【比較試乗】ミドルサイズSUVの電動化は着々と進行中。BEVを積極的に選ぶ理由とは?「メルセデスベンツ・EQB vs BMW・iX3 vs アウディ・Q4 e-tron」

多くのブランドがBEV化に邁進している昨今、その中でもスペース効率に優れるSUVはラインナップが豊富だ。それゆえドイツプレミアム御三家でも主力モデルを用意。ここではEQBとiX3、Q4の実力をチェックしてみたい。

激戦区となりつつある電動SUVマーケット

BEVの選択肢が拡大している。特にプレミアムブランドは、多くが2026年頃からICE車の販売を縮小し、2030年頃には新車販売の大半をBEVとするとアナウンスしている。
最近は「2035年のICE車販売禁止はどうやら難しそうだ」という認識が広まっており、トーンダウンしている感は否めないが、それでも各メーカーはBEVラインナップを着々と拡大している。世界的に人気のSUVは、パッケージング的にバッテリーを搭載しやすいこともあって、急激に増えているのが現状だ。
ボリュームゾーンであるこのクラスのSUVは、中でも激戦区である。ドイツプレミアム御三家も、しっかりBEVの選択肢を用意。ここでは、メルセデス・ベンツEQBとアウディQ4 e-tron、そしてBMW iX3の3台を、多角的に比較してみたい。

MERCEDES-BENZ EQB350 4MATIC/インパネ周りは基本的にGLBと共通だが、エアコン吹き出し口はローズゴールドとなる。AMGライン装着車のシート表皮は、人工皮革/マイクロファイバー。AMGマルチスポークアルミホイールは20インチ。

EQBは、そのルックスから判るとおり、GLBをベースにBEVに仕立てたモデルだ。今回の3台の中で唯一4WDの設定があり、また3列7人乗りである。
Q4 e-tronは、VWグループのBEV用プラットフォームであるMEBをベースに開発されたBEV専用モデル。SUVとクーペスタイルのスポーツバックがあり、どちらも2列5人乗り。駆動方式は、本国には4WDのクワトロもあるが、日本仕様は後輪駆動のみとなっている。
iX3は、そのモデル名のとおり、X3をベースにしたBEV。2列5人乗りの後輪駆動モデルで、本国にも4WDの設定はない。

MERCEDES-BENZ EQB350 4MATIC/5人乗車時の荷室容量は465Lだが、2列目スライドで最大190L増加する。3列目は身長165cm以下限定だ。

バッテリー容量と、WLTCモードの航続距離は、EQBが66.5kWhと520km(EQB250、4WDのEQB350 4マチックは468km)、Q4 e-tronは82kWhと594km、iX3は80.0kWhと508kmである。カタログ数値上は、Q4 e-tronが最も足が長い。
交流電力消費率(いわゆる電費)もQ4 e-tronが145Wh/kmと最も優れており、さすがはBEV専用モデルといったところ。前輪駆動のEQB250も147Wh/kmと、Q4 e-tronとほぼ同等だが、バッテリーが小さいため航続距離は74km短い。iX3は168Wh/kmと、2WDにも関わらず4WDのEQB3504マチック(163Wh/km)より悪く、バッテリー容量の割に足が短い。

BMW iX3 M SPORT/インテリアは基本的にX3と共通デザイン。日本仕様はMスポーツのみで、シート表皮はヴァーネスカ・レザーが標準で、20インチのMエアロダイナミック・ホイールを装着。アダプティブ・サスペンションは標準だ。

これらを鑑みて、実用性の観点で最も優れているのはQ4 e-tron、と言いたいところだが、3列目の乗員は身長165cm以下に制限されるものの、7人乗りを実現している点と電費の良さで、EQB 350も捨てがたい。
パッケージングは、Q4 e-tronが最も高効率という印象だ。全長は4590mmと、3台中最もコンパクトながら、5人乗車時のラゲッジスペース容量は、全長が150mm長いiX3より10L多い520Lと最も大きく、後席スペースも申し分ない。だが、EQBも2列目シートに140mmの前後スライド機能が備わるので、前方に動かせば通常時の465L+190Lに拡大する。
ここまでの話では、Q4 e-tronがベストのように思えるが、クルマとして最も重要なのは、異論を覚悟で言うならば、「走りと快適性」である。今回3台に試乗して、BEVであっても各モデルの走りにそれぞれ個性があることに改めて気付かされた。

唯一4WDを備えるEQBがSUVらしい!?

