2022年8月11日から21日の11日間、ジャカルタ近郊のBSDシティにある国際展示場でGIIAS 2022(ガイキンド・インドネシア・インターナショナル・オートショー2022)が開催されました。テーマは「The Future Is Bright」(未来は明るい)です。
新型コロナウイルスの影響で2020年は二度の延期を経て中止、2021年は事前にアプリにのみのチケット販売、時間帯別入場規制などの対策を行った上で開催、今年もワクチン接種及び入退場の記録確認アプリのインストールを義務づける対策を行ない開催されました。2019年までの状況に戻るにはまだまだ時間がかかりそうです。
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会場入り口までの手続きや雰囲気はコロナ禍を強く意識させるものでしたが、会場に入ってみれば皆マスクをしている以外は3年前と変わらない盛況ぶりでした。四輪車25、カロセリ(コーチビルダー)3、二輪車15ブランドの出展があり、会期中の来場者数は38万5487人だったと発表されています。39の新型車(内16のEV)が発表され、のべ1万人以上がEVを体験試乗したとのこと。本編では中韓メーカーの動向を少々詳しめに紹介します。
過去最高の出展社数となった中国メーカー
GMがインドネシアでの生産販売から撤退し「あとは任せた」と託され2017年に進出した上海通用五菱(ウーリン)、同時期に参入した東風系のDFSK、昨年参入したMGの三社に加えて奇瑞(チェリー)が再参入を表明し、計4社と史上最高の出展でした。
全社EVも展開を明言していますし、展示もしていましたが、商用EVバンをひっそりと売っているDFSKと量産が始まったAir ev(右ハンドル版宏光ミニEV。とはいうもののかなり豪華な別物)以外は導入目標を表明するのみ。年産15万台規模の大工場を建設したウーリンを筆頭に現地生産ですが、MGだけはタイからの完成車輸入です。
- ●ウーリン
- 発表した“Air ev”以外は“アルマズ”、“コンフェロ”、“コルテス”と2017年の参入時からの市販モデルでした。
世間の耳目を集めた“Air ev”の価格が2億3800万ルピア(17.3kWh電池搭載のスタンダード)~2億9500万ルピア(26.7kWh電池搭載のロングレンジ)と発表されると、吹き出しが見えるほどの落胆の声が漏れました。(当日のレートでの邦貨換算238万円~295万円)
政府目標と期待値が1億5000万ルピア(同 150万円)だったためです。同時に、他社からは安堵の声が聞こえました。発表された価格は、“エクスパンダー”、“エルティガ”、“アファンサ/フェロス”の中心価格帯よりも高いからです。
ちなみに電池は8年12万キロの保証が付けられています。電池パックを沈めた水槽も展示し、「水に浸かっても大丈夫」ともアピールしていました。洪水が頻繁に発生するこの国ならではのプレゼンです。でもねぇ、それ以外の問題が……。
MPV“コルテス”、“コンフェロ”とSUV“アルマズ”はけっこう売れているようで街中でもかなり目にするようになりました。
特に“アルマズ”は中国勢の中ではデザインが最もカッコいいことと、インドネシア語を話すインフォテインメントがウケているようです(すぐ飽きるとも聞きましたが)。 - ●DFSK
- 東風グループのDFSKがインドネシア市場に参入したのはウーリンと同時期でしたが、こちらは鳴かず飛ばずの低空飛行を続けています。
SUV“グローリー”に7年保証という中国製品への信頼感のなさを逆手に取った戦略もユーザーには全く響かなかったようです。自棄になってか“グロラE”というEVバンを売ろうとしていますが、これもほぼダメ。
今回JakLingkoという街の乗合自動車と提携してEV乗合バンを試験運行すると大きな発表がありましたが、まず1台だけというので、結果は推して知るべしという感じがします。
もう一つは“MINI EV”です。同胞のウーリンがぶち上げたコンセプト丸パクリのクルマなので誰にも響かず。しかも左ハンドルのままの展示車の上に発売予定もないので興味を持つ要素がどこにもありません。鳴かず飛ばずのまま消えると思われています。
