デジタル技術の発展により車内エンターテイメントが急速に進化している。ここではモータージャーナリスト渡辺敏史氏に2名のデジタルネイティブ世代を加え入れ、最新の車内エンタメを追ってみたいと思う。
移動空間にとどまらない新たな価値を生み出す
有名ブランドがプロデュースするオーディオでDVDが再生できれば御の字、という感じだった車内エンターテイメント機能に変化が現れ始めたのは2010年代前半の頃合いではないだろうか。
スマートフォンの普及や4Gの登場、周辺ハードウェアの価格低下など、様々な要因が重なり、車内でもリッチなコンテンツの送受が可能になるや、フォーカスされ始めたのが「コネクテッド」すなわちインターネットを介してクルマへの様々なサービスの展開や、クルマから得られた情報の活用といったIoT的な項目だ。
加えてパワートレインの電動化や自動運転的技術の進化、シェアリングサービスの普及などクルマにまつわる先鋭的な変化の動きを見越して、2016年にメルセデスがそれらの頭文字をとって名称化したのが「CASE」だ。してやったりなその括りは、今も業界用語的に生き続けている。
将来的に自動運転が現実化するという道程に沿うなら、クルマが差別化のために注力するのは移動空間の価値向上であるのは自明だ。乗せられる場所をいかに充実させるか。BMW7シリーズとレクサスLMが搭載するインフォテインメントディスプレイはそういう未来へのトライともいえる。
7シリーズにオプション搭載されるBMWシアタースクリーンのサイズは31.3インチ。外部入力端子のみならず、アマゾンのFire TVを搭載しており、プライムビデオやネットフリックスなどのオンデマンドサービスにアクセス出来る。解像度は8Kに対応、左右独立ソースの再生も可能だが、地上波TV非対応。いわゆるスマートTV的な構成だ。
対するLMの後席用ディスプレイはミニバンならではの空間自由度を活かして、室内幅の上限に近い48インチを搭載する。こちらも左右独立再生を可能とするが、オンデマンドメディアへの対応はスマートフォンやタブレットのミラーリングが前提となる。
いずれもリッチな通信環境が前提とはなるが、リビング並みのAV環境でコンテンツ再生のみならず、リモートミーティングなどビジネス的な活用にも充分対応できるのが特徴だ。特にLMはパーティションを上げれば前席とは会話も困難なほどの静寂な空間となるので、機密性の高い交渉ごとなどにも対応できそうだ。移動時間をいかに有効活用するかという点で、エンタメ以外の可能性も広がるだろう、そういうハードウェア環境も整いつつある。
Chapter01/ショーファーカーは新たなステージへ。大画面時代の到来
車内エンターテイメントの進化はショーファーカーにおいても同様で、コストを惜しまない分、最も派手でインパクトがあるかもしれない。ここでは日独の最新ショーファーにおける後席エンターテイメントを紹介。
BMW i7/動作ギミックのみならず、優れた音響も注目のポイント
LEXUS LM/ボディサイズを活かして究極のラグジャリー空間を演出
リッチコンテンツ化が進む車内エンターテイメント
インフォテインメントモニターの大画面化やタッチパネル化に伴い、多彩な機能のコントロールをソフト化することで物理ボタンを省略化する。そんな昨今のトレンドには反対意見も多い。が、そこに対話型AIが組み込まれることで機能のボイスコントロールが可能となる。
そんな未来に先鞭をつけていたのがメルセデスやBMWだ。MBUXやBMW OSに対話コマンドを付与したのは2010年代後半のこと。最新世代では日本語対応の成熟度も進み、多くの機能を音声認識だけで設定することが可能となった。皮肉なことに、その能力はネイティブな日本車のそれを上回っている。
実際に使ってみると、純粋な認識率という点ではMBUXが若干リードしている感がある。空調コントロールやラジオの選局といったところから、アンビエントライトの色調変更といった深い階層のところも、音声のみで操作をすることが可能だ。ただしBMWは最新のOS9で大幅な刷新が加えられており、その処理能力が現状を上回ることは間違いない。
が、最もボイスコントロールを使いたくなるナビの目的地設定については、ボルボが採用するGoogleアシスタントの性能が圧倒的だ。スマートスピーカーなど定置型も含めた圧倒的なユーザーの分母の大きさが認識率の洗練に繋がっているのだろう。温度設定など車両機能との連携が叶わないのは自動車メーカーのポリシーにもよるところだろうが、ナビの使い勝手という点ではIT系出自のそれに肩を並べるのはもはや難しいだろうと思わされる。
そのIT系のOSをベースとすることで、サードパーティのアプリ開発を促しているのが車載エンタメ分野だ。MBUXやBMW OSの最新世代はGoogleの車載OSをベースとすることで同じソースコードのアプリ対応を可能とした。今回の取材モデルはその前の世代になるが、Eクラスについては2025年以降の本格展開を狙う最新世代のMB OSを一部先取りして搭載している。
いずれのメーカーも走行機能とは切り離したかたちながら、外部アプリのインストールを可能とすることで得られるソフトウェア販売のマージンを収益のひとつの柱として位置づけようというわけだが、現在はその前夜という印象で、車載されているエンタメ系ソフトの充実度は決して高いとはいえない。BEVならば充電待ちの暇潰しとして使うか否か……くらいのものだろうか。
ただし今後は車載ハードウェア側の進化にも伴って、リッチコンテンツも扱えるようになる。或いはアプリを介して家庭用ゲーム機とのリモートプレイも可能となるだろう。通信環境の発達やADASの高度化に乗じて、クルマの役割はリビングやオフィスとのシームレス化がより進むことになる。それがまた、クルマに乗るための新しい動機となるのかもしれない。
Chapter02/ドライバーをサポートする優秀な秘書。ベストな音声アシスタントは!?