EQBは4WDの350 4マチックだったのだが、前後2基のモーターの合計で292ps/520Nmと高性能なだけあり、とてもパワフルな加速を楽しめた。シャシーの出来栄えも素晴らしく、ハンドリングもなかなかスポーティ。乗り心地もしなやかでフラット感があり、それでいてコシもある、非常にバランスの良い走りを実現している印象だ。
Q4 e-tronは、20インチタイヤを装着したSラインだ。最高出力と最大トルクは204ps/310Nmで、2.1トンの車両重量に対しては十分以上の動力性能を発揮する。ハンドリングも低重心で前後重量バランスに優れた後輪駆動車らしくとても素直、ステアリングフィールも雑味がなくスッキリしている。

BMW iX3 M SPORT/リアシートは若干フロアの高さを感じる着座姿勢とな

だが乗り心地の点でやや不満が残るのは否めない。路面のうねりや継ぎ目を超える際などに、フロントを軸にリアが跳ねる傾向が強いのだ。19インチタイヤ装着車であれば、そうではないかもしれないが、今回の試乗車の乗り心地は、あまり良好とは言えなかった。
286ps/400Nmを発揮する電気モーターをリアに搭載するiX3は、EQB350 4マチックほどではないものの、十二分な力強い加速を披露。ベースのX3にとても近い、ソフト指向のSUVらしい乗り心地が味わえる。
興味深かったのは、BEVであるにも関わらず、ハンドリングがBMW伝統のFR車を彷彿とさせる感覚であることだ。もちろんバッテリー搭載位置の関係で、低重心感はあるのだが、X3や3シリーズの2WDモデルから乗り換えたら、ほとんど違和感がないかもしれない。

AUDI Q4 40 e-tron S LINE/プラットフォームはMEBを採用し、メカニズムもVW ID.4と多くを共用するQ4e-tronだが、内外装デザインは全くのオリジナル。インパネ周りやシートのデザインには、アウディらしい硬質な上質感が漂う。

しかしベースのX3(G01)が2017年デビューと、登場から時間が経っているためか、他の2台より乗り味に若干の古さを感じたのも事実。走行中に回生ブレーキの効きの強さを調整するパドルが備わらない点も惜しい。
最後に価格だが、今回試乗した3台の中ではQ4 40 e-tron Sラインが728万円と最も安く、EQB350 4マチックは906万円、iX3は922万円と最も高くなっている。
クルマとしての出来栄えを考えると、残念ながらiX3は電費と航続距離があと一歩で、後輪駆動の割に割高な印象は否めない。Q4 e-tronは、たしかに割安感があるが、どうしても乗り心地に不満が残る。ではEQBがベストかというと、468kmの航続距離はたしかに短い。

AUDI Q4 40 e-tron S LINE/Sライン装着車は20インチアルミホイールを装着。荷室容量は通常時で520Lを確保している。

だが現時点でBEVは、まだまだロングドライブに不向きなモビリティである。そう考えれば、最も走りが良く、快適性に優れたEQBを選択するのがベストだろう。しかも4WDなので、ある意味最もSUVらしい選択ともいえる。

POWER TRAIN

MERCEDES-BENZ EQB
EQB 350 4MATICは、フロントモーターが194ps/370Nmリアモーターは98ps/150Nmを発揮。右リアフェンダーにCHAdeMO、普通充電ソケットはリアバンパーに装備する。

BMW iX3
iX3はICE車ベースだが80.0kWhと比較的大きなバッテリーを搭載。リアに備わる交流動機モーターは286ps/400Nmを発揮する。CHAdeMOは右リア、普通充電は左フロントにある。

AUDI Q4 e-tron
MEBプラットフォームやバッテリー、交流同期モーターなど、メカニズムの多くは、基本的にVW ID.4 Proと共通。CHAdeMOと普通充電のソケットは右リアフェンダーに装備する。

【PERSONAL CHOICE】MERCEDES-BENZ EQB
今回の3台から選ぶなら、個人的にもEQB 350 4マチックだ。パワフルでスポーティかつ上質な走りは、頭ひとつ抜けている。ADASやMBUXなど、先進的な装備が充実している点も魅力で、まさに最新メルセデスワールドが味わえる一台。

【SPECIFICATION】MERCEDES-BENZ EQB350 4MATIC
■車両本体価格(税込)=9,060,000円
■全長×全幅×全高=4685×1835×1705mm
■ホイールベース=2830mm
■車両重量=2180kg
■モーター最高出力=292ps(215kW)
■モーター最大トルク=520Nm(53.0kg-m)
■総電力量=66.5kWh
■航続距離(WLTC)=468km
■サスペンション形式=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:235/55R18

問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 TEL0120-190-610

【SPECIFICATION】BMW iX3 M SPORT
■車両本体価格(税込)=9,220,000円
■全長×全幅×全高=4740×1890×1670mm
■ホイールベース=2865mm
■車両重量=2200kg
■モーター最高出力=286ps(210kW)
■モーター最大トルク=400Nm(40.8kg-m)
■総電力量=80.0kWh■航続距離(WLTC)=508km
■サスペンション形式=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:245/45R20、後:275/40R20

問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437

【SPECIFICATION】AUDI Q4 40 e-tron S LINE
■車両本体価格(税込)=7,280,000円
■全長×全幅×全高=4590×1865×1615mm
■ホイールベース=2765mm
■車両重量=2100kg
■モーター最高出力=204ps(150kW)
■モーター最大トルク=310Nm(31.6kg-m)
■総電力量=82.0kWh
■航続距離(WLTC)=594km
■サスペンション形式=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前:Vディスク、後:ドラム
■タイヤサイズ=前:235/50R20、後:255/45R20

問い合わせ先=アウディジャパン TEL0120-598-106

リポート=竹花寿実 フォト=篠原晃一 ルボラン2024年2月号より転載

注目の記事

「ル・ボランCARSMEET」 公式SNS
フォローして最新情報をゲット!