「1000km乗らなきゃわからない!」の著者であり尊敬するモータージャーナリストの大先輩である笹目二朗氏の教えを実践するべく、マツダMX-30EVモデルでの5日間、2,171km、充電回数22回、充電時間18時間43分53秒、充電量323.7kWhのロング旅に出たのは一昨年秋のことでした。その旅でEVとはどんなクルマなのか、EV充電インフラの具合はどうなのか、などだいたいのことは体験できました。いろいろと思うところもあったので、定期的にEVでのロング旅はしてみようと思っていました。
そんなことを考えていたところに高い話題性と共に日産サクラがデビューしたので早速借り出し2回目のEVロング旅を計画しました。しかしそうは言っても軽自動車枠のクルマだし、町内あるいは市内移動程度の距離が主戦場だろうから、グランドツーリング的なことまでは考えず、「ふと思いついてご近所からちょっとはみ出るくらいの距離をドライブしたらどうなるのか?」を、プチロング旅で試してみようと思いました。想定したシチュエーションは次の通りです。
”日ごろは駅や学校への送り迎えと買い物のために、決まったルートでのみクルマを使っている八王子の戸建てに住むサクラのオーナーがふと思い立ち、青梅のお茶好きの友人を誘い、狭山で茶園を経営する知人宅を訪ねおいしいお茶を飲む。「せっかく行くんやから、お茶の前に地粉で打った武蔵野うどんやだんごも楽しもうよ」と、お出かけした”というものです。
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走行距離118kmの日帰りドライブで体験したこと、思ったことを率直に綴りました。
ボディデザインやインテリアは好印象
軽であってもイカツイオラオラ顔が幅を利かせるようになってしまった昨今、路上で増す刺々しさを常々苦々しく思っているのですが、サクラはそんなことがなく、柔らかめの線と面が好印象でした。ブロッサムピンク/ブラック2トーンのボディカラーもイメージ向上に一役買っていると思います。ちなみにサクラのボディカラーはベーシック、2トーン、シーズンズ計15色/パターンから選べるので、サクラが増えれば街の印象もかなり良くなるんじゃないかと思います。グリルの日産マークが光るのも今風でいいですね。
インテリアもあっさりしていて好印象。必要な物理スイッチやタッチスイッチはだいたい予想通りの場所にあるので、最小限の視線移動で操作できる。電動パーキングブレーキレバーやスタート/ストップスイッチは見えにくい場所にあるけれど、走行中に触ることがないので特に問題なし。このあたりは自動車をちゃんと作ってきたメーカー共通の美点であり、テスラのような新興EVメーカー製とは全然違い、違和感がなくていいと思います。自動車と走るスマホとの決定的な思想差を感じる部分です。
カップホルダーや収納ポケットも充実していて不足感はありません。運転席側吹き出し口前のホルダーは太めのペットボトルも収まるのもいい。ホルダーを引き出すとサクラの彫り物がしてあるのがかわいい。助手席側にあるフックも、ちょっとした紙袋をぶら下げて固定しおけるし使いやすい。はっちゃんにも好評でした。
USB-Aと-Cの充電ポートが両方あるのは便利。DC12Vソケットアウトレットも備わります。貴重な走行用電力をソケットから取り出して使うのはどうかと思うけれど、あればあったで重宝するでしょう。
難点はツヤツヤとツルツルの部分。これも近年の流行りだから仕方ないのかもしれないけど、鑑識が要らないくらい視認できるほどの指紋は残るしホコリも目立つ。あれを高級だと思う人の気が知れないと思うのは私だけしょうか。
助手席のはっちゃんに最初から最後まで評判悪かったのはバニティミラーがついていないこと。「なんでこっちにないの?」と終始ご不満でした。
床もフラットで後席も広く、助手席のはっちゃんも後席の忠仁さんもシートのかけ心地はいいよと言っていました。
一方ラゲッジルームはミニマムなので、いつも連れ歩いているリモワのトロリーは立ててしか載らないため安定が悪く、加減速でどすんどすん気色悪い。シートを倒せばフラットに置けるし、後席足下の広さを活かして床にフラットにも置けるので大した問題ではないのですが。そもそもシートスライドさせて後席との空間比を調整すればいいことだし。
乗り味は上々
最初から最後まで気に入らなかったのは、ステアリングのテレスコピックがなかったこと。もっと手前に寄せたいけどそれができず、自分のポジションだとステアリングが遠く違和感があり気持ち悪かった。一般的なドライバーの運転姿勢やポジションでは特に問題はないのでしょうけれど。肯定しているわけではありません。どちらかと言えば否定。「ドライビングポジションが適当だと運転操作が粗くなるし、路上も荒れる」というのが持論なので。ここはぜひ改善して欲しいところです。
