栄光と悲劇に彩られた最強マシーン
メルセデス・ベンツとモータースポーツと言えば、長らくベンツ自身はサーキットのレース活動から身を退いていたことをご記憶の方も多いだろう。そのきっかけとなったのが、ここで採り上げる300SLRである。1955年のル・マン24時間で引き起こされた悲惨な事故がその直接の原因となったのであるが、同時にまた、300SLRは輝かしい栄光に包まれたマシーンでもあった。
【画像41枚】左右で異なるフィニッシュと、その制作工程を見る!
そうした実車の詳細については、追って公開する後編の記事で述べることとして、今回は先に、本題の模型についてご紹介することとしよう。この300SLRの1/24スケール・プラモデルはドイツレベルがキット化しており、わが国ではそれをフジミがオリジナルのパッケージングで販売していた時期もあった。ここでお目にかけている作品は、このフジミ製キットを、自動車模型専門誌「モデルカーズ」292号(2020年)のメルセデス・ベンツ特集のために制作したものである。その時に掲載された作者・Ken-1氏による説明を、以下お読みいただこう。
「今回の300SLRミッレミリアですが、今やキット自体入手困難。そこで、本誌でもお馴染みのモデラー、周東さん(注:周東光広氏。当サイトでも何度かその作品を紹介している)から、ストックのフジミ版を回して頂けることとなり、無事制作スタートできました。余談ですが、周東さんからお送り頂いたキットはとても丁寧に梱包されており、氏のキットへの愛情が垣間見え、感謝とともに『これを託されたのか……』というプレッシャーを感じずにいられませんでした。
そんな300SLRのキットですが、元々はドイツレベルから発売されていたもの。後にフジミから、あのエンスージャストシリーズの一作としてもリリースされました。エンジンに加えボディ内側のパイプフレームまで精密に再現されており、エンスーシリーズに組み込まれたのも納得でしょう。
このキットのハイライトはこのパイプフレームの組み込み。決して新しいとは言えない設計に、あやふやな接合個所――これを事前に仮組みを繰り返し、タイトなボディに滑り込ませ、位置関係をしっかり把握することが重要です。意外なパーツが干渉してくるので、ほぼ全てのパーツを仮組みすることをお勧めします。とんでもなくズレたりすることはないのですが、ちょっとのズレが組み立てに影響を与えたりするので油断なりません。今回、自分なりに仮組みの徹底を意識していたのですが、それでもズレが発生。塗装して組んでからでないとどうしても合わせられない個所もあり、最後の最後まで苦しまされました。
ボディ形状の修正は成功を見たものの…?
ボディ形状はよく見ると実車と結構違っているようで、今回その辺りを徹底的に修正してみました。しかしこれは、実車の形状を考えるとどうしても一体で成型するしかなく、金型の抜きを考慮すると妥協しなければならなかったんだろうなと、設計者の苦労が垣間見えますね。
今回は、ボリューム過多な前後オーバーハングと、張り出しすぎたショルダーラインを修正。フロントフードのボリューム不足などに手を加えてみました。しかしこのキットのプラ素材はしなやかに撓るような素材で、その柔らかさでシャシーフレームが包み込まれるようになっています。いわば計算された部分なのですが、逆に改造しようとヤスリを入れると、弾くようで加工がしにくく、形状出し・面出しがやりにくく非常に厄介。さらに艶出しにも影響が大きいので要注意です。
さて実は、キットのベースは後年のレストアモデルの再現となっており、実際に当時のミッレミリアを走ったクルマとは微妙に違うところがありますが、今回は出来る限り当時の仕様を狙ったものの、ゼッケンの書体やウィンドウステー等、追いきれなかった部分もあって、完全再現ではありません。
ワイヤーホイールにはPLUSALFA製のアフターパーツを奢ってみたのですが、時間的に間に合わず片側だけとなってしまいました……。それによりむしろ、キットパーツのままの反対側と、その仕上りの違いを見て頂けるとよいかと思います。このパーツ、組み立てに時間と手間は掛かりますが、その効果は絶大なものがあります。
なかなか苦戦した300SLRでしたが、それでもじっくりきっちり丁寧に進めていけば、ちゃんと形になってくれます。最新キットのような優しさはないのですが、久しぶりに、プラモデルを組み立てる楽しさを感じさせてくれた好キットです。皆さんも一度チャレンジしてみては?」
文中で触れられているボディ形状の改修については、工作中の写真に添えたキャプションでより詳しく解説しているので、じっくりとお読みいただきたい。また、その続きとなるボディ塗装や各部のディテールアップ、組み立てについては、後編の記事でお伝えしたい。
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