- ●MG
- 昨年春のモーターショーで市場参入を発表しました。世界初且つ世界唯一のステーションワゴン型EVを謳う“MG5”を前面に出し、EVのイメージで売りたいようですが、まだ導入予定がありません。
“EVOLUTION FORWARD”のEVを強調してEVっぽいイメージを打ち出していますが、それを背に発表されたダブルキャブピックアップ“エクステンダー”は1.5Lターボエンジンを搭載する完全内燃機関車です。
車名も展示手法もあのクルマを思わせる上にダブルキャブピックアップというインドネシアの一般ユーザーから最も遠いところにいるクルマを大々的に発表して失笑を買っていました。タイやないねんから。MGは当面タイ生産のタイ市場重視なので仕方ないのかもしれませんけれど。
ちょっとアジアのクルマ事情をかじった人の中にも、「インドネシアもピックアップからモータリゼーションが進んだ」と思い込んでいる人がいますが、全然違います。
ちなみに、クルマやバイクの好みもタイとインドネシアでは全然違うので、アセアンで一括りにすると必ず失敗します。「タイで成功したからインドネシアでも売れるはず」と、自信満々に市場投入したけど大失敗した例をいくつも見てきました。
MGは要所要所でイギリスのヘリテージをかなり引っ張り出しているにも関わらず中国ブランドにしか思われていません。デザインもいかにも中国、いかにも上海汽車然としているのが致命的。しかもプレゼンに中国人丸出しの人物が堂々と登壇しては……。
「MGは中国ブランドだから」という声をブース前でも聞きました。プレゼンでも中国本社の中国人が全面に出ていることもかなり影響しているとは事情通の弁。ディーラー網は元GM(シボレー)のディーラーをMGに転換しながら細々と進めています。
- ●チェリー
- “ティッゴ7”SUVで再参入を表明しました。流行りのMINI EVも“奇瑞新能源eQ I”を置いてはありましたが、特に何を発表するわけでもなくただ置いてあるだけでした。もちろん販売は未定です。
かなり昔、“奇瑞QQ”をひっさげ鳴り物入りで市場参入を表明したものの、年産5万台の計画に対して初年度50台しか売れなかったためさっさと撤退したことがあります。
そのことをこの国の人たちは忘れていないので最も信用度が低い中国ブランドです。同様のブランドにジーリーがありますが、そちらは再参入の気配を見せていません。
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韓国メーカーもEV推し
- EVを全面に押し出しているのは中国勢と同じ。エンジン車ではどうやっても日本車に勝てないと悟り、ガラリと戦略転換をした点においても中韓勢は同じ戦略です。
- ●ヒュンダイ
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電池から一貫生産する“IONIC5”がデビュー。「モバイルチャージング」と称するロードサービスが用意されており、万が一電欠してしまった場合は電池を積んだ“KONA ELECTRIC”が駆けつけ充電してくれるシステムです。普通充電なので当然時間はかかりますが、とりあえず動けるようになるのは安心材料でしょう。価格は7億4800万~8億5900万ルピア(当日のレートで邦貨換算748万円~859万円)。搭載電池容量大小とトリムレベルの違いで計4タイプ。また、同時に発表した内燃機関車スターゲイザーがかなりの人気でした。
単に物珍しさで集まるのではなく、かなり本気で品定めしているようでした。競合するエクスパンダーと価格がほぼ同じなので、価格が人気の理由ではなさそう。トータルでもヒュンダイブースはかなりの人だかりで、商談コーナーも盛況でした。
既に街中でも何台か見ましたので、出足は好調のようです。SUVは“パリセイド”がカッコいいと人気でした。
- ●キア
- “EV6 GT-line”、“Niro EV”、“ソレントHEV”を参考出品し、「全部本気」的な展示でした。EV系は現地のユーチューバーもかなり時間を割いて撮影していました。
内燃機関車では新型SUV“カレンス”をプレミア。4列シートの大型ミニバン“グラン・カーニファル”がカッコいいと評判。このクルマやヒュンダイ“パリセイド“のようなデザインがこちらの人たちは好きなんです。
