諸刃の剣となった圧倒的な強さ
メルセデス・ベンツ300SLRのフジミ/ドイツレベルによる1/24スケール・プラモデルについて、主に作例についてはすでに前編の記事で述べた(下の「関連記事」参照のこと)。ここでは引き続き、その実車について述べていこう。
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300SLR、というその名から、あの名車300SLを思い出される方は多いだろう。末尾に「R」が付くのだからそのレース仕様モデル、ということになるが、実際には両車に直接の繋がりはないことをご存じの方も、クルマ好きであれば少なくないはずである。とは言っても、チューブラーフレームや、大きく傾けて搭載されたエンジンといった特徴は、共通してはいる。
300SLRの直接の前身、あるいは原形と言えるのは、1954年にデビューし翌年に欠けて活躍したF1マシーンのW196である。基本的には、これに二人乗りのスポーツカー・ボディを被せたものと考えてよい。寸法的な変化はあるものの、基本の骨格となるのが前述の通りマルチチューブラーフレーム(鋼管を組み合わせたもの)である点は変わりなく、エンジンも同様にM196である。ただし、排気量は2.5Lから3L(2979cc)に拡大されていた。
M196は4気筒エンジンをふたつ繋げた形の直列8気筒DOHC。エンジンブロックはSLR用ではアルミ合金を新採用している。これにボッシュ製インジェクション・システムを装着し、最高出力は300ps以上を発揮した。このエンジンを右側に大きく傾けて搭載しているが、これはW196や300SLとも共通のレイアウトだ(ただしそれぞれ角度は異なり、300SLでは傾きの方向が逆)。これはもちろんノーズを低く抑えること、つまり空気抵抗の低下や低重心化が目的である。
エンジンが傾いているためトランスミッションとプロペラシャフトは左寄りにレイアウトされ、これによって伝達されたパワーで後輪を駆動する。ブレーキは前後ともインボード式で、冷却フィンが切られた大型のドラムブレーキを使用。サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアがスイングアクスルであるが、それぞれコイルスプリングではなくトーションバーが組み合わされている。
ボディはマグネシウム合金製で、オープンタイプとクーペのふたつがあり、前者はW196のストリームライン仕様(当初オープンホイールでないボディが採用されていた)に似た形状であるが、これにグリーンハウスを乗せたクーペになると、300SLとの類似が際立ってくる。クーペではガルウィングドアが採用されたが、その理由は300SL同様に、フレームの構造上、ドア開口部面積が充分確保できないためであった。9台が生産され、そのうち2台がクーペである。
今も722号車が伝説である理由とその証
こうして登場した300SLR(このネーミングは先に登場していた300SLのイメージ向上を狙ったもの)であるが、テストの結果は目覚ましく、メルセデスの技術陣はその活躍を確信したという。レースデビューは1955年4月のミッレ・ミリアとなったが、スターリング・モス/デニス・ジェンキンソン組の722号車(このゼッケンは出走時刻を表す)は堂々と優勝。300SLRの名はこの勝利で伝説になったと言ってよい。
ミッレ・ミリアは1600km(Mille Miglia=1000マイル)を走破する過酷なレース。当然ながら、地形を知悉したイタリア出身のドライバーが優勝することが多かったのだが、モスとジェンキンソンはともにイギリス人。そうしたハンデなど存在しないかのように、モスは2位に入ったファンジオのSLRより30分以上速い10時間7分48秒で、1600kmを駆け抜けたのである。この最速記録は、1957年にミッレ・ミリアが中止となるまで破られることがなかった。
このほか、同年のアイフェル・レンネンやツーリスト・トロフィー、タルガ・フローリオなどのレースに出場、全てで優勝を果たしているが、唯一それが叶わなかったばかりか、レース史に残る大惨事を引き起こしてしまったのが、1955年のル・マン24時間である。出場した3台のうちの1台、ピエール・ルベーのSLRが周回遅れの車両と接触して観客席に突っ込み、ルベーを含む84名が死亡したのである。以後、メルセデスはレースから数十年の間身を退くこととなった。
前編で述べた通り、この300SLRはドイツレベルの手によって1/24スケール・プラモデルとなっている。発売は1990年代のことで、オープンボディだけでなくクーペもキット化された。このクーペは、設計者であるルドルフ・ウーレンハウトが愛車としていた”ウーレンハウト・クーペ”を再現したもの。一方、オープンボディの方は当初よりミッレ・ミリア仕様として製品化され、フジミやモノグラムといった他のメーカーやブランドからのリリースの際も、全て722号車としてのパッケージングであった。
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