ステアリングと言えば、中心部がはっきりしない曖昧な感覚なのにうっかりすると車線内を左右に振れるほど敏感な挙動を示すのも気になりました。
しかし乗り味はとても良かった。気に入りました。軽自動車枠のクルマだと思えばさらに。
エンジン車のDAYS比で130~240kg重いことによる重厚感のある乗り味、重量物であるバッテリーが床下にあることによる、どことなしの安定感、静かでNTN(なんて滑らか)な加速感はEVの美点で、黄色ナンバーのクルマとは思えません。
3人乗っての登り坂での加速、ここ一番のアクセルべた踏みでの全開加速の静かでNTNな加速感は必要充分なものでした。
特に静かなのがいい。どんな局面でも3人が普通に会話できます。後から身を乗り出さなければ聞こえないとか、「ん?もっかい言うて」ということがないのは、友人たちとのドライブでは車内の快適性向上と疲労軽減にはかなりいいと思います。
高速でも、首都高速と中央自動車道を短区間走っただけの印象ですが、疲労なくロングドライブできるのではないかと想像できました。
軽こそEV
これが結論です。
なぜかというと、静粛性、重厚感ある乗り味、パワフルでNTNな加速感などEVの美点は下のクラスのクルマになるほど際立つと思うからです。
しばらく軽自動車に乗っていることを忘れていました。軽なのに軽な感じがしないから。
それと、サクラの比較や評価の土台は軽ではなく、300万円クラスのクルマにするべきだとも思いました。黄色いナンバープレートがついてはいるけれど別物として考えた方がいい。「軽のEV」というイメージを植え付けすぎるとサクラの真髄を見誤る気がします。300万円のクラスレスなクルマと見た方がいいでしょう。
そんなような感じなので、高いクルマを持っている人のセカンドカーでも、1台しか持っていない人のファーストカーとしても、いいもの感があって誰にでも合うんじゃないかと思いました。何より近年稀に見るやわらかで、それにいかにも軽っぽくないデザインがとてもいい。eKクロス EVとの販売台数差の要因の一つはデザインにあるんじゃないかと思っています。
やっぱり充電は難儀
MX-30EVモデルでの旅では、ドライバーのお腹が空くタイミングと食べたいものがクルマと合わないため、道中の休憩タイミングと時間が倍になったとか、ナビで表示された充電スタンドに行ったら故障中だったという経験をしました。
今回は、故障充電器に出会うことはありませんでしたが、ナビで調べて大手カー用品店に充電しに行ったら普通充電器だった上に営業時間外のため充電できなかったことはありました。残量2%でこうなると正直焦ります。ただこれはNissanConnect EVアプリを使えば回避できます。アプリでは充電スポットの空き状況もわかるし、その情報を車載ナビに転送すれば経路案内もしてくれるので安心です。
と、いうことで、短いながらも充電問題はやはりありました。というか、サクラ的使い方だから余計気になったこともありました。それは通常サクラで立ち寄りそうな場所に充電器がないということ。イオンモールのような大規模小売店にはあるが、地場のスーパーにはないし、駅や郵便局にもない。少しの停車時間に充電できないのです。
やはり自宅駐車場に充電器かコンセントがあり、1日の走行距離は100km以下、基本的に遠出や思いつきで遠回りや寄り道をしない人に適していると思います。
航続可能距離と電池容量の考え方について思うこと
上述のサクラが合う人像に関して、「カタログ上の一充電走行距離(WTLCモード)は180kmなのになんで?」と思われる方もいらっしゃると思います。それは次のような理由からです。
① 一日の走行距離の倍くらいは航続可能距離がなければ不安
② 常に充電状態100%で自宅を出発するわけではない
③ 常に充電のことを考えているわけではないので充電し忘れることもある
これは自身の経験と、一般的なEVユーザー(クルマ好きや趣味人ではないという意味)から聞いた話を総合したものです。
裏を返せば、①以上の航続可能距離は必要なく、すなわちそれ以上の航続距離を保証する電池容量も必要ないと言えます。つまりそれ以上はお金とエネルギーの浪費でしかないということです。
これは何もサクラに限ったことではなくEV全般に当てはまることなので、EVを検討する際には闇雲に航続可能距離を気にするのではなく、自身のクルマの使い方を思いながら選べばいいと思います。意外と見落としがちなのは、
「EVの充電時間は走行距離に比例して長くなる」
