最近は、衝突被害軽減ブレーキなどのアクティブセーフティ(予防安全)に注目が集まっているが、乗員を守る最後の砦であるパッシブセーフティ(衝突安全)の重要性は変わらない。マツダでは予防、衝突安全ともに「小さなクルマでも妥協しない」という姿勢を掲げ実際の商品開発に取り組んでいて、各国、各地域のNCAPで車格を問わず高い評価を得ている。同社の三次(みよし)試験場にある衝突実験棟で64km/hオフセット衝突を中心に、マツダの衝突性能開発の現場を取材できたので、2回に分けて報告したい。
小さなクルマでも安全性に差をつけない
2011年度以降の新・安全性能総合評価において、全87評価中マツダ車はすべて5スターを獲得し、点数順でも上位16台の中にすべて入っているというマツダ。前述したように、デミオやCX-3など小さなクルマでも、CX-5やCX-8といった大きなクルマと同様の衝突安全性能を確保する目標を掲げ、実際のNCAPなどの評価にも表れている。
マツダに限った話ではないだろうが、衝突安全性能の開発においては、まず法規をクリアし、もっと厳しい条件となるNCAPをクリアするというのが基本的なスタンス。マツダによると、UN法規(国連などによる国際標準化)だけでも8~9割近くはカバーできるそうだが、NCAPはもっと要件が厳しくなり、さらに地域や年によっても条件が変わるため、こうした対応も欠かせないメニューとなっている
リアルワールドでの事故分析を推進
そんな中、マツダの最先端の取り組みとしては、リアルワールドでの事故分析と人間研究で、実際の事故を分析し、コンピュータ上で再現することで、マツダ車が関わる死亡重傷者ゼロを目指すとしている。
たとえば、上の図解は実際の事故を再現したもので、一見正面衝突に見えるものの、斜めに衝突していたことが事故分析から判明したという。乗員は頭蓋骨の骨折を負ったそうだが、斜めにぶつかっているため、サイドエアバッグが開かなかったそうだ。
この事故を分析し、コンピュータ上で再現すると、「ベルト非装着、サイドエアバッグ展開なし」の場合は「頭頂骨骨折」、「ベルト着用、サイドエアバッグ展開なし」のケースでは「蝶形骨骨折」に、「ベルト着用サイドエアバッグ展開あり」では、「頭蓋骨骨折なし」になることが分かったそうだ。
医工連携で人体研究を進める
こうした事故分析に加えて、大学との人間研究も推進している。たとえば、あるシートに多様な体格の人に座ってもらいレントゲン撮影を行い、どういった姿勢で座るのが安楽(楽)姿勢になるのか、さらに衝突時などにサブマリン現象による内臓の損傷などが起こらないようにするなど、個体差までも考慮した拘束装置の開発に取り組んでいるそうで、これは、衝突性能開発部、操安性能開発部、シート(サプライヤー)の3部門で研究、開発を行っているという。
こうした人間研究は一例で、ほかにもダミー人形だけではカバーしきれない多様な体格をフォローするべく、コンピュータを活用したモーフィング技術を確率し、衝突時の人体への影響や損傷なども分析している。
今回は、マツダの衝突性能開発の最先端(一例)をレポートしたが、後編では、実際の衝突性能開発、64km/hオフセット衝突試験の様子などを報告したい。
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