初代の登場以来、ポルシェ躍進の立役者となったカイエンも現行モデルですでに3代目。いまやスポーツカーブランドがSUVを手がけること自体、珍しくなくなったが、その威光は衰えるどころか従来にも増して強固になっているようにも見える。では、その正味の実力は? クーペ版やライバルとの比較を通じてそれを明らかにする。
カイエンの味付けはボディタイプでどう違う?
ポルシェにおけるベストセラーの座こそ弟分のマカンに譲っているが、依然そのラインナップでは主力として安定した支持を集めているカイエン。2018年にデビューした現行型は3代目だが、2019年には新たなボディバリエーションとしてクーペを追加。現在のグレードはそれぞれ6つずつと、選択肢も豊富になった。その構成は、従来からのSUVボディとクーペでまったく同じ。グレードごとに用意されるパワートレインの中で、どちらかでなければ選べないものは存在しない。となれば、気になるのは両ボディの具体的な違いだろう。そこで今回のライバル対決では、まずカイエン同士の比較から始めてみることにしよう。
まずは最大の違いとなる見ためだが、初代からポルシェに見えることを主眼に作られてきただけに、ベースボディでも“それらしさ”は十二分だ。SUVとしては小振りに見えるグラスエリアと豊満さとワイド感を強調するフェンダー、そしてシャープなフロント回りの造形という組み合わせは、いまやスポーツカーブランド作のSUVが珍しくない状況でも決して埋没しない存在感を放つ。
そんなベースボディと比較すると、ショルダー部分から上が一層コンパクトでワイド感が強調されるクーペは、2ドアのポルシェに通じるスポーツテイストが実感できる出来映え。だが、それは両者を直接見比べて初めて認識できる類のもの。なまじベースボディがスポーティなだけに、例えば今回の取材に同行したX5Mとそれのクーペ版であるX6Mほどの違いが見出せるかというと個人的には多少の疑問も残る。
そうした印象は、室内においても変わらない。クーペはルーフを低くしたことに対応して前後席のヒップポイントがベースボディより下がり、荷室容量が若干控えめになるといった違いは確かにある。だが全長が5m近いSUVだけに、クーペの室内や荷室が明確に狭くなったという印象はない。後席に座ると多少フロアの位置が近くなったとは感じるが、それとて明確なデメリットというわけではなく居心地は上々。つまり、クーペでもSUVとしての実用性には何ら問題がないわけだ。
では、走りのパフォーマンスはどうか?
今回の試乗グレードはクーペがターボ、ベースボディはターボS Eハイブリッドということで残念ながら厳密な比較が難しい状況だった。アウトプットは後者が130psと130Nmも上回る一方、車重は300kg近く重い。また、どちらもリアアクスルステアリングは装備していたが、クーペは軽量なカーボンルーフを含むライトウェイト・スポーツパッケージやPDCC(ポルシェ・ダイナミックシャシーコントロール)を装着。ドライブフィールを高める“チューニング”が施された仕様でもあった。
だが、そうした違いを差し引いても、今回の2台ではクーペの方が走りの洗練度が高いという結論になる。特に路面からの入力の伝わり方はクーペの方が正確。かつ、そのいなし方もスッキリしていて持ち前のスポーツ性と快適性が高い次元で両立されている。それと比較すれば、ベースボディの試乗車は特にボディの剛性感でわずかながら譲る印象。
これには前述の車重も少なからず影響を及ぼしているはずだし、単体で評価すればこちらでも高性能なSUVとして何ら不満はない。だが、どちらがよりポルシェらしい走りを堪能できるかといえば、今回の組み合わせだと個人的にはクーペを推したくなる。もしも、この走りの違いがベースボディとクーペの全般に通じるものだとすれば、SUVらしさとポルシェらしさのどちらをより重視するかが選択の分かれ目になるといえそうだ。
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