モータースポーツを起点とする高性能ハッチのGRヤリスがアップデートされた。そして、ポロGTIは、生誕25周年に合わせて、世界限定2500台の記念モデル「Edition25」が登場。まずは、2台の最新スポーツコンパクトを比較してみよう。
4WDのGRヤリスはパフォーマンス至上主義
以前はCセグメントがホットハッチの主戦場だったが、最近はBセグメントに移ってきているように思える。サイズやパワー、価格などが上級移行してCセグメントでは手の内に収まる感覚ではなくなってきたからだ。そこで今回は日独を代表するBセグメントのホットハッチを比較試乗。フォルクスワーゲン・ポロGTIはFF、GRヤリスは4WDで、エンジンパワーも小さくない差があるので、純粋なパフォーマンス比較はフェアではないが、それぞれの特性の違いをみていくつもりだ。
GRヤリスはもともと競技志向が強いモデルゆえ、パフォーマンス至上主義ともいえる。さらに2024年4月のマイナーチェンジで進化して、最上位グレードのRZハイパフォーマンスは最高出力304ps、最大トルク400Nmを誇るに至った。前述の手の内に収まる範疇を超えているように思えるが、コクピットに収まってシートポジションを合わせていくと、不思議なことにクルマと一体になれそうな予感がしてくる。マイナーチェンジではヒップポイントを25mm下げるとともにダッシュボードは操作性や視認性を確保するために一新、ドアミラーも視界が良くなるよう位置を変更している。競技参加者からの意見を聞いてフィードバックした結果だという。こういった運転環境の改善がドライバーに自信を与えてくれるのだ。
試乗車はMTのためクラッチペダルを踏みながらエンジンを始動すると、直列3気筒1・6Lターボはハイチューンであることを誇示するように野太い音と特有の振動を伝えてくる。1速に入れてクラッチミートするとトルクの太さゆえに軽々と速度が上がっていく。すぐに2速にシフトアップしてアクセルを踏み込み、今度はトップエンドまで引っ張っていくと、尻上がり的にパワーが盛り上がっていくドラマティックな回転上昇感にしびれた。コンパクトなボディと研ぎ澄まされた活発なエンジンの組み合わせは最高で、ホットハッチを操っている幸せに満ちている。飛びきりにパワフルだが4WDでシャシーも良くできているので過剰な感覚はなく、躊躇なくアクセルを踏み込んでいける。
マイナーチェンジでスポット溶接や構造用接着材の塗布面を増やしてボディ剛性を高め、フロントのアッパーマウントの締結ボルトを従来の1本から3本に増やしたというが、ステアリングを切り込んでいったときの頼もしさや、サスペンションがしなやかで見事な粘り腰をみせるところは、たしかに以前よりも進化している。4WDの制御も変更されているが、以前よりも動きが読みやすく素直になった印象だ。
競技を前提とした実戦主義のマイナーチェンジだが、一体感が高まってドライビングプレジャーも高まっているのだ。
ポロGTIはトルクの太さに驚かされた
対するポロGTIは特別な装いではあるものの、これ見よがしではなく程よく控えめで大人のルックス。赤いGTIのロゴやラインが小さく主張するぐらいだ。試乗車はポロGTIの25周年を記念したエディション25で、ルーフにドアミラー、ホイールなどがブラックになっている。
エンジンはBセグメントとしては大排気量の2Lターボだが、GRヤリスほどハイチューンではなく最高出力207ps、最大トルク320Nmと無理のない範囲。こちらは7速DSGと組み合わされる2ペダルだ。
あまり速さは期待せずに走り出したのだが、低回転域のトルクの太さには驚かされた。何しろ最大トルク発生値は1500〜4500rpmで、普通に走らせていれば2000rpm前後でポンポンとシフトアップしていくが、それでもグイグイとボディを押し上げていく。2000rpm以下から緩加速していくときもシフトダウンせずに余裕で速度をのせていく。コンパクトなボディに大排気量エンジンを搭載していることが実感できて、思わず頬が緩むのだ。GRヤリスの最大トルク発生値は3250〜4600rpmで、ある程度は回したところからパワーが盛り上がる感覚で、それはそれでスポーティなのだが、エンジンで贅沢な気分が得られるのはポロGTIのほうだ。
それがもっとも顕著なのが高速巡航時で、右足にわずかに力を込めるだけで追い越しが可能。祖先といえるゴルフGTIの初代モデルは、コンパクトカーながらアウトバーンの追い越し車線をポルシェとともに走れるというインパクトで大きな反響を呼んだそうだが、まさにそういった喜びがあるのだ。現代のゴルフGTIはちょっとばかり大きくなりすぎている感もあるので、初代モデルの精神的な継承者はポロGTIであると言えるだろう。
フラットトルク型ゆえに高回転域での興奮度はさほどではないものの、苦手な回転域がほとんどないから変化に富んだワインディングロードでは扱いやすさが光る。DSGの制御も適切で一体感が得やすい2ペダルだ。
