※この記事は2004年12月に発売された「VW GOLF FAN Vol.2」から転載したものです。
新しいGTIが発表されたパリ・サロンの会場で、そのGTIに携わった開発スタッフふたりにインタビューすることができた。Q&Aを繰り返していくうち明らかになっていったのは、彼らのGTIに対する思い入れの強さ。それはかなり強烈なものだったのだ!
「伝説が帰ってきたという想いは同じです」
―ロルフ・トランプ氏
9月23日。パリ・サロンのプレスデー初日。
ロルフ・トランプ氏とシュテファン・ユング氏は、少し緊張すると同時に軽い興奮も覚えていたようだ。さもありなん。手塩にかけて育ててきたGTIのショーデビューの日。自信はあっても、プレスの反応が気になったに違いない。そんな状態の彼らを掴まえて、インタビューすることしばし。我々にとってGTIは“特別な存在”だが、作り手である彼らにとっても“特別な存在”ということが分かって、それが期待値をさらに大きくする結果となった。
――GTI開発のスタートはいつだったんでしょうか?
ユング氏
「ハッキリいつからとは申し上げられません。シャシー、エンジンとも随分前からやってましたからね。デザインがほぼ確定したのは、2002年の末でした」
――今回のGTIの開発で最も留意した点はどのあたりでしょう。
トランプ氏
「GTIですから、性能がいいのは当たり前です。むしろ注意したのは、オリジナルとの差別化ですね。ノーマルとの差を強調したかったということです。エンジンにしても、サスペンションにしても、明確に差をつけたかった」
――ターボを装着しましたね。その理由は?
ユング氏
「これくらいの性能が欲しいというのは大体決まってまして、それを実現するにはターボが必要だったからです。排気量を増やすという手もあるでしょうが、我々が望む性能を考えると、特に今回の場合は太いトルクを実現したいというのもあって、ターボしかないということになったのです」
――スーパーチャージャーは考慮しなかったのですか?
ユング氏
「まったく考えてません。スーパーチャージャーにはどうしてもパワーロスがつきまといますし、それで我々が望む性能が出せるとも思ってませんでしたからね」
――エンジンの性能グラフを拝見しましたが、フラットなトルク特性のようですね。
トランプ氏
「エエ。1800rpmという低い回転数から最大トルクを発揮します。フルに加速させると、シートに身体が押し込まれます。3000rpmあたりから、またいい感じになりますね。この力強さは、これまではTDIでしか味わえなかったものです」
――サスペンションのセッティングは?
ユング氏
「さきほどいいましたように、ノーマルとの差を明確にするために、すべてを変更しています。硬くしています。タイヤ&ホイールも17インチが標準で、オプションで18インチが選べるようになっています。ただし、ブッシュは替えていません。乗り心地が悪くなってしまいますからね」
トランプ氏
「コンピュータ関連はほとんどすべてGTI用に変更しています。たとえば、ESPはあまり顔を出させないようにしています。頻繁に顔を出すと、スポーツドライビングが楽しめませんからね」
――GTIは我々にとっては“特別な存在”ですが、作り手のあなた方にとっても……。
ユング氏
「もちろん“特別な存在”です。クルマ好きですから、やっぱり気合いを入れて作りました。私ではなくても、誰もがそうしたと思います。より率直にいいますと、自分が乗りたいと思えるクルマを作ろうと考えてましたね(笑)」
トランプ氏
「そりゃもう、開発にはとても力が入りました(笑)。単に仕事をやるという感覚ではありません。スポーティなクルマですからね。上品な高級車の開発も決して悪くはないんですが、その場合、今回のようにエモーショナルにはなれないでしょうね」
「9歳の時から、わたしにとってGTIは憧れのクルマです」
―シュテファン・ユング氏
――では、GTIはあなたにとってどういうクルマですか?
ユング氏
「私が9歳の時に初代のGTIが登場しました。ちょうどクルマに強い興味を持つ頃ですよね。エエ、それ以来、私の憧れのクルマであり続けてます。免許を取った時、『乗りたい』と思いましたが、まだ少し値段が高くて乗れませんでした。そんなこともあったし、ですから今度のGTI開発はあまり冷静ではなかったかも知れません」
トランプ氏
「GTIは、私にとっては神話ですね。このパリ・サロンでも、『神話が帰ってきた』というような表現を耳にしていますが、まったくその通りだと思ってます」
――では、最後の質問です。前のIVのGTIはマイルドになったといわれてきたわけですが、今度のⅤのGTIはそんなことはないですよね。ダイジョーブですよね。
ユング氏/トランプ氏
「もちろん!」
インタビュー当初は少し口が重かった二人も、慣れるにしたがって滑らかな口調。リポーターがかなりのゴルフ好きと知ってくれたこともあってか、後半のほうはより積極的に話をしてくれた。リポーターのクルマを目の前にしながら乗れないというもどかしさも感じ取ってくれたようで、最後にはゴルフが好きな者同士の絆みたいなものも生まれたような気がした。聞き手であるリポーターには、彼らの熱い思いは確実に伝わってきた。よかった、GTI好きが開発してくれていて。このインタビューの後、GTIに対して以前にも増して強い期待を抱くようになったのはいうまでもない。
構成:小倉正樹/フォト:柴田幸治
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