M2ベースのピュアレーサー
ビー・エム・ダブリュー株式会社(BMWジャパン)の包括的なサポートを受けて、SUPER GTとピレリ スーパー耐久シリーズに参戦する「BMW Team Studie(ビー・エム・ダブリュー・チーム・スタディ)」が、極めて魅力的なクラブレーサーを日本に初導入。そのシェイクダウンが10月21日に静岡県の富士スピードウェイで行われた。その名も「BMW M2 CS Racing」。BMW Mモデルの人気FRスポーツ「M2 CS」をベースに、BMW モータースポーツが手がけた純粋なレーシングマシンである。
このテストドライブに参加できる聞いたとき、胸の鼓動が高まった。何度も言うがそれは、BMWが手がける本物のレーシングマシンなのだから! 自分のようなアマチュアドライバーが、ホントにいいのだろうか……?
誤解を恐れず言えば、いいのである。なぜならこのM2 CS Racingは、筆者のようなモータースポーツを愛するアマチュアのために用意された入門用のマシンだからだ。
いまや世界中の各メーカーは、FIA-GT規格という形でアマチュアドライバーにカスタマーレーシングを提供している。BMWで言うとそれは「M6 GT3」や「M4 GT4」になるわけだが、M2 CS Racingはその下位に位置するマシン。FIA-GT格式でこそないワンメイクレーサーだが、だからこそ敷居は下げられ、等身大でこれを楽しむことができる。
当日の富士スピードウェイのAパドックでは、SUPER GTで活躍するチーム・スタディの面々が、その小さなレーシングマシンをテキパキとチェックしていた。搭載エンジンはM3/M4由来の「S55」型。この3リッター直列6気筒ツインターボは市販版で450psの最高出力を発揮するが、M2 CS Racingでは現状その最高出力が360ps程度に抑えられている。
これにはキチンとした理由があって、BMWはこのM2 CS Racingを世界中のレース規定に細かく適応させるため、ECUのマッピングを「パワースティック」と呼ばれるUSBデバイスで、5段階に分けて調整しているのである。そしてこの年末には、プラス90馬力となる450psバージョンのアップデートプログラムが届くのだという。
ボディは市販のM2 CSをストリップダウン。内張やフロアカーペット、アンダーコートといった可燃性の素材は全て取り外され、代わりに安全性とボディ剛性の向上を両立するロールケージが室内に張り巡らされている。
しかしその車重は、約1500kgとレースマシンとしてはやや重たい。ボンネットなどは市販版M2 CSが標準装備するカーボン製から、あえてアルミ製へと材料置換されているし、リップスポイラーやウイング翼端板もカーボン製から樹脂製へと変更されている。というのは、M2 CS Racingの目的は一般ユーザーにモータースポーツへの扉を開くことであり、速さを極めることではないから。万が一のクラッシュやヒットに際して、ネガティブな要素をもたらす高価なカーボン製パーツは使わず、走りを楽しむことに専念してもらうためにコストを抑えているのである。
メーターはレーシングユースのデジタルタイプ。そこには油温/水温/油圧といった機関データはもちろん、各コースのレイアウトやラップタイムといった情報までもが表示される。またデータロガーをインストールすれば、その運転状況までPCで確認できるようになっている。
恐ろしくカッコいいのは、レーシングユースの小径ステアリングだ。機能的にはウインカーやワイパーといった、通常ではレバー式となる装備がプッシュボタンにされているだけなのだが、そこにピット無線やハイビームフラッシャー(パッシング時に三連打!)が付くだけで、俄然気分が盛り上がる。そしてセンターコンソールには、スターターや燃調マッピング変更ダイヤル、トラクションコントロールといったスイッチ類がまとめられている。
ちなみにトランスミッションは7速デュアルクラッチ式を採用。クラッチミートのスピードを段階的に制御できる仕組みも、市販モデルのM2シリーズと同じである。
いよいよコースイン!
筆者に許された走行はイン/アウトを含めた5ラップ。ロールケージをくぐり抜けてコクピットに滑り込むと、まず感じたのはシートポジションの低さだった。もちろんこれは、オーナーの体格に合わせて高さやサイズまで調整することが可能だが、輸入したてホヤホヤのマシンは、いわゆる“ツルシ”。標準的な日本人体系の筆者(身長171cm)には少し低すぎて、メーターナセルが前方の視界を遮っていた。スターターボタンをプッシュしてエンジンに火を入れる。初爆のサウンドは目が覚めるほど勢いがよく、アクセルを煽るとエンジンがパーン! と吹け上がった。
チーム・スタディの渡辺一輝メカニックに促され、コースイン。こうした試乗にはまあまあ慣れているとはいえ、日本(アジア)でただ1台のM2 CS Racingを走らせる緊張感は相当なもの。ピットレーンを低速でやり過ごし、コースインしてから全開!
