搭乗者のプライバシーを確保。

「威風凛然」をキーワードにデザインされたエクステリア。機能的な後席空間とオーセンティックなボンネットフートを備えたスタイルを追求した結果、このボディ形状にたどり着いた。パワートレインは3.5LV6エンジンに前後モーターを組み合わせるPHEVだ。

センチュリーを象徴する鳳凰のエンブレムには江戸彫金の技術が用いられている。鳳凰の毛並みやウロコのひとつひとつまで、彫金職人の“ 匠”が何十種類もの鏨(たがね)を用いて手作業で彫り込み、仕上げの鏡面磨きまでを行なっている。

それまでのイメージとは異なる多彩なボディカラーが用意される。鮮やかな赤色(グローリーレッド)とシルバーの「紅蓮(写真右下)」が目を引くが、ラグジュアリーカーとして一般的なモノトーン色も、約8時間に渡る鏡面磨き加工で、他車にはない圧倒的な輝きを実現している。

【SPECIFICATION】トヨタ・センチュリー
■車両本体価格(税込)=25,000,000円
■全長×全幅×全高=5205×1990×1805mm
■ホイールベース=2950mm
■トレッド=前:1705、後:1715mm
■車両重量=2570kg
■エンジン形式/種類=2GR-FXS/V6DOHC24V
■内径×行程=94.0×83.0mm
■総排気量=3456cc
■最高出力=262ps(193kW)/6000rpm
■最大トルク=335Nm(34.2kg-m)/4600rpm
■モーター形式/種類=前:5NM/交流同期電動機、後:1YM/交流同期電動機
■モーター最高出力=前:182ps(134kW)、後:109ps(80kW)
■モーター最大トルク=前:270Nm(27.5kg-m)、後:169Nm(17.2kg-m)
■燃料タンク容量=55L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=14.2km/L
■トランスミッション形式=CVT
■サスペンション形式=前:マクファーソンストラット/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前後:255/45R22

問い合わせ先=トヨタ自動車 TEL 0800-700-7700

フォト=郡 大二郎 ル・ボラン2024年12月号から転載

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小野泰治
AUTHOR
2024/11/21 11:30

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