Volkswagen GOLF E
ゴルフVの日本でのベーシックは、1.6Lエンジンを搭載するE。
1320kgのボディを引っ張るのに最高出力116psは非力なんて思われがちだが、なかなかどうして。賢い6速オートマチックのおかげもあって、これが結構活発に走る。そのあたりを確かめるべく、Eを弾丸テストに連れ出した。
本流のそのまた核
ゴルフの5代目はまさに歴戦の勇士、長い時間を掛けて改良されてきた熟成感がある。ゴルフは登場初期から世界中のメーカーも含めて、数多くの人々から注目を浴び続けている。高価な投資を許され理想を追求してきたクルマと違って、販価を抑えた量産車としては、けして満足のいく過去ばかりではなかったが、試行錯誤という言葉を日々の糧として立派に育った、というのが衆知の生い立ちだ。
いまではメルセデスを凌ぐ高品質感を身につけ、世界のベンチマークとして君臨している。ゆえにライバルメーカーのチェックも厳しく、先を読まれてしまった例もあるほどで、外観、スタイリングなどに新味はないが、大きな流れの中の本流のそのまた核をなすことは事実だ。
そんなゴルフは、日本市場にGTをはじめいろいろなグレードを用意しているが、今回の旅にひっぱり出したのは、もっともベーシックなゴルフEである。これもベーシックとはいっても必要なものは大概装備(GPSナビゲーションはオプション)されており、1.6Lというエンジン排気量が小さいこと、タイヤサイズが195/65R15とGLiと同じだが、ホイールがスチール製で6Jと細いこと以外は実質的な差はほとんどない。ただし、我が国では高価格車の部類に入る。
そのゴルフEで訪ねたのは、日本海側。お盆の帰省ラッシュ時期ゆえに幹線道路を避けて、R122で足尾経由の日光、R121で会津・喜多方、そして福島。R115で相馬、R113で太平洋から日本海側へと横断、新潟、上越を経由して戻る、という東北の山々など3桁国道主体のコースだ。
シャープな吹け上がり!
ひと月ほど前には、ゴルフGTで伊勢を訪ねているので、違いを探すのは簡単だった。しかしおおよその感触としては大差なく、自分で乗るとしたらこの1.6Eで十分、という感想をもった。
シートは調整機構が簡素化されており、ランバーサポート調整はない。表皮は布製であるが形状はほぼ同じで、ハイトコントロールを一番下まで下げれば、座面に後傾斜角をつけられるのも同じ。強いていえば、背面下部のランバー部の張出しが心持ち少ない。
ということは、上体の重さを腰で受け止める際に、全部が垂直荷重となるのではなく、背面にも分布されるということで疲れは少ない。しかしそのランバー部の受け止め方が少し甘いとなると、腰を傷めることになるのだろうか。これが唯一の小さな気掛かりで、旅の終わりまでには結論を出さなければならない。
動力性能的には、400ccの排気量差はそれなりにあるとはいえ、GTとていまではターボを装備するわけではなく、同じ6速ATという強い味方のサポートもあって、実質的には加速力が劣る印象はほとんどない。かえって2Lよりシャープな吹け上がりが気持ち良く、1速のまま一気に6000rpmまで回してしまいがちだ。実際、クィーンと快音を発して軽々と回る様は、初代ゴルフのSOHCユニットを彷彿とさせるものがあり、これが本当に排ガス対策済のエンジンかと疑いたくなるレベルにある。
一方、通常走行の緩加速ではスロットルをほとんど開けずに待つと、2000rpm以下でも順次シフトアップしていき、60km/hで6速に入れても不平をいわずに走ってしまう(Dのままでもギアポジションの表示があるのは親切)。これならば燃費も相当いい結果を期待できそうだ。
初日は4時起きして早朝に都内を脱出する。東北道は館林でおりて50号バイパスを経由して大間々からR122を北上する。足尾に着いたときはまだ9時だった。
予定していた松木渓谷へは入れなくなっており、鉱都・足尾の迎賓館などで写真を撮らせてもらう。足尾は鉱毒事件などの過去を払拭して、いまでは周囲の山々も緑を回復しており、廃村同然だった渓谷沿いの家々からも生活感が漂うようになった。廃居の庭先からカモシカが出現するような情況もなかった。突き当たりの渡良瀬川源流は一見の価値あり。
日光/今市は有料道路でパス。R121はワンボックスやSUVの数は多かったものの比較的流れていた。通称会津街道は五十里ダム周辺の道路も整備されており、周囲の景観は緑濃く、適度なアップダウンと緩いコーナーが延々と続く。通過する村々ののどかな農村風景を眺めながら、のんびりドライブするには恰好のコースである。田島町あたりの街道筋の食堂で食べたソースカツ丼は、美味で量も多く全部は食べきれないほどだった。
ゴルフEはタイヤサイズとホイールオフセットの関係で、電動PS(パワーステアリング)の感触がGTとは微妙に異なる。ミシュランの省エネルギー・タイヤは、サイドウォールがソフトで停車中にクルマを横に揺するとグラグラするほどだが、乗り心地的には良好で目地段差などのショックには優しく対応する。オフセットの関係で多少ポジ側にくるスクラヴ値も路面フィールをほどよく伝えてくれる。SAT(セルフ・アライニング・トルク)の強さと電動PSのアシスト量の関係が微妙で、路面の荒れ具合によっては操舵反力を感じる時もあり、直進時の微小量の修正舵などは、曖昧な中で許容してしまう太いタイヤ+ゼロスクラヴに比べて繊細な感じがする。いづれにせよしっとりした感触のダンピング機能をもつ油圧PSとは違い、ドライなデジタル感覚をもつ。
喜多方では名物の蔵をバックに撮影ポイントを探す。そしてそろそろ燃料ゲージは半分を指してきたので給油する。前日の都内走行もすべて含めた449.4kmの平均は10.7km/Lだった。全体で見れば登り傾向だった道のりで2桁もてば良好といえるだろう。
喜多方からR459で檜原湖にでて、磐梯吾妻レークライン、スカイラインと有料道路を使って福島に至る。これらの通行料金はかなり高めなせいか利用客はほとんどおらず、この季節なのに観光収入の赤字が心配される。
一方、ゴルフEはコーナーを軽快に駆け抜けた。フロントのロールセンター高を高めた効果はてきめんで、これまではタックインさせると後内輪がリフトし、3輪車になる傾向は代々継承されてきたが、ここにきてもはや対角線ロールが起きることはなくなった。スロットルのオン/オフによる姿勢変化は激減、ノーズは素直に舵角に対応して旋回していく。ステア特性として未だアンダー傾向を示すのは、フロント内輪のタイアが先にスキール音を発することからも分かる。スタビライザーの分担率などの、ファインチューンはこれから進められるはずだ。とりあえずはノーズが逃げにくくなり、後輪の接地性が上がったので、コーナリング中でも安心してブレーキが踏めるようになったことを喜ぶべきだろう。
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