横浜の工場で製造されていた右ハンドルのフォード
身近で便利な交通機関として親しまれているタクシー。日本で最初のタクシーは、1914年(大正3年)に営業を開始したタクシー自動車株式会社(東京市麹町区有楽町)とされている※1。当時としては当然と言うべきか、このタクシーに使用されていた車両はT型フォードであった。
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この後、1925年(大正14年)にはフォードが横浜に、1927年(昭和2年)にはGMが大阪に工場を設立し、それぞれフォードとシボレーの生産を開始する。日本の工場で行われるのは組み立てのみで、パーツは米本国から輸入する形であった。これらの日本組み立て・右ハンドルのフォードとシボレーは、戦雲の到来に伴い1938年(昭和13年)を最後に市場から締め出されてしまうのだが、それまでの間はもちろん、終戦後数年にかけても、日本のタクシーはこのフォードとシボレーが大半だったのである。
この頃のタクシーを指す言葉として、「円タク」という単語に聞き覚えのある方も少なくないだろう。これは東京市内※2なら一律で料金1円、という運行形態からできた言葉である。やがて1937年(昭和12年)頃から、現在と同じメーター制が導入され、この料金形態は変更されてしまった。メーター制については、「そんなに昔から」と少々驚いてしまうのだが、さらに驚くことに、タクシーはもともとメーター制であって、円タクが現れたのは1925年(昭和元年)頃のことなのだそうだ。
レベル製2ドア・セダンを4ドア・セダンに改造!
ここでお目にかけているのは、昭和初期の円タクを1/25スケールで再現した模型である。車両はフォード・モデルA、所謂A型フォードだが、現在容易に入手できる1/24~25スケール・プラモデルのA型フォードに、4ドア・セダンのキットはない。この作例はレベルの2ドア・セダンをベースに、4ドアへと改造したものである。
作者の畔蒜幸雄氏がこの作品で再現したのは、タクシー運転手であった祖父・畔蒜幸蔵氏が、当時乗務していた1930年型のA型フォードだ。当時の米本国のフォードでは、通常の4ドア・セダンの他にタクシー専用のセダン、所謂タクシーキャブがあり、これは車室に余裕を持たせるため車体後端の形状が異なるほか、助手席側にも客室が飛び出し、運転席との間に仕切りが設けられていた。日本にもこのタクシーキャブが導入されていたかどうかは定かでないが、畔蒜氏が参考にした実車と幸蔵氏の写真でも、通常のセダンであることは確認できる。本国でもこの専用キャブのみがタクシーに使用されていたのかは不明だ。
作例のボディの改造は、畔蒜氏と縁の深い周東光広氏が担当、またデカールの自作は棚瀬和重氏の協力によるもので、3人がかりの大作となっている。特にボディの改造については詳細に解説しているので、工作中の写真に添えたキャプションをご参照いただきたい。また、フィニッシュについては後編での紹介となるので、こちらもお楽しみに。
※1毎日新聞社刊『昭和自動車史 日本人とクルマの100年』による。資料によっては1912年との記述もあり。
※2東京市から東京都になったのは1943年(昭和18年)のこと。
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