【知られざるクルマ】Vol.20 海外で活躍した軽自動車(1)スズキの商用車編……ベドフォード・ラスカル、マルチ・スズキ・オムニ、デーウ・ダマスほか

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誰もが知る有名なメーカーが出していたのに、日本では知られていないクルマを紹介する連載、【知られざるクルマ】。今回は、海外で活躍した(する)軽自動車シリーズの第一弾として【スズキの商用車編】をお送りする。

ボディ寸法・排気量に上限を定めた軽自動車規格は、日本独自のもの。しかし、限られた枠の中で、最大限の機能を与えることに長けた国産メーカーが生み出した軽自動車だけに、その一部は、海外でも優れた小型車として通用する。中でも軽バン・トラックなどの軽商用車は、乗用モデル以上に海外で愛用されているのだ。その顕著な例が、スズキの軽トラック「キャリイ」と、1982年にキャリイの1BOXタイプが独立して誕生した「エブリイ」だ。日本でも慣れ親しんだこの2車種は、想像以上に海外で現地生産が行われ、活躍している。以下、生産国ごとにその展開例を見ていこう。

【イギリス】欧州でも「ラスカル」として売られていた「キャリイ」と「エブリイ」

海外で働くスズキといえば、まずはインド……が思い浮かぶが、ここではイギリスで生産されていたキャリイ&エブリイからスタートしたい。それが、8代目キャリイ(2代目エブリイ)の英国生産モデル「ベドフォード・ラスカル(Rascal)」である。

ベドフォード(ベッドフォード)とは聞き慣れない会社名だが、GM系だったオペルを英国で販売するブランド「ボクスホール」の商用車メーカーで、ボクスホールの乗用車をベースにしたライトバンから、日本でいう10tクラスの大型トラックまで、幅広いラインナップを持っていた。GMとスズキは1981年に業務提携を行なっており、ラスカルはその成果の一環として登場。英国ルートンにある、いすゞとボクスホールの合弁企業「IBCビークル」が1986年から1993年まで生産を行っていた。なおこの工場では、欧州市場向けの「スズキ・キャリイ」と排気量アップ版の「スズキ・スーパーキャリイ」も生産を行っていた。

見た目はほとんどキャリイ/エブリイと変わらない「ベドフォード・ラスカル」。英国ナンバーがつくだけで、一気に欧州車っぽくなるのが不思議だ。排気量の上限がないため、エンジンは550ccではなく1LのF10A型を搭載していた。

1990年になってベドフォード自体が消滅してしまったため、それ以降は「ボクスホール・ラスカル」を名乗った。なおベドフォードというブランド名は、英国圏以外では認知度が低かったため、欧州全域では「GME・ラスカル」、豪州では「ホールデン・スカリー」と呼ばれていた。

【インド】インドの国民車のひとつだった「オムニ」と、後継車の「イーコ」

「海外のスズキ」の代名詞であるインド市場では、スズキのインド現地法人「マルチ(Maruti)・スズキ」が「オムニ(Omni)」を製造していた。オムニは、1979年登場の7代目キャリイ(初代エブリイ)の現地生産車で、1984年のデビュー時は単に「マルチ・バン」と呼ばれていた。オムニという車名が与えられたのは、1988年のことである。商用・乗用の両仕様が販売されたオムニは、基本的には登場時のまま、幾多のマイナーチェンジを繰り返して2019年まで生産を継続。インドの国民車的な存在として愛され続けた。生産が終わった理由は、インド国内での新しい衝突安全基準と、環境基準を満たさなくなったため、とのことだ。

モデル末期のオムニ。初期型は、初代エブリイそのもののマスクだった。直3・0.8LのF8B型エンジンを搭載。

オムニの跡を継いだのが、「イーコ(Eeco)」。だ。小さなボンネットを持つ車体は、ご覧の通り4代目エブリイの1.3L版「エブリイプラス」を基本とする。3列シートの7人乗りも用意。

「イーコ」は2010年のデビューだが、さらにその前身として、同じくエプリイプラスを元にした「バーサ(Versa)」も存在した。イーコのエンジンは直4 ・1.2LのG12B型。

