【海外試乗】現代に甦ったグランドツアラー。伝統のV12気筒降臨「フェラーリ・ドーディチ・チリンドリ」

V12エンジンをフロントに搭載するフェラーリ2シータークーペ、という唯一無二のレガシーを受け継ぐ最新モデル、ドーディチ・チリンドリの国際試乗会がルクセンブルクにて開催された。卓越したパフォーマンスと快適性を両立したというその実力とは?

マラネッロ史上最高に快適なクルマ

ザインとパフォーマンスの関係をどう考えるか。もちろん人それぞれでいいのだけれど、私は少なくともエクステリアの雰囲気とそのクルマのライドクォリティとの間にははっきりとした相関を望む。なんちゃってスタイルは嫌いだし、かと言って、羊の皮を被りたいとも思わない。“体はよく質を表す”ものだろうと思っている。

フェラーリ 12チリンドリ

最新の跳ね馬フェラーリ・ドーディチ(12)チリンドリ(気筒)は、これまでの812シリーズとはまるで違って、ラグジュアリーであることを隠そうとしないスタイルで登場した。その位置付けも812以前とは異なっている。曰く、「グランドツアラーとスポーツのちょうど真ん中を狙った」のである。具体的に最新のラインナップで説明すると、最もGT的なモデルがプロサングエで、次にローマ、12チリンドリを真ん中に挟み、296シリーズ、そしてSF90シリーズとスポーツの度合いを高める、というわけだ。

1950〜60年代の伝説的グランドツアラーをインスピレーションし、そのシルエットにはスポーティさと品格が宿る。デザインはフラヴィオ・マンゾーニとフェラーリ・スタイリング・センターのデザインチームによるもの。

そういう意味ではブランドの核心というべき位置付けで、マラネッロにとっては原点回帰でもあろう。なにせ彼らは生まれた時からフロントミッドのV12レイアウトを採ってきた。

V12FRの2シーターを出発点として、レーシングカーが生まれ、フォーミュラ1も生まれたのだから、歴史と伝統ほどブランドを決定づける要素はない。

果たしてそのパフォーマンスはスタイルと相関できているのか。そのことを確かめるべくルクセンブルクで開催された12チリンドリの国際試乗会に参加した。

リアスポイラーの代わりに、リアスクリーンと一体化したふたつの可動フラップを採用。シンプルでありながら調和したラインの中に可動空力デバイスを融合させて、比類ないパフォーマンスを提供する。エンジンベイの眺めを堪能できるようボンネットはフロントヒンジを採用する。

812と同様に完全フロントミッドへと搭載されるエンジンは、812コンペティツィオーネ用F140HB型をベースに新たに開発されたF140HD型だ。6.5L、最高出力830ps、最大許容回転数9500rpmといったスペックはHB型と変わらないけれども、最大トルクは678Nmと若干引き下げられている。発生回転数を上げることで同じ馬力を稼いだ。これはユーロ6をはじめとする排ガスや音のレギュレーション対応のために排気系を再設計したことが影響している。

8速DCTのギア比や変速プログラム、革新的なトルク制御システム“アスピレーテッド・トルク・シェイピング”などによって、わずかに増えた車重を帳消しにし、ドライバーには従来以上のパフォーマンスを感じさせる、という。

乗り込む。“垢抜けない”雰囲気はいまだに残るものの、ローマから採用するデュアル・コクーンのコクピットスタイルはこのモデルで完成形に達したように思う。

コクピットには、3つのディスプレイで構成された新しいヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)を導入。インテリアにはリサイクル・ポリエステルを65%含むアルカンターラをはじめ、サステナブルな素材を幅広く採用。

スターターボタンを押す。12気筒らしいクランキングが聞こえ、抑制の効いたサウンドを発しながらエンジンは目覚めた。走り出しての第一印象はプロサングエよりライドフィールがコンフォートであるということ。ということは、街中ではマラネッロ史上最高に快適なクルマである。

