「ミリ」に「インチ」、「ps」や「kW」「CV」「HP」などなど、クルマ関連に関わらず様々な単位が混在しているワケとは?

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「インチ」を「ミリ」で表記するとわかりずらい反面も

クルマにはいろいろな単位系が使われています。もっとも一般的なのはタイヤサイズで、たとえば185/60R15というタイヤサイズは、横幅が185mm、内径が15インチです。どうしてこのような面倒なことが起きているのでしょう。

前述のようにタイヤサイズはミリとインチが共存しています。これは自動車産業が機械産業の黎明期にいろいろな国で盛んになっていったことの痕跡だと言えます。タイヤの幅がミリで表示されるのは、ミシュランがフランスの会社だからといわれています。ミシュランは現在の自動車用タイヤに多く採用されるラジアル構造を発明しています。そしてミリという単位がフランス発祥であることから、タイヤ幅のスタンダードがミリ表示になったというものです。

いっぽうタイヤを組み付けるホイールの外径(タイヤの内径)はインチで表示されます。これはイギリスの単位で、イギリスでも自動車産業が盛んであったことに由来すると言われています。初期のホイールには木製もありましたが、わりと早く金属製にとって代わられました。ミシュランも当時の既存のホイールに合わせてタイヤを設計したのでしょう。ですのでタイヤの内径はインチが標準になったというわけです。

ではなんで、ミリに統一しないのでしょう? それは数字が煩雑になってしまうからです。たとえば15インチをミリ表示にすると381㎜ですから、185/60R15のタイヤサイズが185/60R381となります。この表記のよくないところはホイールサイズが1サイズ上がった(つまりインチアップした)ときに185/50R16ではなく、185/50R406.4と、1サイズアップしたことがわかりにくくなってしまうことです。人類が自動車製造を1からやり直すならホイールサイズを25mm刻みにするなどの方法もあるでしょうが、今さらそんなことをするより、混在させたほうがいいということで、国際的な規格でもこのミリ、インチ混在が認められています。

余談ですが、インチアップというのはかなりいい加減な表現です。インチというのは単位であって、タイヤの内径を示すものではありません。英語でinch upは、じわじわと上がるといった意味とのことなので、英語圏では通じないでしょう。日本語では通信容量がたりないことをギガが足りないなどというように、単位を名詞のように使うことがよくあります。

さて、ホイールにはハブに取り付けるための穴があいています。この穴の中心を結んでできる円の直径をP.C.D.(Pitch Circle Diameter=ピッチサークル・ダイアメーター)と呼び、穴の数と並んでホイールを取り付ける際の大事な数値です。国産車の場合は、穴数&P.C.D.は4穴-100mm、5穴100mm、5穴114.3mmが一般的です。このなかで不思議な数字なのが114.3mmです。なんでこんな中途半端な数字かというと、114.3mmというのは4.5インチでもともとはインチ規格だったものをミリに直したためにこのような中途半端な数字になっているのです。

日本では5刻みや10刻みとすることが多いのですが、欧米では1/2、1/4、1/8、1/16、1/32と半分、そのまた半分としていく習慣があります。114.3mmという数字は4.5というよりも、4+1/2インチなのです。たとえば、日本の硬貨は、1円、5円、10円、50円、100円、500円ですが、アメリカの硬貨は1セントから100セントの間に25セントという硬貨が用意されています。インチ規格のスパナだと19/32、7/8など日本人には理解しがたい区分となっています。

前述の114.3mmはじつは日本でもいろいろなところに使われている数字です。たとえば、トイレットペーパーの幅は114mmでこれはJIS規格でも決められています。114mmなのはアメリカの規格が元になっているからです。また洋2サイズの封筒は162×114mmサイズですし、排気ダクトに使われるパイプの直径や天体望遠鏡の口径でもよく見かける数値です。

基本的に日本のクルマはミリ規格(ISO規格)で作られているので、ネジ類、ボルト類もミリ規格のネジが使われています。ところが、一カ所だけインチボルトが使われていることをご存じでしょうか? 世界中、どのクルマも統一規格でインチボルトが使われているのが、シートベルトを固定しているボルトです。シートベルトの固定ボルトはユニファイ7/16-20というインチサイズが使われています。これはシートベルトがアメリカで発明されたものだからといわれています。ユニファイというのはネジの規格で、第二次世界大戦中にアメリカとイギリスで武器の規格を合わせるために採用されたものです。

このように単位系は国によって異なるので、さまざまな表示が異なってきます。たとえばエンジンやモーターなら、出力は今はkWで表記することになっていますが、多くのメディアでいまだに馬力であるpsを使ったり、併記したりしています。いきなりkWになりますよ、と言われても以前のクルマとの比較がしづらいですし、なにかしっくりこないということもあります。従来よく使われていたpsはフランス馬力と言われるものです。フランス馬力はCV(cv)という単位もありますが数値的には同一。つまり100ps=100CVでした。かつて存在したシトロエンの2CVは2馬力という意味です。かつてのフランスではエンジンの馬力によって税額が決まっていて、2CVカテゴリーの税率という意味であって、決して最高出力が2CVだったわけではありません。このほかに英馬力と言われるイギリスで使われる単位もあり、HPもしくはhpという記号が使われます。100HPは101.4psとなるので、同じ数値でもイギリス馬力のほうが少し力強いことになります。ではアメリカは? というとアメリカは英馬力を使っているので、イギリス車とアメリカ車は同じ数値なら同じ馬力になります。

速度の単位もイギリスとアメリカはマイル毎時(mph)、そのほかの国はキロメートル毎時(km/h)を使います。どちらも1時間でどれだけ移動できるか? という単位です。1マイルは1.601kmですから、100mphは160.1km/hということになります。

単位系の話で興味深いのは燃費の単位です。日本やアジア、アメリカなどではkm/L(アメリカではマイル/ガロン)を使い、ヨーロッパや中国などではL/100kmを使います。km/L(マイル/ガロン)は1リットル(ガロン)のガソリンでどれだけ遠くに行けるか? という単位で、L/100kmは100km移動するのにどれだけの燃料が必要か? という単位です。日本はアメリカに、中国はヨーロッパにならったと考えていいので、アメリカとヨーロッパの違いとみられます。広大な土地を持つアメリカは、目的地まで行くのに何kmだからこれだけガソリンが必要、だからこれくらいの大きさのタンクのクルマがいい、という考えが根本にあるような気がします。なにしろ昔のアメリカ車といったら、燃費なんて関係なしの大きなV8エンジンを積むのが当たり前。燃費は金額よりも何回ガソリンを入れるのか? のほうが気になったのでしょう。

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