【比較試乗】電動化時代のドライビングプレジャーとは? 最新BEVスポーツサルーンは洗練された乗り心地か軽快なハンドリングか「ポルシェ・タイカン・ターボS vs BMW・i5 M60 xDrive」

電動モデルが次々と登場する昨今。パワートレインの電動化だけでユーザーに訴求することはなかなか難しくなっている。が、そこは走りに一家言あるポルシェとBMW。両社の最新BEVスポーツサルーンから、これからの時代におけるドライビングプレジャーを紐解いてみよう。

クルマとの一体感を味わえるタイカン

こんなことを書いたら関係各所から大ブーイングが起きるだろうことを承知のうえで正直に申し上げれば、今回の試乗車であるポルシェ・タイカン・ターボSもBMW i5 M60i xDriveも、大雑把な印象はよく似ている。どちらもスポーツカーメーカーもしくはスポーティカーメーカーが作ったBEVにふさわしく、静かで、乗り心地がよくて、動力性能が優れていて、安心してコーナリングを楽しめる。だから、これから述べる印象の違いは、あくまでも自動車評論家という職業的な視点で2台を子細に比較した結果あることを、あらかじめお断りしておく。

PORSCHE TAYCAN TURBO S/タイカンの中で最もハイパフォーマンスなモデルがこの「ターボS」だ。モーター出力は平常時でも775psを発揮するが、ローンチコントロール時にはオーバーブーストによって最大952ps/1100Nmまで拡大する。

先にタイカンについて述べるなら、ステアリング系の剛性感が際立って高く、クルマとの強い一体感が味わえる点が、いかにもポルシェらしい。いっぽうで乗り心地はデビュー当時に比べると微妙に変わっていて、荷重移動にともなって伸縮するサスペンションの動き方が、特にストロークの初期領域でしなやかさを増しており、この結果、ロードホールディング性と安心感が大幅に高まったように感じる。これに比べると初期型は足回りが突っ張っているような印象がつきまとって、荷重移動を起こしにくくタイヤのグリップ限界も掴みづらかった。乗り心地に柔軟性が増したという意味も含めて、およそ1年半前に登録された今回の試乗車のほうが私の理想に近い。

PORSCHE TAYCAN TURBO S/ポルシェ初のBEVとなるタイカンは「J1」という専用のプラットフォームを使用する。前後にアダプティブエアサスペンションを搭載し、路面からのあらゆる衝撃をいなしつつ、コーナリングでの圧倒的な安定感を実現する。

ここで1点、申し添えておくと、タイカンは先ごろマイナーチェンジを受け、動力性能や航続距離が大幅に伸びたが、いま申し上げたとおり、今回は試乗したのは従来型である。新型については、日本に上陸した段階で改めて取材する予定だ。
話を先に進めると、ステアリングがやや重めでどっしりとした印象を与えるところもまさしくポルシェらしい。また、前後のエアサスペンションが走行中の路面の細かな衝撃を洗いざらい吸収してくれるので、乗り心地としてはやや硬めな印象ながらも、快適性は極めて高い。同じ理由から荒れた路面のコーナリングで姿勢がより安定しているのはタイカンのほうで、これが安心感をさらに強めていることは明らかだ。

PORSCHE TAYCAN TURBO S/メーターやインストルメントパネルを含めてフル液晶化されており、先進的な印象を与えつつも、全体的なトーンはモダンで落ち着いた感じで統一されているのがいかにもスポーツカーらしい印象だ。シートは前後ともにホールド性の優れた形状で、前2人+後2人の4人乗りだ。

ステアリングの応答性はタイカンを凌駕するi5

前述したとおり、i5の大まかな印象はタイカンと同様なのだけれど、こちらはリアのみエアサスペンションでフロントはメカニカルスプリングを用いている影響なのか、細かく観察していくと路面からコツコツという軽いショックを伝えたり、荒れた路面でのハードコーナリングではボディが軽く煽られる傾向が見受けられた。ただし、その差は決してウィークポイントと言えるほど大きくないことを、繰り返し申し添えておく。

BMW i5 M60 xDrive/2023年にフルモデルチェンジが行なわれた5シリーズ。その中で電動パワートレインを採用するのがこのi5だ。日本に導入されるM60 xDriveは最高出力601ps、最大トルク795Nmを発揮するハイパフォーマンスモデルだ。