ルクセンブルク郊外のカントリーロードに入っても、印象は変わらない。とにかく洗練されており、基本的にはジェントルに振る舞い続ける。もちろん、そこはイタリアンベルリネッタだ、ドライバーを刺激する術には長けているのだけれど、従来のように煽りすぎるということがない。

マラネッロの開発陣は真面目なのだ。見栄え質感で負けてないのだから、開発陣は乗り味も極上であるべきだと考えたのだろう。デザインとパフォーマンスの整合性をきっちりとってきた。12チリンドリにはマラネッロ史上最高どころか英国のラグジュアリーブランドをも上回る快適な乗り心地が与えられている。

かくも洗練されたパワートレイン

乗り心地以上にゴージャスだったのがエンジンフィールだった。ウルトラシルキーなのだ。快適なライドフィールにも恐ろしくマッチする。9000rpmまで澱みなく回っていくのみならず、そこまで回してなおキャビンでは一切のバイブレーションを感じることがない。変速にも切れ目を感じないから、パワートレインそのものの存在感がこと振動という点では見事に抑えられている。

シートは長距離のドライブであっても、優れた快適性を約束してくれるだろう。

もちろん回転を上げるにつれ流石にサウンドは猛々しくなっていくが、それでも抑制されている。キャビン内に響くエンジン音はBGMに使いたいほど聴きやすく、そのうえクルマ好きを虜にする官能サウンドだ。

かくも洗練されたパワートレインであるが、加速中の力強さという点で、従来モデル(812スーパーファスト)を凌いでいたことは確か。812コンペティツィオーネと比べると、車体全体から感じる刺激的な速さという点では劣るかもしれないが、絶対的にはほぼ同じだろう。

812コンペティツィオーネ用V12エンジンをベースに新開発されたF140HDエンジンは、革新的ソリューションを採用して、最高回転数が9500rpmに引き上げられ、最高出力は 830psを達成。最高速度は340km/h、0→100km/h加速は2.9秒という比類ないパフォーマンス発揮する。

今回、ミシュランと並んで久々に公式タイヤとして選ばれたグッドイヤーのプルービンググラウンド(テストコース)で能力の一部を解放してみることに。難しいコーナーの続くクローズドコースでも、ある意味、優等生である。非常に扱いやすいスポーツカーだったからだ。各種電子制御の進化はもちろん、20mmものショートホイールベース化が効いている。テスト用に設計されたタイトヴェントの続く難コースをひらひらこなし、時にリアの滑り出しさえ安心して楽しみながら、余裕のスポーツドライビングを楽しむことができたのだった。ちなみにストレートでは280km/hまで出してみた。エアロダイナミクスの優秀さを証明するかのようにその安定感は素晴らしかった。

12チリンドリは上質なグランドツアラーであり、優れたスポーツカーだ。なるほどブランドの核心である。そのドライブフィールといえば275GTBや、それこそ365GTB4デイトナ、さらには550マラネッロといった歴史的なFRモデルの直系なのだ。

貴方のガレージに812コンペティツィオーネがすでにあったとして(たいていはあるだろう!)、乗り換えるのではなく、並べておいても全く無駄ではない。

【SPECIFICATION】フェラーリ 12チリンドリ
■全長×全幅×全高=4733×2176×1292mm
■ホイールベース=2700mm
■トレッド=前:1686、後:1645mm
■車両重量=1560kg
■エンジン形式/種類=—/V12DOHC48V
■内径×行程=94×78mm
■圧縮比=13.5
■総排気量=6496cc
■最高出力=830ps(610kW)/9250rpm
■最大トルク=678Nm(69.1kg-m)/7250rpm
■燃料タンク容量= 92L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:275/35R21、後:315/35R21

問い合わせ先=フェラーリジャパン TEL03-6890-6200

フォト=フェラーリジャパン ルボラン2024年12月号より転載

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2024/11/13 17:30

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