イタリア語で”サラブレッド”というネーミングどおり、まさに血統書付きのブランニューモデルとして、そのパフォーマンスに俄然注目が集まっている「フェラーリ・プロサングエ」。フェラーリ75年の歴史の中で初となる4ドア4シーターの4WDモデルを、ついに公道へ解き放つ時がやって来た!
SUVとは呼んでくれるな
フェラーリの歴史の中で、ブランドのエレガンスを示す存在として継続の歴史を重ねてきた2+2モデル。FF〜GTC4ルッソの後を継ぐかたちとなるプロサングエは、フェラーリのプロダクションカーとしては初となる4ドアボディのフル4シーターパッケージを持つ4WDカーとして登場した。
と、ここで注目されるのは、プロサングエはSUVではなく純然たるスポーツカーだというフェラーリの主張だ。その佇まいから推するに、競合スポーツ系ブランドのSUVと同列に比較したくなるが、それらとは一線を画する孤高の存在ということになる。
その裏付けとなるのはサイズやタイヤ配置だ。想定されるライバルに比べれば、端的に全長は短くホイールベースは長い。そして全高は著しく低い。そのボディの四隅にタイヤを置くことで他にない特異なプロポーションを生み出しながら、トランスミッションを後軸側に置くことで前後に長い12気筒エンジンを車軸間の内側に収めることに成功している。
さらに4つの座席を均等に配置した上で、472Lのフラットな荷室を確保するなど、実用性の面でも実質的な前型にあたるGTC4ルッソに対して進化の跡は明らかだ。
実際、後席は79度の開閉角度を持つシングルヒンジの電動開閉式観音ドアのおかげでアクセスは楽、そして座ってみるとしっかりシアターポジションを採りながら、天井や肩周り、膝周りにも余裕が感じられる。荷室容量は大きいわけではないが、搭載するメカニズムを鑑みると、よくこれほどのスペースユーティリティを実現したものだと思う。
【写真14枚】V12を携えて現れたプロサングエは新種の、しかし真正のフェラーリだと断言できる。
操作系やインフォテインメント回りにタッチパネルが多用されるあたりはローマやSF90ストラダーレからの流れだが、プロサングエは多様な環境での走行を念頭に、頻用する空調回りを独立した操作系としてセンターコンソールに配している。風量や温度調整は手袋の着装時も使えるメカニカルなロータリーコマンダーとするなど、扱いやすさにも配慮された。
また、内装材には再生ポリエステル材を68%の比率で用いたアルカンターラトリムや再生ポリアミド材のカーペットなどリサイクルマテリアルも用意されており、サスティナブルな仕立ても選択が可能だ。加えてオーディオシステムはブルメスターの3Dサラウンドシステムを採用するなど、快適装備もハイエンド系のライバルと同等水準に高められている。
プロサングエが搭載するエンジンは21世紀のフェラーリを代表するF140系12気筒、型式はF140IA型となる。メカニカル面では吸排気システムの完全刷新に加えて、潤滑経路、加工仕上げ工程の見直しなどムービングパーツの摺動抵抗低減を図ることで全体効率を向上。ユーティリティを意識して2,100rpmで最大トルクの80%を発揮するマネジメントながら、725psの最高出力は7,750rpmで発するなど、フル4シーターの4ドアをしてその異端なスペックはフェラーリ以外の何物でもない。
走らせてみればすべてに納得
始動時のサウンドはいかにも12気筒フェラーリの荘厳さを感じさせるも、直後から音量は絞られる。走り始めると、ともあれ印象的なのはその上質感だ。2,000rpm以下でも充分にこと足りるほどトルクは豊かで、かつその回転フィールも滑らか。その域を使って走っての静粛性はとてもフェラーリのそれとは思えない。12気筒ならではの物量を思い切りエレガンスの側に振り向けて、タウンライドや高速巡航はさながら高級サルーンのように振る舞う。
その乗り心地の側を担う足回りで鍵となるのは「FAST」と名付けられた独創的なコイル式のアクティブサスだ。そのキーとなるのが英マルチマティック社が開発したTASVダンパーとなる。これは48Vの電動モーターによってダンパーロッドを回しながらネジ式に伸縮させる一方、ふたつのスプールバルブによって圧縮と伸縮を調整することで車高や車両姿勢と減衰の双方をメカニカルにコントロールするもので、それをフェラーリ独自の車両統合制御技術であるSSC8.0と組み合わせ、あらゆる走りの要求に対してもシームレスな応答を実現している。
ドライブモードの設定やアクセルの踏み込み如何でドライバーの意を察したプロサングエは、打って変わってエモーショナルな表情を窺わせる。0↓100kg/h加速3.3秒、最高速310kg/hとパフォーマンスは超一線級ながら、速さの質は恐怖よりも快楽の方が勝るあたりは自然吸気12気筒のなせるところだ。トランスアクスルレイアウトとなる8速DCTは変速レスポンスを向上させながらも滑らかに繋がり、メカショックの類はしっかり抑えられる。
件のFASTは高負荷域でも軽くはないだろうバネ下まわりを持て余すことなく、しっかりと路面に駆動力を伝えてくれる。その上で、700psオーバーを伝えるそのコンタクト感にガチガチの硬さはみられない。23インチの大径タイヤをして、棘のない足捌きでみっちりと路面を捉えていく、ちょっと異様なフットワークだ。
プロサングエには4WDに加えてEデフや4WSなど旋回をアシストする様々なデバイスも搭載されているが、そのいずれかが出しゃばることはまったくない。絶妙な統合制御はFASTにも紐付いていて、四肢を上手に動かしながら、ダイアゴナルな旋回姿勢でドライバーにクルマの動きをリアルに伝えてくる。接地感や操縦実感は充分にありながら上屋の動きは丸くしなやかで、この巨体をして曲がることがまるで苦にならないどころか気持ちよくもある。もちろん、その快感をさらに増幅するのは件のF140IAユニットだ。
この珠玉のエンジンの甘美さを、可能な限り多くの時間、多くの場面で味わい尽くすためのパッケージとパフォーマンスとが見事に融合したプロサングエは新種の、しかし真正のフェラーリだ。そう断言できる仕上がりだった。
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