シトロエンのハイドロ最終進化形
けれど、1980年代、1990年代、2000年代初頭といった、今ではヤングタイマーあるいはネオ・ヤングタイマーと呼ばれる“ちょっと古いクルマ”達の中にも、魅力的なセダンはちゃんと存在している。前の時代に培った技術を延々と熟成させて人知れずかなりの高みへと押し上げた“偉大なる普通”とでも呼びたくなるような地味目系や、先鋭化が進んでいくモータースポーツのレギュレーションの中で何が何でも勝利を得ようと最新テクノロジーを徹底的にベース車へ盛り込んだスポーツカー顔負けのパフォーマンスを持ったスーパー・マシン、加速度的に進化していく電子制御の世界を快適性の分野に投入した癒しの塊のようなもの─。継続と熟成と進化の時代、といっていいのではないかと思う。
2005年にデビューしたシトロエンC6は、それをよく体現しているモデルだ。シトロエンは乗員が快適であることを何より大切にし、1955年発表のDS以来、とにかく乗り心地のいいセダンを─一時的に留守にしたことはあったものの─作り続けてきた。DSの時代からしばらくはハイドロニューマティックという窒素ガスとオイルの圧を利用したサスペンションが乗り心地のよさを担い、“魔法のカーペットのよう”と賞賛されたが、1980年代の終わり頃に電子制御が組み込まれたハイドラクティブへと進化し、さらに緻密で効果的な制御を可能とするよう改良と熟成を徹底させていった。C6には、その最終進化形といえるサスペンションが備わってる。
その乗り味は、途轍もなくスウィートだ。体感的な面からいうなら古いハイドロニューマティックの海原をたゆたうようなフィーリングに独特の─そして解りやすい─気持ちよさがあるけれど、C6のそれはもっと遙かに自然なのにもっと遙かに身体に優しい。さり気ないけど素晴らしく快適で、疲れ具合も走ってるときの安定感や動きの素直さも、こちらの圧勝だ。後にシトロエンはサスペンションを金属バネへと変え、それにしては素晴らしい乗り心地のよさを提供してくれているけれど、この徹頭徹尾スウィートな感触を得るまでには至っていない。
セダン受難の時代ではあったけど、こういう“ピカイチ”も生まれたのだ。
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