今にして思えば、1980年代終盤から1990年代初頭は、輸入ハッチバック車が一番輝いていた時代かも知れない。かつて何台かを所有した経験のある森口将之氏に、こうしたクルマがまだまだ楽しめるのかを検証していただいた! 中編のプジョー205に続いてフォルクスワーゲン・ゴルフをピックアップ!!
小手先の刺激に頼らず本質で勝負する実直なクルマ
最後はゴルフだ。なんとオドメーターの数字は18万kmを刻んでいたが、さすがVW、ボディのしっかり感は失われておらず、ドアはメルセデス・ベンツGクラスのようにカチャッと心地よい響きとともに閉まる。いきなりこの時代のドイツ車の質実剛健な部分を教えられた。
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他の2台より背が高くスクエアなスタイリングなので、キャビンは上下方向に余裕がある。寝すぎていない大きなウインドーが心理的な広さ感をプラスしてくれる。固めのシートはドイツ車そのもの。メーターの書体、LEDを埋め込んだようなインジケーター、ごついコラムレバーやセレクターレバー、四角いスイッチなどなど、目に映り手に触れるものすべてがジャーマンテイスト。ラゲッジスペースは開口部こそやや高めだが、中は深くて収容力がありそうだった。
直列4気筒SOHCエンジンは、今ではめったにお目にかかれないカウンターフロー。排気量はフランス生まれの2台より100cc少なく、ATもギアが一段少ない3速だ。加えてこの時代のゴルフの右ハンドルはアクセルの反応がやや渋め。最高出力は105PSをマークしているものの、加速感は205やBXより穏やかに感じた。ただビーンという独特の響きを奏でながらの吹け上がりは滑らかで、優秀な機械であることが伝わってくる。
ステアリングも滑らかで、油圧式ならではのしっとりした手応えを伝えつつ確実に切れる。ここからもボディ剛性の高さを感じる。ストロークの長いサスペンションは信頼できるロードホールディングを発揮。乗り心地ともども懐の深さを感じる。小手先の刺激に頼らず、本質で勝負する実直なものづくりの姿勢が伝わってきた。
ちなみに当日は長袖のシャツ1枚で過ごせるほど暖かかったので、エアコンも入れてみた。3台とも効いた。真夏に渋滞が予想される道路に向かうようなことは、車齢を考えれば控えたほうが良いが、パワーステアリングやパワーウインドーなどの装備を含め、今のクルマにさほど劣らない快適性は持ち合わせていることが確認できた。
逆に安全面は、ABSやエアバッグすら備わっていないので、ヒストリックカーとさほど変わらないと考えるべきだろう。でもその代わり、ボディの小ささや軽さ、窓の大きさなどがもたらす明るくて軽やかな走り味、高性能でないからこそ街乗りレベルでも味わえる走りの個性は、乗っているこちらまで気持ちを明るく軽やかにさせてくれるようだった。
スポーツモデルの楽しさとは違う、この世代の実用車ならではの味わいは、暖かくて過ごしやすかった取材日を思わせる、うららかなものだった。
【SPECIFICATION】1992年式フォルクスワーゲン・ゴルフGLI
■全長×全幅×全高:3985×1665×1415mm
■ホイールベース:2475mm
■車両重量:1050kg
■エンジン:水冷直列4気筒SOHC 8バルブ
■総排気量:1780cc
■最高出力:105PS/5400rpm
■最大トルク:15.1kg-m/3800rpm
■サスペンション(F/R):ストラット/トレーリングアーム
■ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
■タイヤ(F&R):175/70R13
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