絶対的なコーナリング性能自体は、i5もタイカンに負けず劣らず優れているが、ステアリングを切り込んだ直後にノーズの向きが変わる速さは、意外にも(失礼!)i5のほうがシャープ。これは動力性能についてもいえることで、スロットルペダルを踏み込んだ直後の軽快な加速感でいえば、i5がタイカンをわずかに凌いでいる。さらにi5にはステアリングコラムの左側に「BOOST」と記されたパドルがあって、これを走行中に引くと、続く10秒間は過激ともいえるほどの加速感を味わえるギミックが盛り込まれている。これらの機能から代表されるように、タイカンに比べるとi5のほうが俊敏さとか軽快感にこだわっているように感じられた。

BMW i5 M60 xDrive/エンジン搭載モデルとプラットフォームを共用するi5。ICEモデルが前後コイルサスペンションなのに対し、BEVはリアのみエアサスペンションとなっている。M60 xDriveはサブフレームの補強や、アクティブスタビライザーも前後に標準装着される。

いっぽうのタイカンにもオーバーブースト機能が備わっていて、これを用いればパワフルな走りが味わえるものの、全般的には、ハンドリングにしてもパワートレインにしても、タイカンのほうがどっしりとして重厚な印象を与える。i5との決定的な違いは、この点にあるといって間違いない。
ただし、そんな走りの味の違いよりも、もっと明確に異なっているのがインテリアである。タイカンは、湾曲したデジタルメーターを採用し、さらには助手席側にもディスプレイを設けてデジタル感を強調しているけれど、全体的な印象でいえば、スポーティでありながらもポルシェらしく落ち着いたトーンで統一されている。そこに、ターボSではいかにも手触りのいいレザーを用いるなどして、キャビン全体のクオリティ感を高めているように思う。

BMW i5 M60 xDrive/タイヤサイズは前:255/35R21、後:285/30R21だ。

対するi5は、新しさやデジタル感を強調するのに躊躇がない。従来のアンビエントライトよりもはるかに幅広なライトバーにはダイヤモンドを思わせる折り目が添えられているし、メーターパネルの表示やキャビンの各部を彩るフェイシアのデザインにしても、目新しさを強調することに主眼が置かれているように感じる。個人的には、ややもすればバラバラになりかねないこうしたデザイン要素をうまくまとめあげていることに感心させられるけれど、おそらくは好き嫌いの分かれるポイントにもなりうるだろう。

BMW i5 M60 xDrive/最新のカーブドディスプレイが奢られたインフォテイメント。AirConsoleプラットフォームを用いて車内でゲームをすることができるなど、最新の装備を揃える。シート表面はアルカンターラとビーガンレザーを組み合わせる。2995mmというホイールベースから生み出されるリアシートの居住性も充分だ。

室内空間の考え方もタイカンとi5では大きく異なる。着座位置が低く、後席スペースに余裕がないタイカンはいかにもスポーツ的だし、i5は最近のBMWらしく運転席の着座位置が高めないっぽう、後席は正統派セダンに相応しい広さが確保されている。
つまり、タイカンはあくまでもポルシェらしいスポーツカーで、BMWは最新のデザイントレンドを汲んだ4ドアセダンの使い勝手を備えていることになる。ブランドイメージを含め、2台で迷う向きは決して多くないはずだ。

【JUDGMENT】ポルシェ・タイカン・ターボS
走りの味わいでいえば、重厚で快適なタイカンのほうが私の好み。居住空間の作り込みもタイカンに惹かれる。価格はタイカンのほうが圧倒的に高いが、これはグレードを4Sにすれば解決。電費は意外にも互角だった。

【SPECIFICATION】BMW i5 M60 xDrive
■車両本体価格(税込)=15,480,000円
■全長×全幅×全高=5060×1900×1505mm
■ホイールベース=2995mm
■車両重量=2360kg
■総電力量=83.9kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=455km
■モーター最高出力=601ps(442kW)
■モーター最大トルク=795Nm(81.1kg-m)
■サスペンション=前:ダブルウィッシュボーン、後:5リンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:255/35R21、後:285/30R21

問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437

【SPECIFICATION】PORSCHE TAYCAN TURBO S
■車両本体価格(税込)=27,460,000円
■全長×全幅×全高=4963×1966×1378mm
■ホイールベース=2900mm
■車両重量=2370kg
■総電力量=93.4kWh
■一充電航続可能距離(WLTP)=412km
■モーター最高出力=761ps(560kW)
■モーター最大トルク=1050Nm(107.1kg-m)
■サスペンション=前:ダブルウィッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:265/35ZR21、後:305/30ZR21

問い合わせ先=ポルシェジャパン TEL0120-846-911

フォト=佐藤亮太 ル・ボラン2024年4月号より転載

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