一方で、インドには2016年から「キャリイ」も存在する。正しくは「スーパーキャリイ」と称されるこのモデルは、以前インドネシアで生産していた「キャリイ・フューチュラ」(後述)のインド版。キャリイという名前で、開発も基本的には8代目キャリイをベースにするようだが、全長3.7m超、幅も1.5mオーバーと軽規格よりもひとまわり大きい。インド国内での販売は好調で、発売4年で7万台を売ったという。現在では、フィリピンやタンザニア、南アフリカなどにも輸出を行っている。

インドのスーパーキャリイには、当初、直2・0.8LのターボディーゼルエンジンE08A型を積んでいたが、現在は直4 ・1.2LガソリンのG12B型に置き換わっている。

【パキスタン】オムニのようで名前が違う「ボラン」と「ラヴィ」

パキスタンでは現地子会社の「パックスズキ」が、オムニと同様に7代目キャリイと初代エブリイを生産しており、2021年5月現在もなお販売を継続中。バンは「ボラン(Bolan)」、トラックが「ラヴィ(Ravi)」と呼ばれている。

独自のマスクを持つ、パキスタン版エブリイの「ボラン」。ボディはハイルーフのみで、ボディカラーは白、銀、赤の3色を設定する。2021年5月現在での新車価格は113万パキスタンルピー(約80万円)。

日本では懐かしい、一方開きの荷台を備えるラヴィの後ろ姿。ボラン、ラヴィともにエンジンは0.8LのF8B型。

【インドネシア】キャリイベースの「コルト」、しかもトラックがあった!?

初めてキャリイの海外生産が行われたのは1976年。車種は6代目キャリイで、国はインドネシアだった。その後、7代目を日本仕様に近いまま製造していたが、1991年になって車体を拡大した独自タイプを発売。「キャリー・フューチュラ(Futura)」と呼んで2019年まで販売されていた。

さらに、このキャリー・フューチュラには三菱版も存在した。その名も「コルト120SS」で、従来販売していた初代デリカのインドネシア版「コルトT120」の後継モデルだった。

上:キャリイ・フューチュラ、下:コルトT120SS。三菱版はちゃんと顔が「三菱顔」に変えてある。エンジンも、キャリイのエンジンはスズキ製のG13C/G15A/G16Aだが、コルトにはわざわざ三菱製の1.3L/1.5Lエンジンである4G15/4G17を載せわけていた。

そしてインドネシアでは、「メガキャリイ」なる小型トラックも売っていた。ベースは、同国生産の小型ミニバン「APV」だ。メガという名前だけあって、キャリイを名乗るには大きな車体を持ち、全幅は1.7mほどもある。こちらも2019年に生産を終了している。

2005年から2019年に生産されたメガキャリイ。エンジンは、1.5LのG15A型。ややこしいことに、こちらにも三菱のエンジンを積んだ「三菱・メイブン(Maven)」なるモデルがあった。

そして、キャリイ・フューチュラとメガキャリイを統合する車種として、2019年から生産を始めたのが「国際版」キャリイ。国内現行型である、2013年登場の11代目キャリイを元にしているが、外観はまったく異なっており、全長は約4.2m、全幅は1.7mオーバーの1765mmに達する。こちらもメガキャリイ同様に、国内キャリイよりも約30cm近くも広いのだ。タイやフィリピンなどへも輸出を行っており、今後は、スズキの国際戦略車という大役も担うことになる。

精悍な印象が好ましい、インドネシア生産のインターナショナルキャリイ。1.5Lの直4エンジン、K15B-C型を搭載。

【ベトナム】「スーパーキャリイ」を2000年から生産

7代目と並ぶ、世界各地で生産された8代目キャリイ&2代目エブリイ。ベトナムでも2000年から生産を開始しており、現在も販売を行っている。ベトナムではバンとトラックともに「スーパーキャリイ」と呼ばれる。スーパーキャリイといえば、日本では現行型のキャブを拡大した派生版が思い浮かぶが、この名称は、もともとは欧州をはじめとした海外市場向けキャリイの一部で使われていたものだった。

