近年、ヤングタイマーの世界で俄かに人気を高めているアルファロメオ916系スパイダー/GTV。個性的で鮮烈なデザインのボディと、FWDであることを感じさせない走り。まさしく1990年代を代表するオープンスポーツカーと言える。
アルファらしさを全身に湛えた、魅惑のスパイダー
イタリア車、ことにアルファロメオにとって”スパイダー”は極めて重要なモデルと言えるが、同社の経営は1970年代から長らく重篤な低迷状況に喘いでいた。それゆえ新たなスパイダーモデルを開発する余裕はなく、1966年に”デュエット”としてデビューしたジュリア系スパイダーの生産が連綿と継続されていたのだが、誕生から27年を経た1993年、惜しまれつつもついに生産を終えることになった。
そんな状況のもと、1994年にアルフィスタ注視のもとデビューしたのが『ティーポ916』と呼ばれる新型スパイダー/GTV。このクルマに懸ける期待感が大きかったことは、イタリア国営TV局RAI-UNOが生番組内で発表VTRをフライング放映してしまった(!)という逸話からも窺われる。当時イタリア留学中だった筆者は、実はこの放送を偶然に目にしたのだ。
新型スパイダー/GTVへの期待感を喚起したのは、この時代に再び波に乗りつつあったアルファロメオに相応しい本格的な内容。Cセグメントの小型FWD車であるフィアット・ティーポ系プラットフォームは流用するものの、リアサスペンションはアルミ鋳造アームで組んだ専用のマルチリンクとされるなど、スポーツカーとして手を抜かない造りが施されていた。デビュー当初、EU市場向けスパイダーのパワーユニットは1.8/2リッターの直4DOHCツインスパーク16V。そして、164と共用のV6・SOHC12バルブの3リッターが選ばれた。
【写真15枚】まるでグラニータのような、爽快にして芳醇な走り「アルファ・スパイダー」の詳細を写真で見る
一方エレガントなオープンボディはピニンファリーナに委ねられ、スタイリングは当時の所属スタイリスト、エンリコ・フミア氏が担当。フミア氏曰く、1981年のジュネーブ・ショーに参考出品したコンセプトカー『アウディ・クォーツ』がデザインの出発点だったという。アグレッシブなプロポーションや、ボディサイドを斜めに切り裂く彫刻的なキャラクターラインなど、そのデザインはモダンかつ個性的なものだった。しかし一方で、1950年代の傑作ジュリエッタ・スパイダーをモチーフとした盾型グリル左右のサイドグリルなど、アルファ伝統のテイストも盛り込まれていた。また、GTVとはルーフの有無ていどで基本的にはほぼ同じデザインながら、リアエンドの造形はスパイダーのプロポーションに合わせるとともに、1960年代のデュエットのスタイルをモチーフとし、なだらかにスロープする独自の意匠とされていた。
1998年モデル以降はフェイズ2に進化。ノーズの盾のデザインが変更されるとともに、3リッター版のV6エンジンも暫時4カムシャフト24バルブ版に移行。24V版は2001年から日本にも導入されている。さらに2003年モデルからは盾型グリルの天地が延ばされた新スタイルになると同時に、V6ユニットも3.2リッターに拡大。最終的には2005年頃まで生産された。
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