その他コンパクトSUVは特に興味を惹かない感じでした。キアは韓国からの輸入のため価格面では不利(関税が高いため)な感は否めません。
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総括
せっかく現地にいたので、日系メーカーの駐在員、現地ジャーナリスト、クルマ好き、一般来場者の立ち話盗み聞きしたことをまとめました。
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① 中国車
・ウーリンはSUVのアルマズ、MPVのコルテス、コンフェロ共に売れているが、この2車型3車種しかなく、一度は買ったユーザーに代替え車の選択肢がない。このため、代替えではより高い中古の日本車に向かうユーザーが多い。下から上にステップアップさせていく、ウーリン内の別車種に誘導するなど、ブランド移行させないためには車種揃えが必要だが、残念ながら日本車の売れ筋と隙間を狙っただけの都合の良いラインナップのため期待できない。
・車種揃えの点では韓国勢に一日の長があるので、需要が一巡したら日韓の谷間に落ちて消える可能性も高いと思う。② 韓国車
・特にヒュンダイはデザインがカッコよくインドネシア人好み。
・ヒュンダイは現地生産だがKIAは輸入車なので関税が高いため価格競争力の点で不利。
・電池からIONIQ5までの現地生産工場を立ち上げるが、輸出も含めて実はそんなに売れるとは思っておらず、ヒュンダイに注目させてエンジン車を売るためのアドバルーンあるいは広告宣伝代わりの投資と考えているという説もある。
・元トヨタアストラモーター日本人副社長がヒュンダイのコンサルタントを務めているのが嫌な感じ。
・ヒュンダイはインドネシア政府関係者を絡め巻き込むのがうまい。金銭供与ジャブ漬け一辺倒の中国とは違った戦略を取っており、したたかさでは上。ウーリンAir evのラインオフには臨席しなかったジョコウィ大統領がIONIQ5のラインオフには臨席していたこともその現われ。
・投入している広告宣伝費が桁違い(二桁も違う)。シェアほぼ独占の韓国内で得た利益を集中的に投入できる韓国勢はその点でも優位。
・中韓どちらかと言えば断然韓国勢。エクスパンダーの地位は盤石だと思うが、スターゲイザーの評判は驚異。③ 日本車
・中韓勢に機能で負けている。昨年発売のアファンサ/セニアでやっと追いついたという感じ。でも先には行っていない。
・デザインで負けている。カローラ・クロスはデザインがダサすぎる。
・日本メーカーは所帯が大きいので動きが鈍いのは仕方がないか。このような感じでした。
ウーリンが2021年度販売ランキングで8位(2.8%)に躍り出るなど勢いがありますが、中国勢は今後の車種揃えによっては勢いが落ちる可能性はありそうです。
その前に、中国メーカー中国人丸出しにするのはやめた方がいい。対中感情(国としてのではなくインドネシアに長年住んでいる人たちへの)がいまだよろしくない人たちが多いため、今回のMGやCheryのようにあからさまに中国臭を出されると、表情は歓迎しているように見えても心の中では・・・なので。
2021年度は“その他”の中にいたヒュンダイが2022年1月~7月では10位に現われたため勢いがあります。IONIC5やスターゲイザーの熱気を見る限り中国勢だけでなく日本勢のシェアも食うポテンシャルがあると思います。
まずは、一時販売シェア98%を誇った日本車のシェアがいつ90%割れになるのかが気になるところです。ところでヒュンダイですが、あのアルファベットではヒョンデとは読めません。
ヒョンデとは読めないHYUNDAI表記を強引にヒョンデと読ませるのは韓国と日本だけで、それ以外の国ではヒュンダイあるいはがんばって発音しようとするけどヒュが難しくフンダイになっちゃう発音が一般的。従ってこの記事でもヒュンダイで統一しています。
同様に一部を除いて車名を現地の発音に合わせたカタカナ表記にしています。 -
(取材・写真・文:大田中秀一)
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