目的地設定やエアコンの温度調節など、ドライバーを陰ながらサポートするのが音声アシスタントの分野だ。最近は認識精度も上がり、実用性も向上。ここでは最新の音声アシスタントからベストなもの探ってみた。
MERCEDES-BENZ E-CLASS/高い認識精度は日常使いに耐えうる
VOLVO C40 RECHARGE/安心と信頼のGoogleシステムを搭載
BMW i5/固有コマンドの他、アレクサにも対応
Chapter03/多彩なアプリケーションでコンテンツ力が拡大。進化する最新車載エンターテイメント
クルマ自体を高速インターネットに接続できるようになったため、外部から多彩なエンターテイメントを取り込めるようになった。ここでは最新の車載エンターテイメントをご覧に入れよう。
MERCEDES-BENZ EQS/18種類ものゲームアプリを収録
BMW i5/スマートフォンがコントローラーに!?
VOLVO C40 RECHARGE/大人でも唸る難易度の「なぞなぞ」
MERCEDES-BENZ E-CLASS/多彩なサードパーティアプリのインストールに対応
マトリクスレビュー
最後にこれまでの最新車内エンターテイメントに触れた3名のパーソナルレビューを紹介。主観多めだが、ぜひとも参考にしていただければ幸いだ。
01.モータージャーナリスト・渡辺敏史/1967年生まれ。企画室ネコ(ネコ・パブリッシング)にて2輪・4輪の編集を経てその後フリーランスとして独立。日課はライフワークであるネットでの中古車パトロール。
02.Z世代ライター・西川省吾/1997年生まれ。学生時代から自動車ライターとして活動し、現在は新車試乗からモータースポーツ参戦記まで幅広く執筆中。スマホはandroidでPCはWindowsを愛用。
03.ルボラン編集部・浅石祐介/1991年生まれのルボラン編集部員。編集部唯一の30代ということで、この手の話題であればすぐお呼びがかかるが、所有するクルマはすべて2000年以前、という古いもの好き。
●リアスクリーン
01/対角31.3インチのスクリーンは天吊りで、使用時はリアシェードが連動するなど後続車に対する配慮もきめ細かい。視聴時は見上げ姿勢を余儀なくされるところに、セダンの空間活用の難しさを感じる。
02/リアスクリーンは正直距離感が近い。セダンならEQSのように各シートに分かれてモニタが設置されているのが吉と感じた。欲しい情報や操作コマンドは常時表示されていて、直ぐに馴染めると思う。
03/セダンというボディ形状のため、画面を見上げる際の姿勢に若干疑問が残るものの、音響システムは素晴らしく、お気に入りの音楽を流して目をつぶれば、まるでコンサートホールにいるようだった。
01/対角48インチのディスプレイの見応えはもはや家同然。ただしオンデマンドアプリ等の拡張性や左右別ソースへの対応に貧弱さを感じる。ハードよりソフトの弱さが目立つ辺りがなんとも日本的。
02/欧州勢と比べると全体的に保守的な印象、ただ操作は誰でも分かりやすい。せっかく視認性が良い大迫力のリアスクリーンがあるのだから、動画視聴アプリの充実など後席エンターテイメントを増やしてほしい。
03/広大な車内空間を活かしたくつろぎ度はおそらく現状の市販車では最強。正直家にいるのと何ら変わりない。リアハッチにもスピーカーが搭載されているが、i7に比べると若干貧弱に感じてしまったのが心残り。
●音声アシスタント
01/日本語の認識度という点では日本車のボイスコントロールよりは俄然洗練されているが、ある程度は明快な滑舌が求められる。それでも聞き違いが散見されるが多少の我慢や工夫を凝らせば充分使える。
02/搭載されているアプリが多く汎用性が高い印象。iDriveで物理的操作ができるのも好感が持てる。音声認識もナビ設定などは比較的ストレスフリーに使える。ただ、空調やオーディオは通常操作が使いやすい。
03/登場時は認識精度の高さに驚いたが、ナビゲーションの目的地設定など固有名詞を頻発すると、たまに明後日の方向へ認識してしまうこともある。とはいえ普段使いであればほとんど気にならない。
