アウディの基幹モデルであるA4/S4が、装いを新たにA5/S5として生まれ変わった。去る10月上旬、フランス・ニースにてその国際試乗会が開催された。モデル再編という荒波の中で生まれた新たなミドルクラスは、果たしてどのような進化を遂げたのか⁉
モデル番号を再編し新たなスタートを切る
かつてのアウディA5といえば、A4からの派生車種であり、クーペやカブリオレをラインナップし、デザインコンシャスなミドルクラス、といった立ち位置だった。
アウディはここにきてその方針を転換。今後はモデル名が偶数のものを電動車(BEV)、奇数のモデルを内燃機関車(ICE)、というように再編していくと発表。その先鋒として既にQ6が登場しているが、同車はフルBEVで「e-tron」を名乗っている。これを今回登場する新型A5/S5に当てはめると名前こそ5を名乗ってはいるが、実質A4/S4の後継モデル、ということになる。長年のベストセラーであるA4の呼び名が、その派生モデルの名前に統一されるのは少しややこしいかもしれないが致し方ない。
さて、今回の試乗会はフランスの保養地として有名なニースにて行なわれた。10月上旬の穏やかな天気のなか、会場にて新型A5/S5と対面するが、その堂々たる体躯に圧倒された。新型A5のサイズはセダンで全長4835mm、全幅1860mm、全高1429mmとなっており、現行A4と比べると全長+67mm、全幅+13mm、全高+24mmと、ひとつクラスが上がったかのような存在感だ。ワゴンであるアバントは全長と全幅はセダンと同じで、全高が1460mm(A4アバント比+11mm)と少し高い。注目すべきはホイールベースで、2900mm(A4比+80mm)となっており、車内空間の拡大に貢献。前席はもとより、後席・ラゲッジルームを含めて、A4より広々とした印象だった。
用意されるパワートレインは2L直4ガソリンエンジンの2.0TFSI。2L直4ディーゼルの2.0TDI。そして、S5に使用される3LV6エンジンの3.0TFSIの3種類だ。2.0TFSIは最高出力が150ps/280Nmと204ps/340Nmのふたつが用意され、前者は前輪駆動、後者は前輪駆動とクワトロ(4WD)から選択が可能。
2.0TDIは最高出力204ps/400Nmを発揮し、こちらも前輪駆動とクワトロから選択できるが、このエンジンには新開発のマイルドハイブリッドシステム「MHEVプラス」が搭載される。これはトランスミッション後方に最高出力24.4ps/230Nmを発揮する48Vモーターを装備し加速をアシスト。リアのラゲッジルーム下には1.7kWhのバッテリーを搭載しており、減速時には最大25kWの出力でエネルギーを電力として回収し、車庫入れなどごくわずかな時間の低速走行であれば、100%モーターだけで走行することも可能となっている。
最後の3.0TFSIは最高出力367ps/550Nmを発揮。このS5にも先述のMHEVプラスが搭載される。今回の試乗会では、幸いなことにこれら3つすべてのパワートレインに試乗することができたので、それぞれの特徴を早速レポートしていきたい。
まず試乗したのは、ガソリンエンジンの2.0TFSIのクワトロのセダン。試乗コースはニース郊外にある適度なアップダウンのあるワインディング路で、その実力を試すには最適のロケーションだ。速度制限のある街中を抜けて、徐々に速度を上げていく、新開発の直4エンジンはよどみなく高回転まで回っていく。早速コーナーに差し掛かるが、終始安定した姿勢でスムーズにクリアしていく。新型A5の開発にあたり前後の重量配分を最適化し、リアアクスルも強化されたと説明を受けたが、そこに操舵角度に応じてギア比が可変する「プログレッシブステアリング」が採用されていることも、この一体感の演出にひと役買っているだろう。試乗コース中にはすれ違うにはギリギリの道幅しかない場面も多々あったが、操舵角の塩梅が絶妙なので、狭いコーナーにも安心して切り込んでいける。登り坂コーナーの立ち上がりでは、エンジンの絶対的なトルクの細さが顔をのぞかせる場面もあったが、スポーツセダンとしての動的性能は非常に高いと言っていいだろう。
新型MHEVシステムの効果はてきめん
続いてMHEVプラスを搭載する2.0TDIクワトロのアバントに試乗。走り始めてすぐに感じたのは、そのトルクの太さと加速の滑らかさだ。ディーゼルエンジンなので元々トルクは太めだが、そこにMHEVプラスのモーターアシストが違和感なく黒子のように、しかし確実に入り込む。ゼロ発進はもちろん、中間加速域でもEブーストとして働くため、アクセル開度に合わせて思った通りに速度がついてくるので、より一体感のあるドライブが楽しめる。マイルドと名打たれているが、このハイブリッドの効果はてきめん。もし新型A5を買うとしたらこの2.0TDIがイチ押しだ。
次に試乗したのはハイパフォーマンスモデルに位置づけられるS5セダンだ。こちらはまさに「痛快!」と叫びたくなるようなスポーツセダンに仕上がっていた。MHEVプラスの恩恵はもちろんのこと、V6エンジンの吹け上がり感、そしてロードノイズなどを遮音しつつも適度に聞こえてくるエキゾーストサウンドは、ダウンサイジングが主流となった現代においても「これこれ!」と言いたくなるような爽快感に溢れている。コーナリングもよりダイナミックだ。サスペンションはS5専用のスポーツサスペンションが奢られ、コーナリングでの安定感と路面追従性が向上。伝家の宝刀クワトロシステムとの共演で、多少荒れた路面であっても、臆せず踏み込んでいける安心感が頼もしい。先ほど2.0TDIがイチ押しと言ってしまったが、もしアナタが運転好きであるならば、S5を選んだ方が後悔は少ないだろう。
そして最後に試乗したのはS5アバント。そこで驚いたのはドライブフィールがセダンとほとんど変わらないということだ。このことについて、一体どのようなセッティングを施しているのか、アウディのエキスパートに尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。「実はセダンとアバントのセッティングはまったく同じです。パワートレインが同じであれば車両重量差が両車の間で15kgほどしかないので、その程度の差は乗車人数が1人変わるだけでも埋まってしまいます。なのであえて両車でセッティングを変えなくても、同等のドライブフィールを実現できるのです」
さも当然ように語るエキスパートを前に、新型のA5/S5がいかに高いポテンシャルを持っているのかを実感できたひと幕だった。
ひと通り試乗を終えた後、近年の過熱するBEVシフトから、ICEモデルの新規開発は蔑ろにされてしまうのでは? と、ひとり勝手に危惧していたが、それは取り越し苦労であったと悟った。4→5という名前以上に各部が刷新された新型A5/S5は王道のミドルを受け継ぐに相応しい仕上がりだったからだ。なお、ヨーロッパでの市場導入は2024年11月8日を予定しており、車両価格はセダンが4万5200ユーロ~(733万円)、アバントが4万6850ユーロ~(760万円)となっている。現状日本への導入時期とモデルは未定だが、いち早い上陸が望まれる1台となりそうだ。
AUDI A5 AVANT TDI QUATTRO/新開発のMHEVシステムは効率と性能を両立。
AUDI S5 SEDAN TFSI