農民の足が華麗なステップを踏むまで
EVとして復活するのではないか、という噂も最近囁かれているシトロエン2CV。イギリスのミニ、ドイツのビートル、イタリアのフィアット500などと並ぶ、20世紀を代表する傑作大衆車である。その登場は1948年、パリサロンでのこと。2CVの開発は戦前に始められ、ナチス・ドイツによる占領期間には、試作車を工場の壁に塗り込めるなどして大事に温められてきた商品企画だった。しかし、ブリキ細工のような姿は1948年当時の人たちの目にも奇妙なものに映ったらしく、会場で困惑するフランス大統領の風刺画も残されている。
2CVの姿は、開発テーマ「こうもり傘に車輪をつけたもの」を明確に具現化したものである。この言葉が示す通り、2CV最大の命題は、最低限の実用性と快適性を確保することであった。企画のそもそもは、当時のシトロエン社長ピエール・ブーランジェが、手押し車などで作業する農民の姿を目の当たりにし、農村で重宝される小型大衆車の必要性を痛感したことから始まったという。
レイアウトはドライブトレイン簡略化の意味からもFFを採用、これはトラクシオン・アバンでの経験があることも大きかった。エンジンは空冷の水平対向2気筒、375cc。サスペンションは前リーディングアーム/後トレーリングアームだが、シャシーフレーム中央の左右にコイルスプリングを内蔵した筒が取り付けられ、前後のサスアームはここに接続されている。これによって前後輪の動きが関連付けられており、フラットな車両姿勢を維持しやすくなるという仕組みだ。
ボディはキャンバストップが標準で、これはエンジン騒音を室外へ逃がす意味もあったという。室内も簡素そのもので、パイプフレームに布を張り渡したシートを装備、このシートは取り外して車外で使用することも可能であった。こうして生まれたシトロエン2CVは、前述のように独特のスタイルを揶揄されることも多かったが、コンセプト通り農民の足として行きわたり、充分以上の成功を収めたことは、すでに歴史が証明している通りである。
2CVの生産は1990年まで続き、その歴史は40年以上にも及ぶので、細部の変更について述べるとかなり長い文章になってしまう。大きな変更について述べると、例えばフロントグリルが小型化されたのは1961年のこと。リアピラー(クウォーターパネル)にウィンドウがついて6ライトとなったのは1964年。エンジンは初期の375㏄から425㏄、最終的に602㏄まで拡大されている。
40年の長きに亘れば、クルマの性格や受容のされ方も変わってくるものだ。1970年代も後半になると、シトロエン2CVはミニマムトランスポーターと言うより、クラシカルな味わいやファニーさが愛されるようになってきた。シトロエン側もこうした変化は敏感にキャッチし、専用のカラーリングを施した限定車を連発し始める。現在2CVというと多くの人がイメージするであろう、マルーンとブラックのツートンが特徴の「チャールストン」もこうした限定車のひとつで、その人気の高さからすぐさまカタログモデルに昇格した。さて、ここでお見せしているシトロエン2CVチャールストンは、ドイツレベル製の1/24スケール・プラモデルを制作したものだ。2CVのキットには、代表的なものでもわが国のイマイやタミヤ、フランスのエレールのものなどがあるが、このドイツレベル製2CVは2011年に新規金型による製品として発売されたものである。最後発に相応しい、絶妙なプロポーションと高い再現性を持った傑作キットであるので、以下、その制作工程を見ながらご紹介していこう。
隅々まで行き届いた設計の好キット
キットではエンジン本体とそれを包み込む強制空冷系がしっかり再現されている。ホイールハウスの穴からエアダクトの先が突き出しているのに注目! 空冷ファンのカバーは透明パーツで、金網はデカール表現。リアサスはパーツ1個だけで、縦置きのショックユニットはシャシーにモールド。プラの弾力で僅かだが上下動可能だ。室内はシートフレームやシートベルト、特徴的なシフトレバーなども再現されている。なお、ステアリングホイールは直進状態ではスポークが左斜めに向くのが正しいのだが、作例は真っ直ぐに取り付けてしまっているので、これから作る方はご注意を。ドア内側パーツにモールドされたシートベルトは、フチの裏側を少し斜めに削って尖らせて厚みを目立たなくすると良い。パーツに若干反りが見られるので、フロアやドア内側はしっかりと押さえて接着する。
ホイールは中央部のモールドがあるのでキャップレスでも作れる。貼り合わせ式なので、表裏のスタッドボルトの位置に気をつけて接着。タイヤは片側のみだが内径の円が大きくズレていたので、出っぱっている部分をニッパーで切り取って使った。この個体のみの成型不良だと良いが……。エンジンルームの電装コードは全てプラパーツで再現されており、充分な細さでモールドされている。完成したインテリア&シャシーはボディを被せても干渉する箇所は皆無、車高・トレッドともにまったく調整の必要無し。
フロント開口部左右フチは少々高く、フードがあたってしまって隙間が出来るので、フード裏とのアタリを見ながら1mmほど削って低くした。ボディはMr.カラーC100マルーンで塗装、黒い部分はガイアカラー032アルティメイトブラックで塗り分け。ドアの黒部分にはデカールが用意されている。
最後に、作例を制作した北澤氏のひと言。「実は作例の制作にあたり、スケジュールの関係でほとんど仮組みをせず、説明書に従ってブッツケでどんどん組んでしまったのだが、不具合は1カ所も出なかった。モールドのスミズミから自動車と模型への愛がひしひしと伝わってくる良キットだ」
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