ガルウィングで堪能するアメリカンカープラモの底力!AMT製「メルセデス300SL」を賞玩してみる【モデルカーズ】

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カモメの翼を持った1950年代のスーパーカー

呪縛に近い存在感を持つ名車、というものがある。そのメーカー、あるいはブランドのクルマづくりにおいて、似たようなディテールを導入しないとファンが納得しない――そのような、一種の「呪い」を生みの親にかけてしまった名車。我が国で言えば、「円形テール」や「サーフィンライン」をいつまでも手放せなかったスカイラインがそれにあたる。目を世界に転じれば、メルセデス・ベンツの300SLなどは、その最たるものであろう。

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300SLの特徴は、何と言ってもガルウィング・ドアである。ルーフ中央のパネルを支点に、カモメの翼のように開く跳ね上げ式のドア。構造的な要請からやむを得ず採用されたこのドアだが、そのルックスはどうしてか圧倒的なスタイリッシュさを有してしまった。コンセプトカーのC111や、近年のSLS AMGでは、「特別なメルセデスにはこれが不可欠」と言わんばかりにガルウィング・ドアが採用されていたし、SLRマクラーレンでは類似したギミックであるシザードアが取り入れられていた。

話を300SLに戻そう。このモデルは、1954年2月にニューヨーク・オートショーで発表されたのだが、そのルーツはさらに前に遡る。もともとはレース用の車両として、市販化など念頭にないまま開発された300SLは、1952年に5つのスポーツカーレースに参加しているのである。ここでの活躍、特に”世界一過酷なレース”と言われたカレラ・パナメリカーナ・メヒコでの優勝が話題を呼んだことから、アメリカのメルセデス代理店がヒットを確信。市販化を強く進言し、ついに実現させたというわけである。

流麗なラインが魅力的なボディの下には、細い鋼管を組み合わせたマルチチューブラー・フレームが潜んでいるのだが、このフレームが剛性を保つには、側面の高い位置にも鋼管を走らせる必要がある。しかし、それではサイドシルが高くなりすぎて、通常のドアでは乗り降りを行うことができない。そこで採用されたのが、上に跳ね上がるガルウィング・ドアだったのだ。それでもなお乗降には支障があり、そのためステアリングホイールが水平に倒れるという仕掛けが導入されている。

エンジンは3Lの直列6気筒SOHCだが、これも300SLの特徴である機械式の燃料噴射装置を採用し(市販のガソリン車としては初)、最高出力215ps・最高速度235km/hを達成した。エンジンは左側に45°傾けて搭載、これによりフロントノーズは低く構えたものとなっている。サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアがスイングアクスル。トランスミッションは4速マニュアル、ブレーキは全輪ドラムである。

市販にあたっては、単にスポーツカーというだけでなく、その美しいボディに相応しい豪華な仕立てがなされており、300SLというモデルに独特の高貴さを与えている。クーペの300SLは1400台が生産され1957年に販売を終了、かわってオープンモデルのロードスターが登場した。こちらはフレーム構造を見直し、一般的な横開きのドアを採用。ロードスターは1963年まで生産・販売されたが、その途中ではブレーキをディスクに改めるなどしている。

カーモデルは顔が命!顔がよければ全て良し!?
やはり稀代の名車だけあって、300SLのプラモデル化は数多い。懐かしいチープキットから、わが国でも学研1/16やトミー1/32、1/24ならイタレリおよびエアフィックス、あるいはエレール、そして最新のタミヤなど、様々なメーカーが挑んできた題材であると言えよう。ここではそんな中からAMTの300SLをピックアップしてみた。

300SLのキットの中でも、AMTは採り上げられる機会が少ないと思われる。その理由はやはり、これがアメリカンカープラモであること、そして半ば同じ意味ではあるがスケールが1/25であること、この2点が挙げられるだろう。キット自体初リリースは1965年と古いものだが、1990年代まで何度も再販されていたので、読者の皆さんでもある程度の年齢の方なら、お店でニアミスされた経験はあるのでは。しかしそこで、「米国メーカーならではの適当な内容のキットなのでは?」という疑念(実際は偏見)や、「スケールが1/24じゃないから他車のキットと並べられない」という諦念が、購入判断に影響した人も少なくないのではないだろうか。

さて、そのAMT製300SLを完成させてみると、これがなかなか良いのだ。プロポーションには硬さも感じられるが、まずまずの説得力を有している。本当に意外であったのはフロントマスクで、パーツ状態で眺めていると「グリルのベンツマークが小さい」といった不満は禁じ得ないのだが、組み立ててみると実にイイ顔だ。顔立ちはタミヤの方が似ているが、AMTは表情が似ている、と言えるのではないか。

前述の通り初リリースは1965年だが、この時期のAMTは「トロフィー」シリーズという名の元、ステア可能な前輪、クリアパーツのヘッドライトといった、リアル志向の設計を導入しており(これらはそれまでの米国製プラモ、特にAMTのフォーマットにはないものであった)、このSLにもそれらが盛り込まれている。一部ながらもフレームを再現したり、インナーフェンダーもしっかりパーツ化していたりと、アメリカンカープラモらしい、実車を知る喜びが横溢している。AMTの300SL、なかなか侮れないキットだ。

作例制作=畔蒜幸雄/フォト=羽田 洋 modelcars vol.229より再構成のうえ転載

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