凝った設計を内に秘めた小洒落たクーペ
マツダの前身である東洋コルク工業は、1920年、広島市に設立された。その名の通りコルクの製造を生業としたこの会社が、自動車(三輪トラック)の生産を始めたのは1931年のこと。1927年には東洋工業と改称、1984年にマツダへと社名を改めたわけだが、この名が創業一族に由来するのは当然として、綴りがMATSUDAではなくMAZDAであるのには理由がある。これはゾロアスター教の最高神「アフラ・マズダー」にちなんで、自動車産業における光明となるように、との願いを込めたものだ。
R360クーペは、それまでトラックを手掛けてきたマツダ初の乗用車として、1960年5月に発売された。スバル360と同様に、通産省(当時)の国民車構想に呼応した製品であったが、ここでクーペというボディ形式を採用したのは、趣味性などが理由ではなく、「今の日本で、このサイズのクルマに乗っても家族四人フル乗車という使用状況は稀であろう」という、ある意味合理的な割り切りによってであった。後席はあくまで補助席程度とみなし、前席2人の居住性を優先したのである。
ただしこの割り切りは、当時流行りの言葉でいえば「ドライ」なものではなく、逆に、自動車を広く普及させ人々の身近な存在にしたいという、温かな心情に裏打ちされていた。それは軽自動車としてはいちはやくオートマチック車を設定したことにも示されている。誰にでも操縦しやすいクルマを提供しようというのが、その意図だった。しかもATを採用することによって、当時はまだ珍しかった身体障碍者用車両としても活躍したのだという。“自動車産業における光明”の体現として、これほど相応しい例もないだろう。
レイアウトは、当時の小型大衆車の主流であったRRを採用。リアに搭載される空冷V2エンジンは排気量356ccの小さなものだが、軽自動車としては初めての4サイクル。主要部分の素材にはアルミを使用して軽量に仕上げられており、マツダは当時これを「白いエンジン」と称した。最高出力は16ps。サスペンションは前後ともトーションラバーによる独立懸架。全体として、当時の軽としては異例と言えるほど本格的かつ画期的な設計であったと言えよう。
ここでご覧頂いているのは、このR360クーぺを1/24スケールで再現したモデルである。プラモデルではなく、ガレージキット(SMP24が手掛ける「さぶろく模型化計画二四」シリーズの一作)を丁寧に仕上げたものだ。
異例なほどの凝った内容のキット
インジェクションキット顔負けのこのキット、ボディだけでなくインテリアもしっかりと再現されている。各種レバーやスイッチ類はエッチングで用意され、シャープな仕上がり。ボディは全体に凹ラインが控えめなので、彫り込んでおく必要がある。スジ彫り箇所をマッキー極細でマーキング、タミヤ2mm曲線用マスキングテープを貼ってガイドにし、BMCタガネ0.2mmで彫り込んだ。エッチングソーも併用している。
ボディ左側、リアフェンダーのスリットはエッチングの別パーツになっている。瞬着+硬化スプレーで合わせ目を固め、精密ヤスリ半丸、金属平板にサンドペーパーを貼り付けた特製ヤスリ、600番ペーパーの順で仕上げた。右側に不要な凹モールドがあるので、同様に埋めて成形。エッチングは裏面をクレオスうすめ液で脱脂しておく。キット付属の塩ビ板にGクリヤーで窓枠を接着、切り出してボディとのすり合わせ。レジン製ボディが新品当時よりも収縮して上手く合わないので、ボディ側を削って調整した。
キットのライトレンズは透明レジン製だが、経年で黄ばんでしまっているので、サイズの合うプラパーツに置き換えたい。パーツの直径は5.5mm、ハセガワ製コスモスポーツのヘッドライトがジャストなので、これに交換することにした。キットのライトリムのパーツを、壊さないように注意しつつ開孔。コスモからはレンズだけでなくメッキのリフレクターも移植する。これを収めるためボディ側も掘り足し、組み合わせるとキレイな目元に生まれ変わった。
ボディはタミヤラッカーのレーシングホワイトとクレオスのマルーンで塗り分けて仕上げた。メッキ調塗料はガイアカラーのプレミアムミラークロームを使用。フィニッシュにあたってはマツダによるレストア車をその参照元としたが、そのため当時のR360クーペ・デラックスとはディテールに若干の差異がある点(サイドモールの有無など)をお断りしておく。
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