01/1名乗車時は呼び出しコマンドを省略、いきなり「暑い」といえばエアコンの設定温度が下がるなど、より対人的なコマンドの発出が出来るようになっている。いま、一番使える音声アシスタントかも。
02/今回の中でも最新車種ということもあり、音声認識も最も進んでいる印象であった。特に精度が高く、間違いが少ない。音声でアクセスしたい情報や操作に素早くたどり着ける。今後の進化に期待も持てる。
03/認識精度はピカイチ。ナビゲーションの設定だけでなく、エアコンの温度調整やパワーウインドウの開閉など、車内設備との連携も充分に取れている。普段から積極的に使っていける音声コントロールだろう。
01/圧倒的分母もあって認識精度の賢さは随一。目的地設定などはほぼストレスなく音声のみでこなせるのは、せっかちなオッサンにも有り難い。空調などの車両機能との連携がなされていないのが勿体なく思う。
02/当日操作した中で最も「誰もが分かりやすい」と感じたのがC40。シンプルな表示でアクセスしたいものが一目瞭然だ。音声認識もスマートで扱いやすく、どんなワードを認識しているかが直ぐに分かるのが良い。
03/普段スマートフォンなどで使い慣れているだけに、親しみやすいシステムだ。認識の精度も高く、誰にでも勧められる。特にナビゲーション関連はGoogle Mapアプリの連携が見事で、他メーカーにも搭載してほしい。
●車内エンターテインメント
01/Eクラス以降のMB OSは、サードパーティとの連携を重視した設計となっているため、多様な機能追加への対応が考えられる。現状の搭載ソフトが多少物足りなくも後々の発展性に期待できそうだ。
02/賛否両論あると思うが、メーターの3D表示は個人的に好印象。凝視は疲れるが、走行中に「チラっ」と見る形なら情報をより認識しやすい。また助手席にもモニタがあり、いくつかのアプリを楽しめるのも◎だ。
03/サードパーティ製アプリ導入の効果は絶大で、コンテンツ力は大幅に向上した。まだ使用できるアプリは10種類に満たないが、今後バリエーションを増やしていくのだろう。この辺も拡張性もデジタルの強みだ。
01/BEVの充電時間の活用という意味も含めて、車中のエンタメ機能に力を入れているBMW。それだけに搭載するオンデマンドソフトのリッチさは随一。処理能力も高く動作速度の不満もない。
02/i7よりエンタメアプリも豊富となっていて楽しめる要素は多い。また、スマホで操作するゲームを楽しめるのは面白い点だが、立体的なサウンドで楽しめるのがより魅力的に感じたポイントだ。
03/今回Air Consoleを用いた接続を初めて行ってみたが、設定は簡単かつ、ゲームとしてのコンテンツ力も高い。ここまでやる人がどこまでいるのかは疑問だが、近年デジタルに注力するBMWらしいと言えばらしい。
02/どちらかと言えば動画視聴系のアプリやエンタメが充実している印象。内容も悪くないが、モニターサイズを考えると、他と比べあまりエンタメに適しているとは言えない。システムの使いやすさが売りの1台だ。
03/スマートフォン感覚でGoogle PlayストアからYouTubeやAmazon Prime Videoといったアプリをインストールできる点は高評価。しかし他車種に比べると画面サイズや解像度には若干時代を感じてしまう。
01/ハイパースクリーンを軸とするAV性能はYouTube再生には勿体ないほど強力で、当然パズルや落ちゲー程度では持て余す。オプション価格も相応ゆえ、車内空間に対する考え方でその価値は変わるだろう。
02/ステアリングスイッチが充実していて、ドライバー側から各種操作が快適なのが好印象だ。後席は左右独立のモニタでエンタメが楽しめて、コンテンツも充実しているが、不正解のクイズの答えは教えて欲しい……。
03/これだけのアプリやシステムを自前で用意していたのは流石フラッグシップと言ったところ。個人的にはクイズアプリがお気に入りで、特に高難度モードはかなり歯ごたえがあり、時間を忘れて夢中になってしまった。
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走行距離: | 1.2万km |
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