【海外試乗】「フォルクスワーゲンID.3」いよいよ走り始めた期待の新星

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未来に向けて電動化へと大きく舵を切ったフォルクスワーゲン初のBEV、ID.3がいよいよオープンロードを走り始める。今回はデリバリー開始に先立ち、同社のテストコースで初回限定のファースト・エディションを試乗。はたして、その商品力は今後のスタンダードとなり得るのだろうか。

操縦安定性と開放的なキャビンが◎

ドイツにおけるBEVの販売は、アウディe-Tronやメルセデス・ベンツEQCなどの本格的なモデルが登場したにも関わらず低迷。ところが、6月3日から日本の消費税にあたる付加価値税が19%から16%へと減額、同時にBEVのインセンティブ(政府による購入補助金)が6000ユーロ(約80万円)へ増額となり、さらに自動車メーカーも最大3000ユーロ(約40万円)までの値引きを提供することになったのだ。これはさすがに一般カスタマーにも響いたようで、6月のBEV出荷台数は5月に比べて50%近い増加となっている。

ファースト・エディションには、仕様の違いで「ファースト」「ファースト・プラス」「ファースト・マックス」の3モデルを用意。

こうした追い風を受けて、フォルクスワーゲン(以下VW)は7月からデリバリーを開始するID.3の試乗イベントを社内のテストコースで開催した。ファースト・エディションと呼ばれるモデルは「ファースト」「ファースト・プラス」「ファースト・マックス」の3種類があり、価格は順に3万9995ユーロ(約481万円)、4万5995ユーロ(約554万円)、4万9995ユーロ(約602万円)。ドイツではこれに前述のインセンティブと値引き、そして3%の減税が加わるので、最も安価なモデルは約2万6000ユーロ(約320万円)と、ほぼ同じ装備のゴルフVIIIよりも若干安くなる。

ワンモーションのエクステリアデザインは、クリーンかつシンプルで好印象。いま追い風が吹いているBEV普及の起爆剤となるか。

ファースト・エディションは58kWhのバッテリーを搭載。リアアクスルにマウントされた150kW(210ps) 、310Nmを発生する電気モーターで後輪を駆動する。カタログ値でいうと0→100km/h加速は8.5秒、最高速度は160km/h、航続距離は420kmと発表されている。

長さ約4.2m、幅約1.8m、高さ約1.5mのボディは、タイヤを四隅に配置したID.3専用プラットフォームのMEBをベースに構築される。

走行フィールは60km/hくらいまでのキビキビした感じを除いて、BEVというよりも普通の内燃機関搭載車に近い。その理由は、BMW i3のような回生エネルギーを利用したワンペダルドライブが、このID.3では期待できないからだ。たとえ回生力が強いBモードでも強い減速は起こらず、通常のドライビングモードでは、ドライブペダルを離すと抵抗なくどこまでも転がっていく感じだ。

リチウムイオンバッテリーはフロア下にレイアウト。電気モーターはリアアクスル上に配して後輪を駆動する、いわゆるRRとなる。

一方、操縦性は床下に収納されたバッテリーによる低重心の恩恵で、挙動変化の少ない安定したロードホールディングを示す。コーナリングでは一般的な弱アンダーを示すが、RRレイアウトによりトルクステアから解放されたステアリングがすっきりとしたフィールを伝えてくる。気になったのはテスト車が履いていた20インチタイヤで、ゴツゴツ感とロードノイズがキャビンにまで届いてきた。快適性重視のユーザーには賢い選択ではないだろう。また、当初のワークショップで話題になった「人工走行音」は、このファースト・エディションには採用されていなかったが、将来的にはブランディングの一環、すなわちVWのBEVらしさをアピールする手段として考慮されるはずである。

室内は明るく開放的。

好印象を受けたのは明るく広々としたキャビンスペースだ。これにはタイヤを四隅に配して床下に電池を収納する専用プラットフォーム=MEBが大きく貢献しており、後席は身長が2m近いドイツ人がふたり余裕を持って座れるほど。ラゲッジスペース容量も385Lとゴルフより5L大きい。

操作系はおもにダッシュボード中央の左右可動モニターが司る。ややチープシックな質感が残念ではあるが。

残る課題は実走行における航続距離や充電インフラだが、これも「案ずるより産むが易し」かも知れない。なお、現時点で日本向けのプランについての発表はない。

リポート=キムラ・オフィス/Kimura Office ルボラン2020年9月号より転載

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