遮音材などが全くないコクピットでは、ヘルメットごしでもS55ユニットの直6サウンドが淀みなく、それこそダイレクトに響き渡った。いささか子供っぽいが、それはひとことで「ひゃー!」である。いやいいのだ、こういうときは童心に返るべきなのだ。
こうした状況に恐怖感なくハシャいでいられたのは、その出力が360psに絞られていたからというだけでなく、マシンのスタビリティがとても高かったからである。ボディは岩の塊のように剛性感が高く、なおかつ足下には280/650R18サイズのADVANレーシングスリック(スタンダードはミシュラン)が履かされており、これがもっちりと路面に食い込んでいた。
その操作感は、ちょっと独特だった。もっちりとグリップするタイヤに対して、そのサスペンションも、極めて柔軟に伸び縮みする。ロールはきちんと抑えられているのだが、感覚的には市販車のM2コンペティションよりも柔らかく感じられるほどである。
そしてこのサスペンションのストローク感こそが、“ニュルレーサー”の証なのだと思う。そう、このM2 CS Racingは、ニュルブルクリンク耐久シリーズや24時間耐久レースを闘う、M235i/240i Racingのコンセプトを受け継いだ直系モデルなのだ。
短いストロークで俊敏に反応するマシンとは違い、あらかじめマシンの動きを予測して、高い速度を維持したまま走りをマネージメントして行くそのキャラクターに、初乗りで上手く順応できるほどの経験がない筆者だったが、だからこそ安全にFRレーシングを走らせることができたのは事実だ。ブレーキは踏みごたえから実際の制動力まで安心感が高く、富士スピードウェイの名物コーナーである「100R」を、自信を持って踏み込んで行くことができる。リアが唐突にスナップすることもなく、失敗すればアンダーステアがジワーッと出て、マシンがそれを教えてくれる。
トラクションコントロールは段階的に緩められるし、車高調整式の足まわりや5段階のウイング設定を細かく調整していけば、このM2 CS Racingはどんどん自分のものになっていくのだろう。「あぁ、もっともっと走っていたい!」というのが正直な感想である。
トラフィックに捕まったこともあって、筆者のアタックタイムは1分53秒台に終わってしまったが、スーパー耐久シリーズでM4 GT4を走らせているレーシングドライバーで、モータージャーナリストの大先輩でもある木下隆之氏が、当日のシェイクダウンで刻んだタイムは1分52秒フラット。これでパワースティックが450ps版にアップデートされたら、1分40秒台も見えてくる。クラブレーサーとして見てもこのM2 CS Racingは実力十分、楽しさMAXの出来映えであった。
そんなM2 CS Racingは、BMW M社が販売を手掛けるので、日本国内のBMW正規ディーラーで購入が可能! その実現のため、これから認定ディーラーの選定やサービストレーニングといった環境が随時整えていくのだという。気になるプライスは1500万円前後の設定になりそうだ。その価格だけを捕らえると確かに高額ではあるが、市販版M2 CSが1285万円(DCTモデル)だったことや、限定60台があっという間に完売したことを考えると、このM2 CS Racingはバーゲンプライスだと思う。
ちなみにBMWは今年からレーシングシミュレーター「SIMレーシング」を用意。当然そのプログラムにはこのM2 CS Racingのデータも当然入っている。プロドライバーやレースエンジニアにシミュレーターでドライビング教わりながら、サーキットでは本物のM2 CS Racingを走らせる。ナンバー付きではないピュアレーサーを持つことは敷居が高いと思われるかもしれないが、これからはこうした効率的かつインタラクティブな愉しみ方が主流になって行くべきだとボクは思う。そしてBMWも、公道では使い切れないBMW Mモデルのパワーを、サーキットで安全かつ思い切り楽しめる環境を作るビジョンにシフトしていると考える。
ちなみにスタディではこのシミュレータを体験できる(要問い合わせ)うえに、M2 CS Racingの購入も可能だ。少しでも気になる人はぜひ問い合わせてみて欲しい。きっとあのBMWが大好きな面々が、にこやかに、そして熱くM2 CS Racingの魅力を語ってくれるはずだ。
BMW Team Studie 公式サイト https://teamstudie.jp/
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