【毎日がスポーツなクルマ】酸いも甘いも噛み分けた、大人に似合うオープンエアスポーツ。「メルセデスAMG SL43」×「ポルシェ911カレラ・カブリオレ」×「モーガン プラス4」

ストイックな走りを追求するのなら、ボディ形状はクローズドの方がいいに決まっている。でも、スポーツカーにプラスαの魅力として、オープンで楽しみたいときもある。ここでは、時にはスポーツカー、時にはゆったりとオープンクルージングを楽しめる、そんな大人なモデルを選んでみた。

AMGが手掛けた新生SLの魅力とは

さわやかに緑のなかを吹き渡る初夏の風を存分に感じながらのドライブ。梅雨に突入する前の日本の初夏は、オープンエアスポーツを味わうには最高の季節だ。しかも富士山を望む富士五湖周辺というおあつらえ向きのシチュエーションで、パフォーマンスだけではなく、伝統に裏付けされるアイデンティティを色濃くもった3台に試乗するという贅沢な時間を過ごすことになった。

フロントにはAMGスポーツシートや首回りを暖めるエアスカーフが標準装備。+2のリアシートは、安全上の観点から身長150cmまでが推奨される。先代の金属製バリオルーフに代わり、3層構造の電動ソフトトップの開閉時間は約15秒で、60km/h以下であれば走行中でも開閉可能。

もっとも新しいのは2022年10月に日本導入となったメルセデスAMG SL43。7代目にして初めて設計・開発・生産をメルセデスAMGが担当することになり、従来のメルセデスブランドよりもハードコア寄りになった印象がある。だが、歴史を紐解けば初代にあたる300SLはレーシングカー由来でハードコアそのものだったのだから、原点回帰だと言ってもいいだろう。F1由来で量産世界初のEEGT(エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャー)も楽しみだ。

ルーフを開け放って湖畔を走り始めると、まずはオープンらしからぬ剛性感に圧倒される。ボディがしっかりしているからサスペンションがスムーズかつ正確に動き、ロールやピッチングが抑えられているのに嫌な硬さがまるでない。 EEGTの威力を試すべく、加速・減速を繰り返してみたところ、なるほどこのレスポンスは凄い。アクセルオフからでも踏み込めば即座に反応して鋭く加速していく。サウンドはそれなりに演出されているものの、あくまで直4であり官能的というほどではない。むしろ効率とドライバビリティを究極まで高めたビジネスライクなものだが、それもまたレース屋のAMGユニットらしいといえる。

ハイライトはシャープなハンドリングだ。ステアリングを切り込んでいくとタイトコーナーでもグイグイと曲がり込んでいく。メルセデスブランドだったらここまで追い込めなかったのではないかと思うほどレーシーで、気持ち良く初夏の風を感じるなんてことを忘れてスポーツドライビングに没頭してしまった。

911は一級のスポーツカー、モーガンはアガリの1台!?

初代911をモチーフとした水平基調のインテリアデザインを採用。シートは2+2で、ルーフにはガラス製リアウインドーを備えた自動展開式のファブリック製コンバーチブルトップが装備。開閉に要する時間は約12秒で、速度が50km/h以下であれば走行中でも開閉可能。

ポルシェ911は言わずと知れたスポーツカーの雄であり、現行モデルにも幾度となく試乗しているのでだいたいの想像はついていたが、SLから乗り換えるとこちらのほうがラグジャリーな乗り味に感じられた。低速域での乗り心地が想像以上にソフトタッチでゴツゴツ感がまるでない。普通に流しているだけならエンジンの音・振動も低く抑えられていて高級車然としているのだ。だからといってセレブの買い物グルマになりさがったかと言えば、決してそうではない。エントリーモデルのカレラとはいえ、ひとたびアクセルを踏む右足に力を込めればフラット6ターボは嬉々として回り始める。3000rpm前後でもキレ味の鋭さを感じるが、もう少し踏み込んで4000〜5000rpmあたりを使うと緻密な回り方に気分が良くなり、いざ全開にして6000rpmからトップエンドを使えば極めて官能的で酔いしれてしまう。回転域によってそれぞれの興奮度の表現が違っていて、それを楽しめるのもまたいい。

