巷で流行りの「推し活」。ご存知のとおり911にはエンジンや駆動方式やボディタイプなどを組み合わせると26ものグレード(2023年10月現在)が用意される。いうまでもなく、それぞれに甲乙つけがたい魅力がある。ここでは最近新たにモデルに加わったカレラTの“推しポイント”を語る。
911選びに迷ったらこの1台が決定版
新たに加わったカレラTは、素のカレラとカレラSの中間に位置し、ライトウエイトスポーツカーでもあるという。エンジンはカレラ用と同様の385psだが、シャシーはPASMスポーツサスペンション(マイナス10mm)にリミテッドスリップリアディファレンシャルを備えたPTVを標準装備するというからカレラSに準じている。さらに遮音材とリアシートが省かれ、カレラにはない7速MTが標準で、8速PDKも用意される。通常のカレラに比べると35kg軽い1470kgと911のなかで最軽量だ。ちなみに0→100km/h加速をPDK同士で比較するとカレラが4.2秒、カレラTが4.0秒、カレラSが3.7秒。マイナス35kgは0.2秒アップに相当する。
911には多くのモデルが用意されていてチョイスに迷うが、個人的には素に近いモデルで、しかもMTから入門するのがいいと思っている。911はRRゆえ特異な重量配分なので、絶大なトラクション性能など特有の味わいがあるが、素に近いほど荷重移動がしやすくて挙動がわかりやすい。フラット6の優れた振動特性や吹け上がりの鋭さなどはMTのほうが味わいやすい。なるべくシンプルなかたちで911の魅力を身体にたたき込むべきだと思うのだ。
ただし、現行ラインナップでMTが選べるのはカレラGTSかGT3のみで悩ましいと思っていたところに、MTが標準のカレラTが追加されたのは嬉しいニュース。ただ、もしかしたらPASMスポーツサスペンションは余計かもしれないと思いながら試乗にでかけた。ところが、走り始めるとサスペンションはしっとりとしていて荷重移動がわかりやすく、タイヤの接地感も濃厚。スポーツサスペンションから想像されるスパルタンな雰囲気は皆無だ。過去の経験からいえば、サスペンションが硬めの911を公道で走らせると、コーナー入り口で意識的にフロント荷重にしないと気持ちいい旋回姿勢にならなかったり、ステアリングフィールが薄く感じられることもあった。だから素がいいのだと思い込んでいたのだが、911Tではそんな心配はいらない。
それでいてペースを上げていけばワンランク上のシャシー性能でハイレベルな走りを堪能させてくれる。ダンパーが可変式なので幅広い速度域および負荷に対応してくれるのはもちろん、ステアリング操作に対しての正確性が高く、コーナーで思った通りにラインを描いていけるのが印象的だった。PTVの効果もあるとはいえ、ずいぶんと素直な回頭性の持ち主だと感心していたのだが、試乗車にはオプションのリアアクスルステアリングが装備されていたのを後から知った。なるほど、だからあれだけ旋回能力が高いのかと納得するとともに、リアアクスルステアリング装着に気が付かないほど違和感がないことも確認できた。
まずはなるべく素に近いモデルで911の素性を知るべきという持論を捨てるつもりはなく、カレラTのリアアクスルステアリング付きは究極にシンプルというわけではないが、乗っていて余計だと思わせる装備ではなく、入門用としても推すことができる。しかも攻めれば攻めるほどワンランク上のシャシー性能という旨みを噛みしめられる玄人好みのモデルでもある。“チョイスに迷ったコレ”という決定版と言っていいだろう。
【SPECIFICATION】PORSCHE 911 CARRERA T
■車両本体価格( 税込)=17,570,000円
■全長×全幅×全高=4530×1852×1293mm
■ホイールベース=2450mm
■車両重量=1470kg
■エンジン種類/排気量=水平対向6DOHC24V+ツインターボ/2981cc
■最高出力=385ps(283kw)/6500rpm
■最大トルク=450Nm(45.9kg-m)/1950-5000rpm■トランスミッション=7速MT
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:245/35 ZR20、後:305/30ZR21
問い合わせ先=ポルシェジャパン TEL0120-846-911