シャシーの頼もしさも特筆モノだ。低速域ではわずかに硬さがあるものの、速度を上げれば上げるほどにしっくりと落ち着いてくるのはさすがドイツ車。ハイスピードでコーナリング中に大きな凹凸に出くわしても懐深く受け止めて挙動が乱れたりボディが伸び上がるようなことはなく、素早く収束させてまるで何事もなかったかのように落ち着き払っている。
コーナリングは、スタビリティ重視のうえでフロントタイヤのグリップを最大限引き出すようなフィーリングで、グイグイと曲がる感じではないものの、安心感と俊敏性のちょうどいいバランスだ。
GRヤリスはワインディングロードやサーキットでの性能や喜びを最大化させてくれるモデルであるのに対して、ポロGTIは高速ロングドライブで満足度の高いグランドツアラー的な要素が強い。コンパクトなボディながら侮りがたいパフォーマンスの持ち主であることは共通しているが、特性はまったく違う2台なのだった。
【SHORT IMPRESSION】渡辺慎太郎/VOLKSWAGEN POLO GTI
もはや高級車と呼べる領域に到達
久しぶりにポロに乗ってあらためて思ったのは、自分の中に形成されているポロのイメージと現行型はもはやかけ離れた所にあるということだった。
例えば室内。助手席や後席やリアガラスまでの距離感が、ゴルフに乗っているような感じでとても広々としている。インテリアの動的/静的質感もひとクラス上のレベル。乗り心地にはわずかながらも重厚感があるし、全般的にちょっと高級な雰囲気さえ漂う。
実際、試乗車の本体価格486万5000円で、ほぼほぼ高級車だった。こうした現象はポロだけに起こっているわけではなく、世の中のクルマは総じてモデルチェンジのたびに大きく立派になっていく。これが本当によいことなのどうかはよくわからないけど。
【SHORT IMPRESSION】西川 淳/TOYOTA GR YARIS
コンパクト高性能マシンは欧州勢にも見当たらない
その昔(1990年代)、日本勢の得意とする高性能マシンの分野に“コンパクトなモンスター”があった。いずれもラリー向けのベース車両で、トヨタはもちろん、日産、スバル、三菱がいろんなモデルを生産し人気を博した。多くの国産市販車が欧州車に劣るとされていた当時、そのパフォーマンスは確実に世界レベルだった。市販モデルであっても。そう考えるとGRヤリスはさしずめ日本のお家芸というわけで、軽量級ながら金メダルを取って当然だろう。
正直、今このクラスで本格的な高性能マシンは欧州勢にも見当たらない。つい先日も英国のとあるスーパーカー専門ショップの責任者がGRヤリスに乗っていた。頂点を知る人ほど、このクルマの有り難みを理解する。
【SPECIFICATION】TOYOTA GR YARIS RZ “High performance”
■車両本体価格(税込)=4,980,000円
■全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
■ホイールベース=2560mm
■車両重量=1280kg
■エンジン種類/排気量=直3DOHC16V+ターボ/1618cc
■最高出力=304ps(224kW)/6500rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/3250-4600rpm
■トランスミッション=6速MT
■サスペンション=前:ストラット、後:Wウイッシュボーン
■ブレーキ=前:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:225/40R18
問い合わせ先=トヨタ自動車 TEL0800-700-7700
【SPECIFICATION】VOLKSWAGEN POLO GTI EDITION 25
■車両本体価格(税込)=4,865,000円
■全長×全幅×全高=4085×1750×1430mm
■ホイールベース=2550mm
■車両重量=1310kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1984cc
■最高出力=207ps(152kW)/4600-6000rpm
■最大トルク=320Nm(32.6kg-m)/1500-4500rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション=前:ストラット、後:トレーニングアーム
■ブレーキ=前:Vディスク、後:ディスク
■タイヤサイズ=前後:215/40R18
問い合わせ先=フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン TEL0120-993-199