ベトナムで作られるスーパーキャリイは、1Lエンジンを載せる。

【韓国】【ウズベキスタン】「ダマス」はGMの隠れた国際戦略車

1937年に韓国で創業した「國産自動車」は、「セナラ自動車」「新進自動車」と社名変更を経て、1972年以降はGMグループ傘下に入り「GMコリア」へ。その後「セハン自動車」と社名を改めたのち、1983年に大宇財閥の資本参加も受け、社名をデーウ(大宇)とした。GM系のデーウでは、オペル各車をベースにした乗用車を販売したほか、同じくGM系にあったスズキのクルマもラインナップに入れていた。その中には軽商用車もあり、8代目キャリイは「ラボ」、2代目エブリイを「ダマス(Damas)」として1992年から生産を行っていた。2011年からデーウが再びGMコリアに名を戻した際は、韓国国内市場向けからはデーウの名前が消えただけでなく、GMブランドも冠していなかった。

登場時はエブリイと同じようなスタイルだったダマスは、2003年のマイナーチェンジで、安全基準に対応するためノーズを伸ばし、名称も「ダマス II」になった。エンジンは直3・0.8LのF8C型。

なお、ダマス&ラボは、2021年5月現在では韓国内での生産を終えているが、1996年からウズベキスタンの「ウズオート」でも生産が行われ、ウズベキスタンでの重要な輸送手段となっている。2008年以降は、車名が「シボレー・ダマス」となった。同社のHPでは掲載が続いているので、まだ販売中なのではないかと思われる。そのほかダマス&ラボは、中米や北アフリカなどでは、「シボレーCMV/CMP」としても販売されていた。このように、スズキ生まれ・韓国育ちのダマスとラボは、GMの隠れた世界戦略車にもなっていたのだった。

ウズベキスタン仕様のダマス。3列シートを備える、小さなコミューターとして重宝されており、同国では大きな人気を誇る。

中米などで販売されていたダマスは「シボレーCMV」、ラボは「シボレーCMP」と呼ばれていた。ボウタイが輝き、リアゲートにシボレーのロゴが踊るキャリイ&エブリイもなかなかクールである。

【中国】ダブルキャブまで存在する「チャナ・スター」

中国でのスズキ車生産も歴史が古く、7代目キャリイ・初代エブリイは1982年から「昌河(チァンゲ)」での生産を開始した。そのほか「長安(シャンアン)スズキ」でも、10代目キャリイ・4代目エブリイ(とエブリイプラス)をベースにした「チャナ・スター」として1999年から発売。また、この代のキャリイ・エブリイは、チャナ・スターのほか、「長安神騏(チャンアン・シェンキ)T20」、「長安跨越(チャンアン・クワユエ)・シンバオ」など数多くの車種のベースになっている。後部を延長したタイプ、ダブルキャブのピックアップなど、日本では見られない姿も存在し、そのバリエーションは膨大。この項ではまとめきれないほどだ。

度重なるマイナーチェンジで独自進化を遂げているが、デビュー時はエブリイに近いイメージだったチャナ・スターのピックアップ。4代目エブリイの面影をドアに残しつつも、よく見るとリアドアがヒンジ式になっている。「軽自動車は、その規格から外れるスタイルだとギョっとする」という楽しさを再確認させてくれる。

【台湾】「プロント」は、フォードブランドで販売

世界は広く、車種は膨大にあるものの、アメリカンビッグ3のGMとフォードのバッヂを両方持っていた車種というのは、そうそう存在するものではないらしい。それをやってのけたのが、エブリイの台湾版「フォード・プロント(Pront)」だ。プロントは7代目キャリイ・初代エブリイの現地生産モデルとして1985年に登場。8代目/10代目キャリイ・2代目/4代目エブリイも、プロントとして生産・販売された。ちなみにプロントを作っていた「福特六和(フートァリィファ)」では、福特=フォードの名の通り、現在もフォード各車を生産中である。

10代目キャリイ・4代目エブリイは、台湾では「フォード・プロントP-RZ」と呼ばれた。

日本では姿を消しつつある古いキャリイとエブリイが、未だに世界中の路上を走っているのは、なんだか不思議な気持ちになる。そしてそれと同時に、日本の誇りでもある軽自動車が、世界各国のプチコミューターや輸送手段として活躍していることを、誇らしく思うのだ。

ということで次回は、「海外で活躍した軽自動車」シリーズ第二弾として、「ダイハツ編」で行こうかしら……。どうぞお楽しみに。

この記事を書いた人

遠藤イヅル

1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。

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2021/05/21 15:00

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