逃げる盗賊のシトロエンが変身!
シトロエンのDS(DS19/20/21/23)といえば、そのルックスや乗り心地を語る時に必ずと言ってよいほど持ち出される言葉が「宇宙船」である。当時の自動車の常識からはかけ離れたその姿はいかにも空を飛び、宇宙空間まで辿り着いてしまいそうなイメージだが、実際にこのDSを空へ飛ばした(正確には、飛ぶシーンがある、だが)映画が存在する。1965年の『ファントマ 電光石火』だ。
【画像37枚】シャキーン!と変形するDS19とその制作過程を見る
ここでご覧いただいているのは、この映画に登場するDS19を、エブロ製1/24スケール・プラモデルを用いて再現した作品で、自動車模型専門誌「モデルカーズ」284号(2020年)に掲載された作例である。その時に掲載された、作者・棚瀬氏による解説を、以下お読みいただこう。
「『ファントマ』は、フランスのピエール・スーヴェストルとマルセル・アランの共作で、1911年から13年にかけて32作が書かれた、フランスで大人気となった小説シリーズである。1914年にスーヴェストルが死去して後は、1926年からアラン単独執筆でさらに10作が書かれた。その人気を受け、多くの漫画/映画/ドラマ化がされたが、中でも有名なのが1960年代の映画化、『ファントマ 危機脱出』(1964年)、『ファントマ 電光石火』(1965年)、『ファントマ ミサイル作戦』(1967年)の3部作である。
物語は覆面で正体不明の盗賊「ファントマ」と、パリ警察のジューブ警部達との闘いが主軸であるが、当時の最新技術を取り入れた自由奔放な雰囲気が、多くの読者を獲得した。映画でも小説同様にファントマの目的は世界征服なのであるが、そのための行動は(今の目で見れば)かなり牧歌的であり、それに振り回される警察側にも悲壮感は感じられない。
今回制作したシトロエンDS19は、『ファントマ 電光石火』に登場する。クルマ自体はファントマ一味の移動手段として序盤から登場するが、物語ラストで目論見が断たれたファントマが逃走するため乗り込み、ミニ・モーク(!)で追走するジューブ警部達を撒くために、翼をせり出させロケット(?)に点火して空に逃げるのである(何故かその過程はご丁寧に飛行場で行ったので、警部達は飛行機に乗り替え空まで追跡するのだが……)。
DSについて述べておくと、1955年から1975年までの約20年間、シトロエン社のアッパーミドルクラスの主幹車種として人気を博したクルマだ。当時としては極めて先進的・前衛的な空力デザインと、まだ一般的でなかったプラスチックやビニールを使用した内装、油圧動力による一種のエア・サスペンション機構を中心に統括制御する『ハイドロニューマチック・システム』を搭載した特異なメカニズム構成で知られ、「宇宙船」とも評されるその特異な内容は、現在にあっても少しも色あせていない。最新技術を駆使して暗躍するファントマの雰囲気にもぴったりである。
差し替え式で変形ギミックを表現
劇中で飛行するDS19はミニチュア撮影だが、翼をせり出し変形するシーンは実際にクルマを改造して撮影されている。作例制作にあたり、その変形シーンを繰り返し観て参考にした。使用するキットは無論、エブロのDS19である。同社からはその後期型のDS21も発売されており、本誌278号(2019年7月号)の特集でDS21やDS19の制作記事が掲載されているので、そちらも是非参考にしていただきたい(注:当サイトでもそれらの作例記事はすでに公開済み)。
改造にあたっては、主翼や尾翼、噴射口の制作や、それらのボディへの取り付け方法が考え処となるが、私は差し替えによる変形を選択した。技量に自信のある方なら、主翼の展開ギミックを車体に組み込む……なんてことも考えられるだろう。
また、キットは最初期型だが、劇中車は内外装が一部マイナーチェンジされたもの(大まかに言うと中期型)を使用しているので、フロントバンパー周りとインパネがその再現となるよう修正した。空飛ぶDSは作る気がなくても、1962年以降/DS21に代わる以前の年式を再現したい、という方の参考になれば幸いである。
塗装色については、若干緑がかったホワイトとして調色した。フィルムの色調から判断して画面に映る色より緑分を少なめに調色したが、個人の感覚であり、実物を見て調色したわけではないことはご了承いただきたい」
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