PDKの賢さもあいかわらずで世界一ドライバーの気持ちを汲んでくれる2ペダルだと断言できる。 カブリオレではあるものの、単体で乗っている限りはクーペとの差がわからないくらいに剛性感はたっぷりとある。路面の荒れたワインディングロードで鞭を入れて走らせてもボディはみしりとも言わず、濃厚な接地感を味わわせながらコーナーをひた走っていく。本来はコーナリングが苦手のはずのRRながらノーズの動きは軽快でピピッと俊敏にインに向いていく。立ち上がりでアクセルを踏み込めばドカンっとリアに荷重が載って圧倒的なトラクション性能を見せつけるのは911ならではだ。それでもスパルタン過ぎず、常に上品さがあって大人っぽい乗り味なのは、カレラ・カブリオレの美点でもあるだろう。

従来のアルミ製ラダーフレームからアルミ接着式CXプラットフォームへの変更に伴い、衝突安全性が向上しABSも装着された。内装の仕立てはモダンで2人乗りだがリアに若干の荷物スペースも用意。折り畳み式の幌はフックを外してワンモーションで行なえるがもちろん手動(笑)。

最後に味わったのはドイツ車の2台とは趣の違うモーガン・プラス4。見た目はモーガンらしいクラシックなスタイルだが2019年登場のプラスシックスからCXジェネレーションと呼ばれる新世代のものに刷新。パワートレインはBMW製2l直4ターボにZF製8AT(6速MTも選択可能)の組み合わせで現代的だ。軽量なプラス4にとって、低回転からトルキーなBMWエンジンは余裕がたっぷり。1000rpm台で交通の流れをリードすることさえできる。

この3台は伝統に裏付けされたアイデンティティを色濃く持つ

正直に言えば、その領域で走らせるのは退屈だ。そこでシフトレバーを左側に倒してDレンジからSレンジへと切り替え、さらにシフトレバー奥のスポーツプラスのスイッチを押すと高回転を保つようになって楽しめるようになってくる。 SLや911に比べるとステアリングギア比がスローなため、乗り始めはノーズの動きも俊敏には感じられなかったが、身体に馴染んでくると動きが素直で一体感が出てきた。従来のシャシーに比べると格段に進化しているが、ストロークはそれほど豊かではなく、路面の凹凸が大きいと跳ね気味にはなる。しかも着座位置が後輪に近いから身体で直にそれを感じることになるのだが、それもまた全身でスポーツドライビングをしているようで楽しくなってくる。ドライバーのスキル次第で得られる楽しさがかわっていくのも特徴で、豪快にアクセルを踏み込んでいけば興奮度も高まるのだが、風を感じたり景色を楽しもうという心持ちになると、クルマもそれに寄り添って牧歌的な表情にかわってくるのが面白い。

“大人に似合う”と銘打った企画趣旨から言えば、SLは想像以上にストイックで大人っぽさは薄く、911は持ち前のスイートスポットの広さで一級のスポーツカーありながら大人っぽさも持ち合わせる。プラス4は鞭を入れればプリミティブなドライビングを味わえるが、ゆっくりと走らせたときの、心が豊かになる感覚が大人そのもの。人生あがりの一台などに相応しいモデルなのだった。

【Specification】メルセデスAMG SL43
■車両本体価格(税込)=17,000,000円
■全長×全幅×全高=4700×1915×1370mm
■ホイールベース=2700mm
■車両重量=1780kg
■排気量=直4DOHC16V+ターボ/1991cc
■最高出力=381ps(280kw)/6750rpm
■最大トルク=480Nm(48.9㎏-m)/3250-5000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション(F:R)=マルチリンク:5リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=265/40 R20:295/35R20
■車両本体価格(税込)=17,000,000円

【Specification】ポルシェ911カレラ・カブリオレ
■全長×全幅×全高=4520×1850×1300mm
■ホイールベース=245mm
■車両重量=1650kg
■排気量=水平対向6DOHC24V+ツインターボ/2981㏄
■最高出力=385ps(283kw)/6500rpm
■最大トルク=450Nm(45.9㎏-m)/1950-5000rpm
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション(F:R)=マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=235/40 ZR19:295/35 ZR20
■車両本体価格(税込)=17,280,000円

【Specification】モーガン プラス4
■全長×全幅×全高=3830×1650×125mm
■ホイールベース=2520mm
■車両重量=1013kg
■排気量=直4DOHC16V+ターボ/1998㏄
■最高出力=258ps(190kw)/4400rpm
■最大トルク=400Nm(40.8㎏-m)/1000-4300rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=205/60R15:205/60R15
■車両本体価格(税込)=13,970,000円

フォト=郡 大二郎 ルボラン2023年7月号より転載

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石井 昌道
AUTHOR
2023/06/07 17:30

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