と、いう事実です。つまり走れば走るだけ充電時間が長くなるので、たくさんの電池を積んで無充電で長距離を走った果てにはその分の充電時間が待っているということです。大げさに言えば人生における総充電時間(充電器に繋いで待っている時間)はどんなEVに乗っていても変わりません。変わるのは一度に長距離走行する場合の充電頻度と目的地到達時間です。
余談ですが、旅の途中で電池残量がほとんどなくなったときには2回充電する“おかわり急速充電”をしたくなるし、実際にしている人を見かけるようになりましたが、これ、繋いでいる時間の割には大して充電されていません。
実際の充電データを見ると、30分の急速充電で条件が整えば17kWh、悪くても12kWhくらいは入るのですが、おかわり充電の場合は良くて10kWh、最悪のケースでは4.0kWhしか入りませんでした(MX-30EVモデルの旅と今回のサクラの場合実測値)。
要因はいくつかありますが、“電池残量が少ない方が充電される量は多く、電池温度が高いほど充電量は少ない”という電池の特性に依るところが大きい。急速充電をすると普通充電に比べて電池は高温になるので、電池側の充電受け入れはそもそも悪くなり、温調のために充電器は充電量を絞ります。これがおかわり充電が損な理由です。
旅先で急速充電する場合は、到着時に充電し、翌朝の出発時に充電して出発する、あるいはどこかのSAで急速一回充電してしばらく走った先でまた急速一回充電する方法をおすすめします。面倒ですが充電効率は確実に上がります。
さて話を戻します。
自身のクルマの使い方を冷静に分析してみると、EVが選択肢から外れる人、選択肢に入る人があると思います。ちなみに、充電しながら立ち話をしたある日産ディーラーの店長は実際にお客さんからヒアリング、コンサルティングして勧める勧めないの判断をしているとのことでした。
コンサルティングしてみよう!
2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤーでは、日産サクラ/三菱eKクロスEVが受賞しました。
これ以外にもインポート・カー・オブ・ザ・イヤーをヒョンデIONIC 5が、デザイン・カー・オブ・ザ・イヤーをBMW iXが受賞し、EVが三冠王を獲得しました。テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した日産エクストレイルも加えると、“モーターで走行するクルマ”のグランドスラムというエポックメイキングな年になりました。
今後、脱炭素やSDGsを日ごろ意識しない人やクルマに特に拘りのない人たちの視野にもEVがチラチラする機会も増えると思います。
身近にそんな人がいたら、今回の記事とMX-30EVモデルでのロング旅の記事を読みながらアドバイスすれば「それならEV買えるな!」ということもあるでしょうし、「こんなはずじゃなかった」という不幸も防げると思います。手前味噌ですみません。
https://carsmeet.jp/2022/06/13/226335/
https://carsmeet.jp/2022/06/16/226416/
走行データ:
区間走行距離 |
その時点での走行可能距離表示(km) |
その時点での残存容量表示(%) |
|
八王子発 |
0 |
136 |
88 |
青梅市ではっちゃんをピックアップ |
17 |
122 |
79 |
お茶の平岡園で忠仁さんをピックアップ |
21 |
102 |
66 |
武蔵野うどん真打 |
12 |
88 |
57 |
三上さんちの焼きだんご |
24 |
44 |
31 |
お茶の平岡園 |
4 |
33 |
24 |
青梅市ではっちゃんを降ろす |
19 |
--- |
7 |
日産ディーラー |
7 |
--- |
2 |
(30分急速充電12.8kWh後) |
0 |
98 |
71 |
八王子着 |
14 |
89 |
62 |
総走行距離 |
118 |
試乗車のスペックとオプション装着状況:
車名:サクラ
グレード:G
塗装色:ブロッサムピンク/ブラック(2トーン)
内装色:プレミアム
車両本体価格(消費税込み):2,940,300円
メーカーオプション合計:325,600円
(充電ケーブル(コントロールボックス付200V 7.5m用、プロパイロットパーキング、プレミアムインテリアパッケージ、特別塗装色LEDフォグランプ+ホットプラスパッケージ+クリアビューパッケージ)
ディーラーオプション合計:111,315円
(ウインドウ撥水12ヶ月、日産オリジナルドライブレコーダー、フロアカーペット)
支払総額:3,377,215円
(大田中秀一)
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